2000年度賃金協約交渉を巡る動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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「雇用のための同盟」の第5回会談の共同声明により、2000年度の賃金協約交渉開始の前提が整えられたかに見えたが、労働側の先陣を切り、かつその後の労使交渉全体の行方にも大きな影響を与えるIGメタルのツビッケル会長が、共同声明発表の僅か2日後の2000年1月11日に今年の賃上げ要求を5.5%と発表したことにより、使用者側の態度が再び硬化して、今年の労使の協約交渉も予断を許さぬ状況になってきた。

ツビッケル会長は、5.5%の要求額でもって340万人の金属業界の労働者の賃上げと60歳早期年金制の財源の双方を賄うとし、要求の根拠として、金属業界所属企業の業績が伸びていることを挙げ、また物価上昇率1.5%と経済全体の生産性向上3.5%の見積に依拠するとした。これに対して金属連盟のシュトゥムフェ会長は、「雇用のための同盟」第5回会談の共同声明で、労使双方は今年度の賃金協約交渉では経済全体の生産性向上にのみ依拠して妥結を目指すとしたはずで、先の専門家協議会の発表ではこれを2.6%としていたと、IGメタルの要求額を厳しく批判した。

同協議会のみならず、1月初めに6大経済研究所も賃上げに関して意見を出し、それぞれ多少の違いはあるが、賃上げ幅は2%ほどが妥当だとしており、少なくとも1999年の妥結額約3%(一時金を除く)は高すぎたとする点では一致していた。

その後1月19日にシュトゥムフェ、ツビッケル両会長が、2月9日の金属業界の交渉開始前にトップ会談を行ったが、結果としては歩み寄りは見られなかった。

このような IGメタルの高い要求額に対しては、他の使用者団体からも批判が噴出し、建設連盟のイグナツ・ヴァルター会長は、「雇用のための同盟」からの脱退に言及し、産業連盟(BDI)副会長としての立場から同連盟にその旨を図るとの意向を表明した。また同会長は、「雇用のための同盟」の会談において使用者連盟(BDA)のフント会長は余りにもIGメタルに妥協し過ぎていると厳しく批判し、フント会長の使用者側代表としての指導力にも疑問を提起している。この他にも、卸し売り・貿易業連盟や小売業の使用者団体等から使用者連盟に対する同様の批判が出ている。これに対して、使用者側の有力者でIGメタルの直接の交渉相手でもあるシュトゥムフェ金属連盟会長は、「雇用のための同盟」とフント会長支持を表明したが、使用者側で対応が別れる事態が生じたことは注目される。

他方、労働側でも IGメタルの強硬な主張に対する批判が出ている。IGメタルの60歳早期年金制の構想をそのままの形で支持する労組は少なく、特に他の有力産別労組の鉱山・化学・エネルギー労組(IGBCE)のシュモルト会長は、IGメタルは「雇用のための同盟」の1月9日の共同声明にもっと依拠すべきで、IGBCEは今年の協約交渉でも IGメタルよりも低い賃上げ要求水準を掲げるとしている。さらに同会長は、共同声明に基づいて、協約交渉では賃上げのみでなく、高齢者パートタイム、早期年金、労働時間の弾力化、年間並びに生涯労働時間貯蓄も議題として取り扱われるとしている。

この労使双方の反応に対して、IGメタルは5.5%の要求額と従来の主張を変更しておらず、金属業界の2月9日以降の本格交渉とこれと密接に拘わる今後の「雇用のための同盟」の行方が注目される。

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