1999年メーデー
―6月7日総選挙をひかえて

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

6月7日に総選挙をひかえて5月19日から選挙キャンペーンが開始される。選挙活動に呼応するかのように各地で「暴動」が頻発している。目だった動きが見られるのは、独立運動の盛んな東ティモール、北スマトラのアチェ、西パプア・イリアンジャヤである。特に、アチェのロスマウェでは5月3日、分離独立を求めるデモ隊に対して軍からの発砲事件がおこり、28人以上(40人という報道もある)の死亡者が出た模様。アチェでは、一連の暴動に伴うストライキも起きている。こうした動きと選挙活動中の「暴動」に備えて、5月上旬、ジャカルタに8600人の兵士が配備され、その後、警察、民間治安維持部隊(Kamra)を含めて10万人に増員された。

昨年この時期のインドネシアは、政治集会が連日のように開かれ、特にメーデーに因んだ集会・抗議行動の記事は見られなかったが、今年は労働者団体が主催し、労働に関する要求項目を掲げる集会が各地で開かれた。

まず、ジャカルタ、サレンバ通りにあるインドネシア大学のキャンパスにおいて開かれた集会には1000人以上が参加した(この数字はコンパス紙によるが、ジャカルタ・ポスト紙では300人と報道されている)。参加者は西及び北ジャカルタ市にある企業に勤める労働者、学生活動家、弁護士など。この集会を企画したのはKobar(改革行動のための労働者委員会)、Komrad(民主主義のための学生民衆委員会)、SBJ(ジャボタベ労働者連合)からなる Karat(被抑圧民衆行動委員会)である。共催団体として、ジャカルタ法律扶助協会や大ジャカルタ労働者組織も名を連ね、「最低給与額の倍増」「解雇行為の停止」「必需品価格の下落」「労働者組織の結成の自由」などの要求項目が掲げられていた。

昨年来インドネシアでは労組の設立が、少なくとも制度上では自由化されているが、実際には企業側が拒絶したり、組合潰しをするケースも少なくない。こうした企業の行為への反発がストライキに結びつくこともある。4月13日にタンゲランにある繊維メーカー、PT Tae Yung Indonesiaで起こったストは、そうしたケースの一つである。

労働運動が活発化する中、労働者による組織が乱立する傾向にあり、必ずしも運動自体が一枚岩というわけではない。実際、インドネシア大学構内での集会ではインドネシア労働者福祉組合(SBSI)の支持する PBN(国民労働者党)の代表者も参加したが、集会の会場となった大学の周囲に PBN政党の旗を立てたことが、ひと悶着の原因となった。というのは主催委員会メンバーの眼には、これが党の情宣活動とうつったからだ。この集会は政治キャンペーンの場ではないし、PBNはこの集会を主催する委員会に加入入もしていない。委員会はこの集会を企画する段階で PBNに参加を求めたにもかかわらず拒絶された。だから PBNがこの集会に参加したのは非公式なものだ。これが委員会側のコメントである。

ジャカルタ以外でも、メーデーに合わせて抗議行動が行われた。中部ジャワのスマランでは、2500人が参加して以下のような要求項目を掲げていた。月額給料を少なくとも30万ルピアにすること、たやすく解雇されないこと、労働者への暴力をなくすこと、労働問題への軍の不介入、行政から独立したかたちでの労働裁判所の設置、1993年に起きたマルシナ事件解明である。因みに中部ジャワではこの4月だけで4万4000の職が失われたとされている。

5月2日には、独立労働者協会に所属する大ジャカルタ首都圏の労働者が、ジャカルタ市内を行進して、セナヤン・スポーツ・コンプレックスにあるホールに集った。彼らは蝋燭を手にして、メーデーに因んだ歌を合唱した。

こうした、スト、暴動の起こる最中、生活必需品の供給体制への不安から買占めの行動が顕著になってきている。特に、「スンバコ」(本誌1998年6月270号参照)と呼ばれる生活必需9品目価格上昇が不安の種となっている。まず、4月下旬に食用油の価格が15%程度上昇するというかたちで現れた。その後食用油の価格は持ち直したものの、1年前の政権交替劇の経験から現供給体制への不信感が根強くあるようだ。これに対してジャカルタ州の食糧問題担当大臣 Saefuddin 氏は、選挙期間中の食料供給は万全だという声明をだしている。

なお、総選挙キャンペーンは5月19日から6月5日の2週間半にわたって行われ、6月28日までの開票作業を終え、遅くとも7月8日には各議員が任命される予定。

総選挙に参加することが決まっている公認48政党のうち、労働者の利害を代弁するのは次の4つ。

労働者連合党(PSP)/党首・デディ・ハミッド/社会正義の実現、労働者とその家族の政治への切望を通じて結集された福祉の実現を目的とする。

国民労働党(PBN)/党首・トハップ・シマンカリット/SBSI 系の政党・民主主義を基調として民衆の繁栄と正義を実現する。

全インドネシア労働組合党(PSPSI)/党首・ラシディ/FSPSI 系の政党・労働者の権威のために努力する、労働者とその家族の福祉の実現を目的とする。

インドネシア労働者党(PPI)/党首・ボクハ/労働者の質と専門性の向上を目的とする。

但し、SBSI の議長ムフタール・パクパハン氏は出馬しない。なぜなら、ILO の多くの代表者は、パクパハン氏が第二のワレサになることを望んでいないからである。

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