基礎情報:ドイツ(2013年)
3. 能力開発・キャリア形成支援

3-1 初期教育訓練

初期職業訓練は、デュアルシステムによる訓練と全日制職業学校訓練がある。中核を成すのは「デュアルシステム(二元的制度)」である。デュアルシステムは職業学校に通いながら、主に企業において実践的な職業訓練(2~3年半)を受ける制度である。

若者や企業に参加義務は課せられていないが、若者の過半数が訓練に参加し、訓練費用は企業が自発的に負担している。若者にとっては失業リスクを減らすことができ、企業にとっては必要な技能労働者を確保できるという利点がある。

企業での職場訓練を希望する若者は、職業学校の生徒でありながら、企業と職業訓練契約を締結して訓練生手当を受け取る職業人としての一面も持つ。なお、企業での職業訓練は、新聞広告やインターネット、企業説明会などを通じて若者自身で確保する必要があるが、連邦雇用エージェンシー傘下の職業情報センター(BIZ)がその支援を行っている。

資料出所:JILPT(2012)「資料シリーズNo.102, 諸外国における能力評価制度

若年のキャリア形成及び就職支援

学校における職業教育・職業体験

普通教育における職業指導

職業活動体験は、ハウプトシューレ(基幹学校)では生徒の義務。レアルシューレ(実科学校)、ギムナジウムでは希望者による任意。職業体験の分野は、レストラン、郡役所、旅行代理店、運送会社、動物保護施設など多岐にわたっている。

※ハウプトシューレ、レアルシューレ及びギムナジウムは、いずれもグルントシューレ(日本の小学校に相当)修了後に入学する中等教育期間。

フレッシュマン支援

開始年月:
2008年8月30日
管理運営主体:
連邦労働社会省、学校
対象者及び適用要件:
若年者に新たに訓練ポストを提供する事業主
具体的内容:
普通教育課程から職業訓練への移行過程における若年者に対する個別支援の強化を目的として、全国1,000校において、卒業後の準備指導や職業適性判断、職業オリエンテーリング、職業訓練への移行などに関する学生支援を行っている。

各種職業学校

上級学校非進学者の多数が、職業学校(Berufsschulen):デュアルシステムの学校側における職業コース、職業専門学校(Berufsfachschulen: BFS)、専門学校(Fachschulen: 貿易・技術学校)に進んでいる。

養成訓練制度その他の訓練制度

職業養成訓練生制度(養成訓練制度(Ausbildung))=デュアルシステム

開始年月:
19世紀初頭
管理運営主体:
企業及び職業学校(Berufsschulen
対象者及び適用要件:
年齢制限はなく、基幹学校(ハウプトシューレ)を修了した者が多く参加するが、ギムナジウムから参加する者もいる。社会人や高等教育を終了した者も参加できる。義務教育(9~10年間)を修了していなくとも、門戸は開かれている。 16~24歳の若年者(25歳以上の者を対象とする制度もある)
具体的内容:
若年者を主対象に、企業がその職場で実施する職業訓練と、職業学校等の教育機関での学習とを同時に行い、良質な若年技能労働者を養成する。事業主は養成訓練生との間で職業訓練契約を結び、職業訓練を施す。ドイツの若年者の職業生活への移行に際し、長期にわたって主柱を担っている。

職業訓練ボーナス制度

開始年月:
2008年8月30日
管理運営主体:
連邦労働社会省
対象者及び適用要件:
若年者に対して新たに訓練ポストを提供する事業主
具体的内容:
義務給付
(事業主に職業訓練ボーナスの請求権が発生するもの)
2007年もしくはそれ以前に普通教育課程を修了または中退し、2007年もしくはそれ以前から連邦雇用エージェンシーに登録して職業教育機会を探し続けていた者のうち、
特別学校(聾唖学校など)修了証や基幹学校(ハウプトシューレ)修了証を有する者、
または何ら修了証を有さない中退者で、
  • (a) 長期にわたって職業教育機会に恵まれない者、
  • (b) 学習能力が劣るか、社会的に不利な境遇にある若者
―に対し、職業訓練法、手工業法及び会員法に定める職種において新たに職業教育機会を提供する事業主に支給。
 
裁量給付
(連邦雇用エージェンシーの裁量により給付が認められるもの)
2007年もしくはそれ以前に普通教育課程を修了し、
  • (a) 2007年もしくはそれ以前から連邦雇用エージェンシーに登録して職業訓練機会を探し続けていた実科学校(レアールシューレ)修了者、
  • (b) 2年以上職業訓練機会を探し続けていた後期中等課程修了者、
  • (c) 職業訓練を提供する事業主の倒産・廃業・閉鎖により職業訓練の中断を余儀なくされた訓練生で、本人に問題があって訓練機会のあっせんが困難な者
―に対し、職業訓練法に定める職種において新たに職業訓練機会を提供した事業主を対象として、連邦雇用エージェンシーの裁量により支給。
 
