「家庭と無理なく両立できる労働条件」を求め始めた労働組合

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

これまで労働組合は賃金や雇用保障を巡って活動してきたが、家族や家庭を犠牲にせずに働くための労働条件を粘り強く主張することは少なかった。しかし、最近では事情が変わりつつある。全米自動車労組(UAW)は3大自動車会社との労働協約は1999年9月に期限が切れるが、UAWは、雇用保障、下請け外注の制限や賃上げなどの主要要求目標に加え、子育てや労働時間の短縮などを以前よりも頻繁に主張するに違いないと見られている。UAWのエリザベス・ボンド副委員長によると、UAWは最近、労働・家庭班(labor-family unit)を設け、労働協約に伝統的に含まれていない、これらの事項について新たな成果を勝ち取るため、産業を越えた戦術調整を行なっている。既にUAWは自動車業界で、3カ所に24時間営業の託児所を自動車産業から勝ち取ったが、それらを利用できる人数が限られているため、より低い費用で実現可能な、託児所や老人養護施設の設置などを要求している。

カリフォルニア州に位置する非営利研究機関である、「働く家族のための労働プロジェクト(Labor ProjectFOr Working Families)」のファイアスティン所長によると、「各企業は従業員の家庭生活に配慮しているという定評を得たいので、話し合いの内容が外部に知れ渡ることの多い労使交渉に、企業が誠意をもって臨む可能性が高い。したがって、労働組合が家庭生活関連の要求をすることに戦術的な意義がある」という。なお、同プロジェクトはインターネットのホームページで、全米各地の労働組合がどのような好労働条件を勝ち取ったかを紹介し、成功体験の共有を図っている。このホームページに紹介された事例集は、アメリカ労働総同盟産別会議(AFL-CIO)の働く女性部(Working Women:s Department)と共同で作成されている。紹介されている事例は、フレックスタイム、パート労働者の医療給付、ジョブ・シェアリング(2人の労働者が1人分の仕事をし、常勤労働者1人が獲得できる各種給付や先任権を労働時間に応じて2人分かち合う)などである。この他、残業に上限を設けたり、残業を前もって予告することを労働協約に盛り込む例がある。

女性を中心に広がったこの流れによって、より広範な層の人々が労働組合に参加する可能性がある一方で、労組要求の多様化から、純粋に経済的な要求が二の次になり、雇用保障や賃金など、中低所得ブルーカラー労働者の切実な要求への求心力を労組が持ち得なくなることも考えられる。

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