部門別労働者数と平均賃金

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年10月

スペインの雇用構造を部門別に見た場合、サービス部門で働く労働者の割合は1940年代以降とどまるところなく上昇しつづけ、現在では全労働者の60%以上に達している。逆に農業従事者は減少の一途をたどり、就業人口のわずか7%にまで落ち込んだ。工業は全労働者の20%を擁しているが、近年は減少傾向にある。最後に建設業だが、景気の変動にもっとも左右されやすく、現在の好況局面で著しい雇用創出を見せ、就業人口の10%を占めるにいたっている。

しかしながら、このデータだけでは各部門で働く労働者の熟練度から見た大きな変化が見えてこない。その意味では、特に近年の動きを中心に部門別労働者数の推移を追ってゆくことで、よりいろいろなことが分かるといえる。

過去10年間に労働者数の増加がもっとも大きかったのは燃料資源採掘部門で、同部門での就業者数はほぼ3倍に伸びている。ただし元来労働者数が少ない部門であるため、全体への影響はあまりない。その点、もともと相当数の労働者を抱えており、更に顕著な増加を示した部門が「情報処理・研究開発・その他の企業活動」の名で総称されるグループである。「その他の企業活動」とはあまりにも漠然とした分類だが、生産活動への情報処理技術の導入にともない、投資・開発関連の活動が近年急増しているため、大きく伸びてきている。この部門での賃金労働者数は過去10年間に3倍に増え、約60万人に達している。しかしこのような高い熟練度を必要とする労働者の割合は、他の先進諸国と比べた場合いまだに大幅に劣っている。

不動産部門で働く労働者数の増加も目立つが、これは不動産価格高騰の原因であり、何より結果である。このほか、建設、ホテル業、保健衛生部門、小売業、個人に対するサービスなどの部門で、過去10年間に賃金労働者数が20~60%増えている。つまり、雇用が大きく伸びた部門の中には高熟練・資本集約型の活動もあれば、低熟練・労働集約型の活動もあるということになる。観光への特化が見られるスペイン経済の特徴から、このような一見矛盾した動きがさらに拡大する傾向にある。

賃金労働者数の減少が顕著なのは第1次産業(農業、水産業)である。特に水産業では、スペインの欧州連合への統合協定に基づき、世界最大級のスペイン漁船団の再編が行われたことの影響を大きく受けている。逆に農業部門では、欧州共通農業政策の導入で農業・畜産への多額の補助金が与えられるようになり、またスペイン南部の農業労働者を主な対象とした様々な援助プログラムも実施が始まったため、労働者数の減少に歯止めがかかった。

工業では労働集約型の部門で賃金労働者数が減少しているが、これは人件費がスペインよりも安い国へと生産拠点が移動しているためである。繊維、金属、化学などの成熟した部門で見られる動きである。

以上をまとめてみると、工業部門では過去10年間に労働集約型の部門で雇用の減少が見られたが、産業全体をみると労働集約型の経済活動における労働者数の割合は増えていることになる。サービス部門における労働集約型活動の多くは、ジャック・ドロール前欧州委員長によって「雇用鉱脈」と名づけられているが、欧州資本主義の発展から生れた特徴的な産物であるといえよう。欧州連合および域内各国政府は、深刻な失業問題との戦いの中で、これらサービス部門の新しい活動に期待を寄せている。

部門による賃金の格差はかなり大きく、平均賃金がもっとも高い部門ではもっとも低い部門の3倍近くにのぼる。賃金が高いのはエネルギー資源採掘・生産・供給部門および運輸部門で、これらの部門では賃金は35万ペセタ以上にはねあがる。

逆に賃金が低いのは工業では繊維、家具製造、サービス業ではホテル業など労働集約型の部門で、平均賃金は年毎に定められる職業間最低賃金の2倍程度である。

いずれにせよ、熟練を要する分野での賃金が高く、熟練度の低い分野では賃金も低いという点では、スペインは他の先進諸国と変わりない。ただし部門別の平均賃金の格差は他の多くの欧州諸国よりも小さい。

データによると、賃金労働者数の増加と賃金上昇の間には大きな関係があるように見られる。つまり、労働者数が大きく増えた部門では、賃金上昇率も平均を上回っている。したがって、いくつかの活発な経済部門では、労働力の不足、および企業にとって新たな労働者雇用がどうしても必要となってくることから、労働者側は賃金上昇への圧力をかけることができ、それによってさらにこうした部門の魅力が増すことになる。つまり部門によっては労働力受給の調整能力が極めて高いことが証明されているわけで、その観点から見れば労働市場の一層の柔軟化が重要であるといえよう。

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