労使協調の失業対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

ブラジル連邦政府は2月10日、車両メーカー代表および金属労組代表らと会談し、IPI(工業商品税)の引き下げを決定した。これを受けてサンパウロ州政府もICMS(商品流通税)を現行の12%から9%に引き下げた。これにより四輪車両の販売価格は10%から11%安くなる公算が強く、低迷を続ける自動車産業は活路を見出せそうだ。政府との会談を終えた自動車工業代表と金属労組代表は、一様に政府決定を高く評価し、当面の課題である解雇問題を回避できると期待している。

減税が解雇問題を回避でき、労組のイニシアチブで行われたことに意義があるとこの成果をマスコミは賞賛している。この成果は次の事情が背景にある。年明け早々サンベルナルド・ド・カンポ市(サンパウロ周辺都市)にあるフォード自動車工場が年末の集団休暇中、5800人の従業員の中から2800人に解雇通知を発表したが、地域の金属組合は解雇通知を全く無視する形で従業員全員を同工場に出勤させた。従来怠業や罷業のストライキはあったが、労働者が「われわれに仕事を」という逆目的の姿勢で一致行動をとったのは初めてのケースであった。解雇された者もそうでないものも何事も無かったように、工場施設を大切にし従業員全体の規律を保持した。会社側も解雇を無視して出勤してきた者を阻止しようとはせず、従業員はそれぞれの職場についたが、燃料を始め部材が補給できず、日産600台の目的は果たせず、作業時間を繰上げ終了した。フォードの場合1997年に日産1100台、1998年に700台、1999年に500台と生産台数を縮小する計画を打ち出しており、労組も解雇撤回を要求できる条件に無かったのが実状である。同業のG.Mや家電工業も解雇を行っており、従来のような工場器物の破壊、放火などもなく、有利な世論の背景づくりを意図したものと思われる。

全国紙(FOLHA)の発表によると、サンパウロ州統計局の発表では1998年の失業者は月平均159万人で、経済労働対象者の18.3%の高水準となった。カルドーゾ政権が発足した1994年から1998年まででは48%増であり、当局では1999年も改善の材料がなくさらに失業が増加すると見ている。

過去10年の平均は、1988年9.7%、1989年8.7%、1990年10.3%、1991年8.7%、1992年9.1%、1993年14.7%、1994年14.3%、1995年13.2%、1996年15.2%、1997年16.0%。

ABC金属労組のマリンニョ委員長は、この措置で販売が伸びることになり、少なくとも向こう90日は失業の心配が解消されるとの見方を示した。自動車工業連盟(ANFAVIA)のピネイロス会長は、新販売価格について言及を避けたが、残念ながら12月の値上げ幅11%は回避するよう指導を受けたことを明らかにした。1998年は1万3000人を解雇したが、1999年はさらに4000人の人員整理が必要との見解を示し、今回の措置で販売が伸びれば解雇は回避したい意向であることを表明した。ともあれ、労組のイニシアチブで工業税、商品流通税の減税となり、世論を味方にして強制解雇を回避するなど労組の成長がうかがわれるが、失業対策に真剣に取り組んでいる政府の姿勢も評価されて良いだろう。

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