ハンガリー/鉄道部門の年末ストライキ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

中欧・東欧の記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年4月

1999年12月20日、ハンガリー国有鉄道会社(ハンガリー語略称:MAV Rt)の従業員を代表する3つの労働組合(鉄道従業員組合VSL、鉄道運転手労働組合MOSZ及び自由鉄道労働組合VDSZSZ)が、9時間にわたる全国規模のストライキを行った。この労働組合の行動の目的は従業員5万6000人の賃金に関するもので、MAV Rtの経営側が提案した賃上げ率8.5%に対し、賃上げ率15%を支持するために行われた。列車の運行状況は1999年12月20日の晩には通常に戻り、また、ストライキ中に付随事件は発生しなかった。しかし会社の経営側は、ストライキが実施されたことが、8.5%の賃上げ案にすら望ましくない影響を与える可能性があるとしている(注1)

現在のストライキの状況に関連し、政府が、MAV Rtが運営する1023kmの運転を削減する意向であることを述べておく必要があろう。ただし、この政府計画は、当セクターにおいて現在起きている争議のために中止となっている。

ハンガリー経済の中で重要な位置を占める当該公共部門において、なぜ年末にストライキが繰り返されるのか、その原因を認識する必要がある。次の節では、社会的パートナーの間における対立する労使関係の構造的要素を明らかにする。

国有鉄道の事業の再編と労働組合の立場

MAV Rtは、1980年代の終わりには12万人の従業員を擁していた。1990年初頭までは、中核事業(乗客輸送、貨物運送など)及び周辺事業(鉄道施設の整備・開発、車両の整備など)が、この巨大国営企業に統合されていた。しかし1992年以降、いわゆる非中核事業が、法的に「有限責任会社」である110の独立企業体に譲渡、分散化された。この転換のプロセスの中で、非中核事業に従事する従業員の50%が解雇され、この徹底した人員削減により、会社の経営側と従業員の利益を代表する団体、すなわち労働組合とが対立を深めることとなった。ここで注目すべきは、こうした徹底的な人員削減が行われている間、各労働組合が、以下に述べるようなダブル・スタンダード(二重標準)を採用して対応したことである。つまり、組合員が人員削減の影響を受ける心配のなかった組合は、失業した組合員の出た他の労働組合と連帯しなかった。言いかえればMAV Rtの中核部門の従業員で構成された組合(これまでかなりの雇用安定を経験した)と、周辺部門の従業員を代表する組合との間での連帯はみられなかった。この鉄道会社を代表するのは、以下の労働組合である。

  • 鉄道従業員労働組合(VSZ)。当核セクターの60%を代表する。
  • 自由鉄道の労働組合(VDSZSZ)。当核セクターの16%を代表する。
  • 鉄道運転手組合(MOSZ)。当該セクターの12%を代表する。

注:ハンガリーにおける労働組合の代表制は、労使協議会Works Councilsの投票の結果によって決まる。代表組合となり、使用者と労働協約を調印する権利を有するためには、少なくとも10%の票の獲得が必要である。

上記の3つの代表労働組合の中で、VSZのみが、各有限責任会社に分散されたMAV Rtの元周辺部門従業員について、継続雇用の保障及び社会福祉の提供を行うよう要請し、抗議を行った。つい最近、当該鉄道会社における中核事業の再編の結果、10%の人員削減が行われた。このことが、同社のこの事業分野における使用者と労働組合の対立を深めることとなった。人員削減以外には、賃金や労働協約の変更といった問題が争点になっている。これらの争点については、次節で述べることとする。

MAV Rtでは、国家社会主義政治経済体制の崩壊以降、19の労働組合が発足した。こうした労働組合運動の分断は、40年以上にわたった強制・中央集権型の労働組合運動の後の当然の反動である。そしてその40年のうち最後の10年間は、前述の3つの主要な労働組合連合が優位を占めた。この3つの労働組合連合の間には競争や意見の不一致が見られたものの、以下に挙げる問題については、共通の戦略を打ち出すことができた。

  1. 労働協約の締結
  2. 賃上げ闘争
  3. 雇用問題に関する合意

1988年以降、ハンガリー経済の中でもこのセクターは最もストライキが多いという特色を有した。合計18回のストライキが行われ、その大多数(12回)が、従業員のための賃上げと社会福祉の充実を訴えるものであった。13回のストライキで12回が成功し、組合員の要求が満たされた。しかし、1999年1月にVDDSZが行ったストライキは失敗した。その要因となったのは、他の2つの代表労働組合(すなわちVSZ 及び MOSZ)が、この労働組合の行動を支持しなかったことである。

最近の、すなわち1999年12月20日に行われたストライキにおいては、すべての労働組合が一致団結したが、その協力にもかかわらず、同鉄道会社の経営側は賃上げに関する見解を変えなかった。最新の情報によれば、当セクターのこの3つの代表労働組合は、2000年はじめに更にストライキを行う計画であり、他の公共部門(郵便業務、ブダペスト運送会社、地域運送会社など)の労働組合が、MAV Rtの労働組合との連帯行動を進展させている。

関連情報