政府諮問委員会、「外見自営業者」規定改正案を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:1999年11月

ドイツ労働法上就業者を自営業者と雇用者に区別することは、前者があらゆるリスクを自ら負うのに対して、後者が労働法・社会保険法の完全な保護を受け、特に社会保険加入義務を負うことにおいて重要である。この区別に関し、従来のドイツの通説・判例では、労働の遂行に使用者が影響を及ぼしているかが両者を区別する基準だった。だが、使用者が自営業者に雇用者と同じ仕事をさせておいて、社会保険料支払い義務(労使が折半する)を免れるなど費用の節減をはかり、これによっていわばグレーゾーンに当たる「外見自営業者」が増加して、折からの年金財政の逼迫と共に問題になっていた。そこでこの外見自営業者を雇用者として扱い、これに社会保険加入義務を課するために、SPD 主導の連立政権は選挙公約どおり1998年12月19日に法改正を実現し(社会保険修正及び雇用者の権利保護に関する法律)、4つの基準を設け、そのうちの2つ以上を満たす者を1999年1月1日から社会保険加入義務を負う雇用者(外見自営業者)と見なすとの推定規定を設けた。

4つの基準は以下のとおりである。

  1. 家族を除き、社会保険加入義務のある雇用者を雇用していない。
  2. 規則的に1人の委託者のためにのみ労働する。
  3. 雇用者としての典型的な給付が提供されている。これは特に委託者の指揮命令に服し、委託者の労働組織に編入されているときに認められる。
  4. 事業者として市場に出現して、取引を行うのではない。

これに対しては労働側は支持を表明したが、社会保険料を負担することになる使用者側はもとより、野党も強く反対し、専門家から新法の基準の不備も指摘され、連邦政府は同法の修正をトマス・ディートリヒ前連邦労裁長官を座長とする諮問委員会に諮問し、同委員会は7月の会見に続き、8月2日に報告案を公表した。

報告案の趣旨は、概略以下のとおりである。

現行規定の施行以来、外見自営業者の認定手続きにおいて、委託関係の受託者が事後的に外見自営業者とされて社会保険加入義務があるとされた場合、委託者は受託者に請求される金額のほかに社会保険料を払わねばならなくなり、この危険を避けるために委託者が中小の起業家と委託契約を締結しないという実際上無視できない状況が生じており、このような状況を改善して法的安定性をはかるべきである。また、社会保険料支払いの調査は、取立機関が第一次的に回答期間等を定めて行うべきで、そのためにでき得る限り簡単なアンケート調査用紙を用いてこれを行い、期間内にこれに応じない等違反行為があるときに初めて外見自営業者の認定基準を適用すべきである。

このような趣旨を実現するために、現行規定の調査手続きの簡略化がはかられ、外見自営業者の範囲を認定する基準を修正して、その範囲の限定がはかられた。認定基準の修正については、現行の4つの基準に若干の修正を加え、さらに新たな基準を1つ加えて5つとし、その3つを満たす者が外見自営業者の推定を受けることになる。

修正を受ける現行規定の基準は1、2、3である。

  1. については、家族であっても規則的にかつ月収630マルク(1マルク=57.57円)を超える収入で雇用される者は、社会保険加入義務のある雇用者と見なされることになる。したがってこのような家族を雇用している場合は、外見自営業者でなく、自営業者と認定される。
  2. については、1人の委託者のためだけに雇用されるという関係は、契約成立当初だけでなく、継続されねばならない。
  3. については、その後半部分の要件は紛らわしいので削除される。

新たに加わる5つ目の基準では、従来雇用関係の枠内で活動が行われ、その関係が契約で自営業に変更されたとされる場合、外見自営業者といえるためには、従来の活動が行為の外形上変更されておらず、自営業者の委託契約関係に移行していないといえねばならない。

このような修正案に対して、労働総同盟(DGB)は当初はあくまで現行規定を順守するように主張したが、諮問案の公表後は、現行規定の不備を修正するものとして賛意を表明している。学者も概ね賛成しているが、使用者側の意見は分かれ、使用者連盟(BDA)は外見自営業者の範囲に歯止めがかかったと支持しているが、商工会議所連盟(DIHT)は、外見自営業者の認定において家族は収入の多寡にかかわらずあくまで雇用される労働者に含むべきだとし、修正は不十分だと反対している。また、野党もあくまで反対を表明している。

シュレーダー政権は、10月に諮問委員会がさらに提出する意見をもとに手続き面等をより整備し、今回の諮問案を内容とする新規定を立法化する予定である。

1999年11月 ドイツの記事一覧

関連情報