大手国営企業人員削減で、雇用対策急務に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年10月

経営難から人員削減や給与削減を行う大手国営企業が増えている。石炭公社では5万2000人の総従業員のうち1万4000人だけが常勤にとどまり、ホワイトカラー労働者には向こう3カ月間の給料半減が伝えられている。また石炭業は生産調整を予定しており、労働者の給料3割削減を発表した。石炭業の失業対策としてグエン・ティ・ハン労働・傷病兵・社会問題相は、失業した石炭業労働者を採用する企業の投資を援助すると述べた。

石炭公社の他にも、杜撰(ずさん)な経営管理、老朽化した設備、余剰人員に悩む国営企業は多く、1998年赤字に陥った鉄鋼公社系の北部タイ・グエン製鉄が今後3年間で約1万3000人の従業員を半減させるほか、肥料、セメント製造業でも多くの一時解雇が実施されている。政府は、これらの国営企業を支援しており、タイ・グエン製鉄には人件費補助や2年間の債務凍結などを行っている。また政府は1999年6月下旬、日本からの200億円の緊急支援の条件とされた会計監査を約100社の大手国営企業に命じ、その結果を共産党、国内投資家、従業員などに報告させることにした。開示情報には支出、固定資産などの他、従業員給料、ボーナスなどが含まれている。しかし経営情報をどこまで開示する義務があるかは、それぞれの企業の事情により異なる。

現在、大蔵省は中小国営企業を対象に進められている株式会社化で170万人の国営企業従業員のうち3万1998人以上が離職しなければならないとしている。1989年から1992年までの国営企業改革では70万人の労働者が退職手当を受けて離職し、さらに1990年の政府決定135/HDBT 号の下で1万2677人が国営企業を去った。これらの退職手当にかかった費用は2100万米ドルに達し、そのうち1200万米ドルは国家予算によって賄われた。しかし中央経済管理研究所(CEMRI:Central Economy Management Research Institute)のレー・ダン・ドアン氏によると、1993年以来、退職金を受給していない労働者が1000人以上出ており、将来も退職金が不足するとみられる。失業者に対する援助として、1992年から1998年まで国家雇用創出基金から約200万人の労働者に総額8万米ドルの貸付がなされたが、雇用創出力に乏しかった。

1999年後半に経済対策の一つとして大蔵省は、教育、スポーツ、体操、医療、芸術活動の諸分野における企業活動に、民間、集団(地域社会)、半官(国の一部参加)が投資した場合、土地使用権料が免除されるほか、税制上の優遇が与えられるとする施行細則を準備中である。これらの企業で働く医者、芸術家、教師などの高額所得者は所得税を免除される。この新たな施策から最初に恩恵を被るのは国営企業であり、政府は7兆4000億ドンを主要経済部門に貸し付ける予定である。国営企業からの円滑な転職を促すため、国営企業で働いていた労働者が民間、集団(地域社会)、半官セクターに移った場合、それまでに拠出していた社会保険から引き続き給付を受けることができる。

先送りできない諸課題と米越通商協定の行方

ベトナムはアジア経済危機の後も通貨ドンへの短期的な信認を損なわずに、過去18カ月間で対米ドル約20%の平価切り下げを行った。経済の国家統制によって通貨危機の直接の影響を免れ、外国通貨準備も安定している。しかし国営銀行が国営企業の再建を援助するなど、巧みに最悪の事態を免れた短期的な政策自体が、長期的に非効率な資源配分をもたらしていることも否定できない。通貨危機以来、政府は鉄鋼やセメントの輸入を取り締まり、輸入信用状への統制を強化し、輸出業者には外貨収入を直ちにドンに交換するよう義務づけた。このため輸入が減少したが、輸入品の大部分は輸出加工業や国内産業などで中間財として用いられるため、輸入額削減には限りがある。中長期的通貨安定のためには、輸出競争力の強化や魅力的な投資環境の整備などに更に力を入れる必要がある。

国営銀行から国営企業への融資が1998年22%増加した一方で、民間企業への融資は11%の増加に留まった。この結果、雇用削減をいくらか隠やかにすることができた。ところが非効率な大手国営企業の経営難が深刻になると同時に、在庫増加の兆候とデフレ懸念が生じつつある。失業は増加しており、チャン・スアン・ザー計画投資相によると農村部で約800万人が失業している。アジア経済への依存度が高いベトナムはアジア経済の回復を待ち望み、1999年7月25日に発表された米越通商協定基本合意で将来の対米輸出増や外国投資の誘致に弾みがつくことを期待している。米越通商協定は米議会での批准審議を経て年内にも発効、米国がベトナムに最恵国待遇を与える見通しになった。米越2国間貿易に限らず、第三国が米国向け輸出品の生産地としてベトナムを選択する可能性も高まることになる。米国との通商協定は、ベトナムの念願である WTO 加盟への必要不可欠の条件でもあり、今後は産業の国際競争力の強化や再編が一層重度な課題となろう。

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