「非労働時間」の短縮

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

過去10年間を振り返ると、労働時間の減少が見られると同時に「非労働時間」も減っているのがわかる。1991年には年間労働時間は1700時間を超えており、「非労働時間」の方もほとんど300時間近くにのぼっていたが、1997年になると労働時間は1675時間と1.8%減、「非労働時間」は250時間で15.8%短縮している。

ただし、この間コンスタントに減少が進んだわけではない。1991年から1994年にかけては減少は断続的で量的にも10時間以下だったが、1994年以降は景気回復とあいまって年間5%をこえる時間短縮が見られた。

正当な理由に基づく欠勤の中で大部分を占めるのは、年次休暇によるもので、労働法では、あらゆる労働者は年間30日の有給休暇をとる権利があるとされている。それだけでなく、有給休暇日数は集団協約で合意が見られればさらに延長することができるので、部門あるいは地域によって休暇がより長くなる可能性もある。たとえばホテル業界の労働者では年次休暇は40日にのぼっており、管理職の一部でも個別の雇用契約交渉で希望する休暇日数を認められているケースがある。

年次休暇による「非労働時間」は、1991年より16%の短縮が見られる。具体的には年間133日から109日に減っている。全般的には余暇が長くなるのが大きな傾向だが、このような「非労働時間」の短縮の原因は、ひとえに期限付き雇用契約の増大にある。この種の雇用契約は期間が短いため、休暇をとるかわりに出勤すれば、通常の賃金と同じかそれ以上の報酬を得ることが法律で認められているからである。他方パートタイム雇用は、1998年末の法改正までパートタイム労働者の休暇に関しては明確な規定がなく、これも「非労働時間」短縮の一因となっていた。

年次有給休暇は夏季の7月から8月にかけてとるのが慣習となっているため、「非労働時間」は年の第3四半期に集中する傾向がある。

有給休暇の次に多いのが国の祭日である。これは年間12日が義務づけられているが、そのうち4日はそれぞれの自治州が定める祝日とおきかえることができる。時間的には労働者1人あたり年間で88.7時間にのぼる。以上に加えて、各市町村ごとに2日ずつ祭日をもうけることができる。

祝祭日に続いて、一時的労働不能(短期間の疾病)および産休(年間37.5時間)が「非労働時間」の第3の理由である。法律では出産した女性に対し、3カ月の有給休暇が保証されている。

このほか量的には少ないが、組合活動も「非労働時間」の一部をなしている。労働争議による「非労働時間」は、労働者1人あたり年間で1991年の2.5時間から1997年0.6時間へ、労組代表活動も同様に2.5時間から1.9時間へと大きく減少している。一方、企業・行政当局ともに労働者の職業訓練・向上に力を入れるようになっており、統計の上でも反映されている。

部門別では、工業部門での「非労働時間」が労働者1人当り年間290時間ともっとも長く、続いてサービス業の240時間、建設業の216時間となっている。この差は、部門ごとに労働組織における柔軟化の度合いが異なるためである。大工場では労働者の権利要求を可能にするメカニズムがあるが、サービス業や建設業では企業の規模が小さい上に期限付き雇用形態が多用されるため、必然的に「非労働時間」は短くなる。

これは企業規模に着目してみると明らかである。労働者数250人をこえる工場では、労働者1人当りの年間「非労働時間」は287時間以上にのぼるが、労働者1人~10人の工場では220時間前後どまりである。特に大規模工場では一時的理由による欠勤が77時間であるのに対し、小工場ではわずかに31時間となっている。

地方別では、アストゥリアスが「非労働時間」がもっとも長い地方で、289時間となっている。アストゥリアス経済の支柱は鉄鋼業と鉱山だったが、現在では工業の衰退の危機に見舞われている地方である。アストゥリアスと似た産業構造を持つバスクでも状況は同じで、「非労働時間」は281時間にのぼる。逆に「非労働時間」がもっとも少ないのは、スペインでもっとも豊かな地方といわれるバレアレス諸島である。バレアレスは観光業への依存が圧倒的に大きい特殊な経済構造を持ち、夏場の経済活動は特に活発である。労働者1人あたりの年間「非労働時間」は、わずかに187時間である。

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