※ 職業訓練ボーナスの支給は、試用期間終了時点および修了試験申込時点の2回に分けて行われる。ボーナス給付額は、訓練生への報酬に応じて4000ユーロ、5000ユーロ、6000ユーロに区分される。この助成金の対象は、遅くとも2010年12月31日までに開始した訓練に限る。特例として、倒産等で失職した若年者の訓練については、2013年12月31日までに開始された訓練について、このボーナスが存続する(社会法典第3編421r条)。

情報提供をはじめとする就職支援

仕事に関する博物館

バーデン-ヴェルテンベルク州のマンハイムには、州立の「技術と労働の博物館」がある。同館では、繊維技術機械工業の発達、自動車製造、科学と電気技術、エネルギー、鉄道と道路、技術と医学の7領域の技術史をコンセプトに、働く人々の生活と技術を体験・検分できるよう展示が工夫されている。

また、バイエル州ミュンヘンにある「ドイツ博物館」は、農業、鉱業、航空工学から、鉄道、機械、宇宙に至るまで、ドイツの科学技術を若い世代に引継ぎ、学ばせるための博物館である。

これらの施設では、若年者を含め、人々が職業に対する具体的なイメージを持つことができるよう工夫がなされている。

職業情報センター(BIZ)

各所の公共職業安定所に付属されたセンター。若年者を顧客の中心として、職業養成訓練や学業、継続訓練などについて相談・情報提供を行っている。

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3-2 継続教育訓練

継続職業訓練は、初期職業訓練修了者や社会人等を対象としている。さらなる職業能力の向上を目的とした「向上職業訓練(Fortbildung)」と、従来と異なる職種に就くために必要な職業能力を取得するための「再教育訓練(Berufliche Umschulung)」がある。企業内訓練や成人教育(生涯教育)も広い意味で継続職業訓練に含まれる。また、ドイツの伝統的な職業資格として名高い「マイスター資格」取得のための職業訓練も、継続職業訓練に含まれる。マイスター資格は 2 種類あり、一つは「手工業マイスター(Handwerksmeister)」、もう一つは「工業マイスター(Industriemeister)」である。前者が世界に知られる「マイスター」で、後者は工場等で監督者として働く専門訓練を受けた技能労働者を指す。多くの手工業マイスターは、資格を取得した後に初めて独立営業が許可され、その資格は徒弟の訓練指導者も兼ねていることから、社会的位置付けは高い。なお、中世から続く手工業マイスター制度は、今日ではその初期段階である徒弟修業部分がデュアルシステムと融合している。

在職者訓練

在職者に対する職業訓練の促進策には、社会法典第3編(SGBⅢ)に基づく助成制度として以下のようなものがある。

操業短縮時における職業継続訓練受講者への助成

操業短縮期間中に継続職業訓練を受講する従業員は、公共職業安定所(AA)に申請して助成を受けることができる。助成の範囲は職業資格を保有していない従業員に対しては100%、既に職業資格を有する従業員に対しては25~80%の部分的支援を行う。

職業転換(失業者)訓練

職業転換/再教育訓練(Berufliche Umschulung)は、現在の職種では就労が困難な在職者ために、他の職種への転換を可能とするものとして規定されている(「職業訓練法(BBiG)」第1条第5項)。「職業訓練法(BBiG)」第58条~第63条に具体的に規定されている。

3-3 能力評価(資格)制度

ドイツでは、教育修了資格とともにデュアルシステムやマイスターなどに代表される独自の職業教育訓練資格制度が、能力評価と連結している。この背景には、資格取得にいたる訓練内容や試験内容を、政労使を含む関係者全員の合意のもとに構築していることや、時代の要請に応じて適宜、訓練職種の見直しや訓練内容の変更を実施していることが挙げられる。このような関連政策の策定にあたって、利害関係者との調整を行い合意形成に中心的な役割を果たしているのが教育研究省(BMBF)所管の職業教育訓練研究機構(BIBB)である。そのほか、資格と能力評価の分野に関しては、教育研究省(BMBF)、経済技術省(BMWi)、労働社会省(BMAS)、連邦雇用エージェンシー(BA)、州政府、地方自治体政府など複数の管轄組織が関与しており、中央政府と地方政府の役割分担など複雑に絡み合っている。こうした現状の中で、BIBB は全ての関係者をとりまとめ、意見の収集、政策の実施に大きな力を発揮している。

職業資格認定法の成立

2012年4月1日に「職業資格の認定に関する法律案」(Anerkennungsgesetz)」が施行された。同法は、移民がドイツ国外で取得した各種の学位や職業資格について、ドイツ国内での認定手続きの簡略化及び適正な認定方法を規定するものである。 同法の成立により、約30万人のドイツ国外で取得した高度の資格を有する移民や、特に高度の資格を有しながらドイツ国内で自ら有する資格以下の職業に就く者、仕事に就けない失業者らが、今般の法律規定を根拠として認定手続きを希望すると見込まれている。これらの者にとっては、就労の機会が広がり恩恵を受けることになる。また高度人材を求める企業にも役立つと見られている。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ドイツ」