ホルツマン倒産救済劇余波

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年3月

経営不振に陥り倒産に瀕した建設大手ホルツマン社の救済は、シュレーダー首相の仲介による債権者銀行団と同社の間の政府支出を含む財政再建案によって一応まとまったが、同案に含まれるホルツマン社従業員の賃金カットと無報酬超過労働に関し、建設・農業・環境労組(IG Bau)から産業別労働協約違反であるとの理由で待ったがかかった。そしてヴィーゼヒューゲルIG Bau委員長の妥協を拒む強硬な態度もあり、従業員の負担についてホルツマン社と同労組との間で財政再建のための労働協約の協議が改めて始まり、使用者団体である建設業連盟(ZDB)の承認を要する企業協約の形での合意形成が予定されているが、当初の再建案とは異なる内容の救済案の形成が目指されている。ただそれだけでなく、このホルツマン救済劇を契機として、従来から論じられてきた労働協約と事業所協定をめぐる有利原則につき、各方面で議論が再燃し、一企業の救済劇が労使間の交渉にも影響を与える理論上の問題を改めて提起させるに至っている。

今回改めて問題になったのは経営組織法第77条第3項で、これによると労働協約で通常決定される事項を事業所協定で決めることはできない。例外は事業所協定の内容が労働協約よりも有利な場合で、この場合は事業主と従業員で協定を締結し、事業所の実状に合った取り決めができる(これとは別に労働協約の開放条項利用等の方法もある)。これを有利原則というが、この場合でも有利原則の判断になじむのは賃金額とか労働時間の長短等の具体的事項に限定される。したがって、雇用確保ないし失業救済の為であっても、賃金カット又は労働時間を延長することは有利原則に背反することになる。しかし企業が倒産の危機にあり、従業員が失業に瀕しているときに、これを救済する財政再建案の一環として賃金カットあるいは労働時間を延長することが果して従業員に不利と言えるかは問題であり、実はこの問題は、労働協約よりも従業員に不利な事業所協定であることを理由に産別労組が提訴し、この提訴権が認容された連邦労働裁判所の判決に際しても、使用者団体側や研究者等から問題とされたものであった。今回はこの問題が、ドイツ大手建設会社ホルツマン社の経営危機に際して、ドイツ国内だけでも1万7000人に及ぶ従業員の失業救済という形で先鋭化して現れたのである。

このような中で、建設業連盟からも今後労働協約の開放条項等も含めて、労働協約と事業所協定間の有利原則を再検討すべきことが指摘され、緑の党の労働問題専門家テア・デュッカート氏は、有利原則自体を変更するのではなく、現行法の文言の範囲で有利原則の要件を明確化し、従業員の雇用確保(失業救済)の必要がある等特別な事情に限定して、一定限度で賃金カット等を承認するべきだとし、「雇用のための同盟」でも今後この問題を検討すべきだとしている。

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