組合のある企業の2001年問題
―ベビーブーマー世代の退職開始年

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年10月

ブルーカラー労働者が多い、組合のある企業では2001年以降、ベビーブーマー世代が55歳になる時期を迎える。通常65歳前後で労働者が引退時期を迎えると考えられているが、組合のある企業で働くブルーカラーの多くは50代半ばで引退しても全ての給付を得ることができる。従って彼らの引退時期に個人差があり、老後の生活に向けた資産の準備状況や労働意欲、さらに健康状態などが引退時期の決定因となる。経済学者の間でも労働者の引退時期が早まる傾向にあるかどうか意見が一致していない。健康な人が多いので引退を遅らせるだろうという意見もあれば、所得が高い人が引退時期を早めるという意見もある。ただし労働統計局(BLS)によれば、退職年齢の低下に歯止めがかかっている。たとえば62歳でまだ働いている男性の比率は、1950年の81%から1985年の51%に低下した後、1998年に54%に上昇した。従業員の引退時期を予想することは難しいため、組合のある企業の人事担当者にとってはコンピュータの2000年問題よりもいわゆる2001年問題、すなわちベビーブーマー世代の大量引退への対処が悩みの種となっている。確かに好況に湧く株式市場のおかげで年金基金の運用に困っている企業は少なくなっているが、退職者の技能を穴埋めできる人材の育成や補強が課題となっている。特に作業現場の高度の技術職では長年の経験を定型化しにくいため、同等の力を持った人をすぐに見つけることは難しい。

組合のある企業の年齢構成は、アメリカ社会の年齢構成よりもさらにベビーブーマー世代に厚みを持ったものになっている。ある研究によれば米国自動車産業の従業員の40%以上が1995年から2003年の間に退職する。このような傾向は特に中西部工業地帯に顕著だが、その理由として、新技術の導入で新規労働者を雇う必要性が低下していること、また伝統的な生産ラインにある工場の多くが何度も一時解雇を繰り返し、そのたびに比較的若い労働者が解雇されてきたことをあげることができる。例えば、インディアナ州コロンバスにあるクミン(Cummins)エンジン社のエンジン工場では組織化された従業員1100人の65%以上が2004年までに全ての給付を得て引退できるが、現在でも35%が引退しようと思えば引退可能な状態にある。退職者の続出による生産ラインの混乱を避けるために、同社は労働組合と協約を結び、90日前に引退を予告した従業員には付加的な生命保険をつけることにした。ただし毎月この特典を得る従業員数に上限を設けている。

UAW 組合員によれば、自動車各社の年金基金の運用が好調であることに加え、年金額が長年低く抑えられてきたことが、全米自動車労組(UAW)などが現在進行中の労使交渉でペンション(年金)を焦点の1つに位置づけている背景にある。その一方で、近い将来に多くの組合員が退職する労働組合の人口構成も直接間接に組合の要求に影響を及ぼしている。

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