財政危機感、峠を越える

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

1月中旬に為替の大巾切り下げを実施して以来、1カ月の内に中央銀行総裁は2人交代し、自由為替制度へ移行と同時に、国内通貨は一時50%以上切り下げて、ブラジルはロシアに続き、世界を危機に巻込むのではないかと、世界中から注目された。国内ではまた以前の混乱時代へ逆もどりする心配が強まっていたが、ようやく明るい徴候が見え始めた。2月にIMFとの第二次財政再建協定が成立して以来、政府の財政再建意欲を認めた外資が融資を再開した結果、政府とIMFが協定した為替安定が目標以上に早く、ドル安市場となり、国内通貨が安定し、金融界に安心感が戻って、年間45%という世界有数の高い金利も先物市場では、3月末日には39%、4月半ばには34%へ下がり、今後も大巾に下がる徴候を見せている。

外資の融資再開は輸出融資にも拡大されており、為替切り下げで有利となった輸出を支援するものとして期待されている。また為替切り下げ直後は、3~4月ごろにインフレは爆発的上昇を起して、猛インフレ時代に戻り、すべての物価や給料がインフレ率に同調して、自動的に調整される、いわゆるインデクセーションに逆戻りすると騒がれたが、3月半ばから物価は下がり始めて、インフレが進む心配もなくなり、これも大きな安堵感をもたらした。物価安定手段として、無理な国内通貨高政策をとり、安価な輸入品によってインフレを抑え、国内製品に国際競争力をつけさせる努力を強いていた結果、競争力が弱い自動車部品、電子電力関係、繊維工業、製靴工業などの大量倒産と、大量失業を出したが、為替切り下げ後は、輸入品が最低でも30%高くなったために、急に国産の需要が高まり、解雇計画中止、場合によっては新規採用などが発表され始めており、3~4月は暗黒と見られていたものが、短期間の内に転換した。

もしブラジルがロシアに続いて危機に陥った場合は、国際経済に与える影響はさらに大きいと見て、IMF、世銀を始め、先進22カ国がブラジル救済を申し合せ、国際銀行も支援に回って、ブラジルの国際収支救済条件を作ったことが、短期的に回復期待を持つようになった最大の理由である。ブラジル政府の努力も、過去の歴代政権に比べて、評価されている。

国内的には、必要な国家の改革に抵抗する政界や公共部門、国家緊急事態に同調しない政界や司法の特権拡大工作など、様々な問題が未解決のままだが、その抵抗の中で、財政改革、構造改革と、わずかずつでも前進が見られ、国民の間にも、増税とリセッションの犠牲は、無駄ではないという見方が持たれている。1998年までは国家財政の改革というと、計画は立てられても、必ず増税と国民に対するサービス削減だけで、政府部門の改革は、絶対に政治が許さなかった。今回は、世界22カ国がブラジル支援に回っており、IMF指導のもとに国際的な責任感があり、1994年からのレアル計画以来、国民が経験した経済安定という生活の安らぎが脅かされているという危機感が世論となって、政府の改革を後押ししている。

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