EEOC新指針、早くも上級審判決に浸透

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年10月

雇用機会均等委員会EEOC)が1999年6月18日に公表したハラスメント(いやがらせ)に関する指針が一連の上級審判決に影響を与え、ハラスメントに対する使用者責任が拡大されつつあることが明らかになってきた。使用者責任の拡大の方向は1998年にセクシャルハラスメントに関する2つの最高裁判決で打ち出されたが、EEOC 新指針はセクシャルハラスメントに関する使用者責任の基準を他のハラスメントにも適用するとした。この変化が顕著に現れているのは人種に関するハラスメントで、上司がハラスメントに絡んでいる場合に、使用者責任を否定することが困難になりつつある。このため法律家の間には、企業の訴訟費用が増加するため被害者との和解を求めることが多くなるだろうという見方がある。

典型的な人種に関するハラスメントは、有色人種が人種偏見に満ちた罵りを浴びせられたり、仕事の上で白人に対するよりも厳しい要求をされたりするというものである。上級審が逆転判決で使用者責任を回避できないという判断を下した訴訟の中には、職場での人種差別について数年前から争われており、第一審では棄却されていたものもある。今回これらの訴訟に新基準が適用された結果、使用者責任が確定した。その根拠としてまず第1に、会社のハラスメント予防策とハラスメント苦情への迅速かつ適切な対応が不十分であったこと、第2にハラスメントを受けた被害者がその後で降格や権限の縮小を経験したことをあげることができる。

年齢差別については、マーシュ・アンド・マクレナン社傘下に入った、保険ブローカー業務を営むジョンソン・アンド・ヒギンズ社が1999年7月末に EEOC との和解に応じ、同社元取締役13人に総額2800万ドルを支払うことに同意した。EEOC は、同社が取締役を勤続年数により60歳あるいは62歳に強制退職させるとした規則が年齢差別禁止法に違反する(注・民間企業で65歳定年制は高額の退職年金を受ける極めて上級の管理職に対して認められている)として1993年にニューヨーク連邦地裁に同社を訴えていた。裁判所は EEOC に同意していたが賠償額は確定していなかった。EEOC の弁護士は、今回の和解は5指に入る重要な和解であり、いかなる形であれ年齢差別を行うと高い代償を払うことにもなりかねないことを全社会に示すものであると述べている。米国大企業の多くがセクシャルハラスメント対策を喧伝する一方で、人種・年齢などの他のハラスメント防止策は不十分であることが多い。これらのハラスメントについて使用者責任を問われることの無いように、全ての形式のハラスメントについて会社が明確なハラスメント対策を整えることが要請されつつある。なお日系企業では、黒人や女性に採用情報を十分に公開していないとしてトヨタ自動車子会社のトヨタ・ロジスティクス・サービシズが1999年7月9日、EEOC に提訴されている。

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