セーフティーネット・プログラムの実施遅れる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

世界銀行が主導した外国資金提供者が出資したソーシャル・セーフティーネットプログラム(社会的弱者援護計画)は、貧困層が経済危機を乗り超えることができるように企画され、1998/1999会計年度(4月~3月)には少なくとも17兆7900億ルピアが振り当てられている。ところが、プログラム実施は遅れ気味である。世界銀行のインドネシアへの援助資金を公務員が流用したという報道もあったため、ハビビ大統領は1998年に大統領を出してプログラムの実態把握のための監視団を発足、調査させていた。

1月11日に調査結果を報告した同監視団のMar'ie Muhammad委員長は、援助金配分の実施責任が1998年9月に中央政府から州政府に移ったため、セーフティーネットプログラムの実施が遅れていると述べた。これは、新たに援助金配分を行うことになった地方の公務員が失敗を恐れて慎重すぎる資金配分をしていることによる。しかし同委員長は、地方公務員もやがて新しい変化に対応できるようになると見ている。同監視団のGunawan Sumodiningrat副委員長によると、これまでに同プログラムの1998/1999年会計年度分資金の約30%が配分されただけであるが、これは単なる実施の遅れによるもので、プログラムの実施にあたり収賄などの事実は発見されなかった。新たに導入された地方分権的な包括補助金制度は、上記のように順調に機能しているとは言い難いが、官僚的な旧方式よりも各地域の必要に柔軟な対応ができ、職権濫用の機会を減少させる効果があると同副委員長は考えている。さらに、1999/2000会計年度の同プログラムの規模は約20兆ルピアになるだろうとした。

また、1月13日の閣議でA. M. Saefuddin食料問題国務大臣(State Minister of Food and Horticulture)は、貧困層対象に進められている安価な米の販売の実施状況について報告した。1998年12月までに対象者1750万人の38.9%にあたる680万人だけが、米を1キロあたり1000ルピアで買い受けた。しかし同国務大臣は、これまでに登録されていなかった地域にも安価な米の販売を広げ、当初の目標である1750万人に米を行き渡らせることができると確信している。一方ファミ労働相は、失業問題克服のためいくつかの労働集約的事業を実施しており、これまでに少なくとも1560億ルピアを公共事業に費やしたと報告した。

なぜ貧困対策が機能しないのか

インドネシア大学人口問題研究所の貧困問題専門家Siti Oemijati Djajanegara氏は、貧困が経済的理由だけで起きるのではなく、文化的、社会的理由からも起きると強調し、政府が国民の生活状態について誤った情報を使っていることが貧困撲滅を遅らせている一因であると以下のように分析している。とりわけ、スハルト政権下で多くのデータが情報操作されていたことを忘れてはならず、中央政府を喜ばせるために地方の公務員がしばしば楽観的な情報を送っていたため、実態把握を怠っていたという事情がある。そのため現下の不況にあっても、全ての団体は急に悪化した貧困状態について迅速な行動をとらないで、対策の遅れを他の団体のせいにしている。スハルト政権下で「行動」という言葉はほとんど聞かれず、中央政府の完壁な貧困撲滅理論を実行に移す段になると、関係者は何もしないことが多かった。これまでのソーシャル・セーフティーネット・プログラムでも実際の貧困者の人数を把握しておらず、多くの官僚は村ごとに何が必要であるかわからないままプログラムを運営しているため、非効率なものにとどまっている。

貧困が起る理由を根本的に理解するためには、現地を訪れ人々の生活や伝統的な価値を知る必要がある。村の中で誰が貧困に陥っているか、一見しただけではわからないこともある。貧困者の定義も村ごとに違う。例えばOemijati氏が貧困度を適切に反映していると感心した定義は、ある西ジャワの漁村で村民から貸し付けや助けを受けられない人々を最も貧しい人々とするものである。この定義は、経済的理由だけではなく、社会的、心理的な援助を受けられないことが貧困をもたらし得るという貧困問題の多面性を認識するために、外部の人間が見落としがちな側面を的確にとらえている点で注目に値する。

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