企業買収後の401Kプラン不法移管で提訴

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年8月

日本では、2000年度から導入される新企業会計基準で企業年金債務も開示対象になることから、企業の後発負担が生じないアメリカの確定拠出型年金401k プランが注目されている。個人の年金原資の転職先企業年金への移管の容易さも、401k プランの長所のひとつとされ、雇用流動化にふさわしい企業年金と考えられている。ところで、企業が買収された場合、買収される企業の401k プランは買収先企業に円滑に移管されるのだろうか。通常、従業員が大部分の拠出をする401k プランが、企業が買収された際にどうなるかをめぐり、今回、おそらく史上最大規模の訴訟が起き、今後、従業員が401k プランに対して、より慎重な態度を取るのではないかと考えられている。

シグネット(Signet)銀行は、全米第6位の規模の銀行であったが、ファーストユニオン銀行に1997年末に買収された。ファーストユニオン銀行が手数料収入を稼ぐためにシグネット銀行元従業員の確定拠出型企業年金401k 退職プランの資産を不法にファーストユニオン銀行のミューチュアル・ファンドに移したとして、シグネット銀行の元従業員9人が、リッチモンドの連邦地裁に提訴した。シグネット銀行元従業員は、シグネット銀行元従業員約5000人の401k プランの資産が収益の低いファーストユニオン銀行の401k プランに移されたことによる逸失利益として、少なくとも1億5000万ドルの損害賠償を求めている。さらに、金額は不明だが、移管された401k 資産のミューチュアル・ファンド運用手数料の返還をファーストユニオン銀行に要求している。

企業買収後、買収された会社の401k プランの資産の他の資産に移し替える際に、元従業員の同意を得ることを連邦法は義務づけている。しかし、シグネット銀行元従業員の弁護士によれば、ファーストユニオン銀行はシグネット銀行元従業員の同意を全く得ずに資産移管を進めたという。シグネット銀行元従業員は、同行が自ら管理するミューチュアル・ファンドをはじめ、他の2社が管理する計8種類の資産に401k 資産を投資することができた。その401k プランの約20%にあたる5000万ドルが、シグネット銀行から分社したキャピタル・ファイナンシャル株に投資されており、1997年末以来、同株価は3倍以上になった。

しかし、ファーストユニオン銀行が、シグネット銀行元従業員の資産を取り崩し、ファーストユニオン銀行が管理するファンドのみを含む401k プランに移し替えた。そのため、従来キャピタルワン・ファイナンシャル株に投資されていた資金は、移管後、年15%以下の収益しかあげておらず、多額の損失を被むったとシグネット銀行元従業員は主張している。シグネット銀行元従業員は、この訴訟が代表訴訟として扱われるよう求めている。この訴訟で何が起こるか、多くの人々が注目することになろうとアラバマ大法学部のノーマン・スタイン教授は語っている。

1994年以来、1978年の内国歳入法に基づいた401kタイプののプランの資産総額は、確定給付型の老齢退職年金総額を上回っている。1998年には、典型的な401kプランは10の選択肢を持っており、1984年の3投資選択肢から増加傾向にある。さらに、アメリカ・プロフィットシェアリング・401k協会の調査によると、401kプランの9.4%が従業員に無制限の投資先(個別の株への投資を含む)を許しているが、この数字は1990年代初めには4%に過ぎなかった。

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