EEOC指針、ハラスメントに対する使用者責任を拡大

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

EEOC(雇用機会均等委員会)は職場におけるハラスメント(いやがらせ)があった場合の使用者責任について指針を公表した。今回の指針では、使用者の代理人と考えられる上司が部下に対して行うハラスメントについて、どのような場合に使用者が責任を問われるか詳述し、具体的対策のあり方を示している。一方、同僚に対するハラスメントについては従来の指針が適用される。EEOC指針は、最高裁などの裁判所がハラスメントに関して判決を下す際の判断材料にするだけでなく、EEOC調査官がハラスメントの訴えがあった時に参照するため、これまで判決などを通して必ずしもはっきりしなかった使用者責任の所在が今回整理されたことになる。なお、ここでのハラスメントとはセクシャル・ハラスメントに限らず、公民権法第7編(タイトル・セブン)で禁止された人種・性別・肌の色・出身地・宗教・年齢・身体障害などの理由による雇用上の差別で、EEOCはタイトル・セブンを管轄する連邦政府の独立機関である。

1998年の2件の最高裁判決では、もし上司(注・ここで上司と定義されるのは、必ずしも直属の上司ではなく、従業員の労働条盾ノ大きな影響を与えうる実質的権限を持つ者である)が部下に対してハラスメントを行った場合、たとえ経営陣がこれに気づかない場合でも、その上司の脅しやその他のいやがらせが激しい場合や、広く行き渡っている場合には使用者責任があるとした。またこの2件で、もしもハラスメントが解雇・降格・配置転換などの形をとった場合には、たとえ会社が包括的なハラスメント禁止規定を持っていたとしても、会社を相手取り訴えることができるとされた。

今回のEEOC指針は、会社が使用者責任を問われる状況をさらに拡大し、たとえ被害者の給料が変わらない場合でも、昇進機会の喪失、給付の調整、そして任務の変更(必ずしも不利な変更に限らない)などがあれば使用者責任を問えるとしている。

EEOCは使用者がセクシャル・ハラスメントを始めとする各種ハラスメントに関する社内規則を作成、配布、運用するよう推奨している。指針は、ハラスメントを受けたと申し出た労働者が報復を恐れないですむ措置の必要性を強調、また上司自身が加害者である可能性があるため被害者が上司以外の担当者にも被害を申し出ることができるようにすべきであるとしている。具体的には、人事部の中に苦情受け付け窓口を設けることなどが提案された。中小企業では文書の形を取らず、職場の会合でハラスメント禁止規則を説明しても良い。

もし会社が明確なハラスメント禁止規則を持ち、全ての苦情を真摯に受け止めたならば会社側に使用者責任は無いと主張することができる。しかし様々な事情が勘案され、被害者が報復を恐れず苦情申し立てできたか、被害者の苦情申し立てが不十分であった場合に被害者が不合理な行動をとったと使用者側が立証できるか等が問題となる。EEOCへの苦情申し立ては急増しており、例えばセクシャル・ハラスメントの苦情は1991年会計年度の6883件から1998年会計年度1万5618件に増えた。今回の指針は原告に有利な内容になっているため苦情の増加が予想され、この指針に沿って予防措置を速やかに整えることが必要である。

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