基礎情報:ドイツ(2013年)
2. 雇用・失業対策

2-1 公共職業安定制度

職業紹介等は、全国ネットワークの公共職業安定機関が直接実施している。求職者は、所轄の公共職業安定所の担当者と相談の結果、支援が必要だと判断された場合には、職業相談に加えて、紹介された仕事へ応募する際の諸費用、交通費、IT関連機器費用等が助成金として支給される(任意給付)。

資料出所:厚生労働省「海外情勢報告」

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2-2 労働者派遣制度

ドイツにおける派遣労働は、主に1972年に成立した労働者派遣法(AÜG)によって規定されている。72年の施行後は、主に規制緩和の流れの中で発展してきた。近年最も大きな制度改正がなされたのは2002年のハルツ改革の時である。その時の主な改正点は以下の通り。

  • 派遣期間制限(上限24カ月)の撤廃
  • 派遣労働初日からの均等待遇原則(同一労働同一賃金)の導入

派遣労働者は、原則派遣期間中に賃金を含む主要な労働条件ついて派遣先の同等の正規労働者と均等に処遇されなければならない。但し、「労働協約」と「直前に失業していた者」に対する例外規定がある。

  • 派遣期間と雇用期間の一致の禁止(Synchronisationsverbotの撤廃)

派遣元が派遣期間と同じ期間だけ派遣労働者を雇用することを禁じる、いわゆる「登録型派遣の禁止」が撤廃された。

  • 再雇用禁止の撤廃

同じ派遣労働者と何度も労働契約を締結することができる。撤廃前は、派遣労働者の再雇用は原則禁止(1 度だけ規定を免れることは可能)だった。

  • 建設現場における派遣制限の縮小

派遣元と派遣先を対象に、一般拘束宣言された労働協約が容認している場合、業者による派遣が可能(以前は建設現場の派遣は禁止されていた)。

以上の大幅な規制緩和は、派遣労働の雇用可能性を開拓するという目的で実施された。これにより企業にとって派遣労働の重要性が増大し、以後数年間は経済が好調だったこともあり、2004年から2008年にかけて派遣労働者数は倍増した。


動向 派遣労働者に対する最低賃金導入(2012年1月)

ドイツには、日本のような法定最低賃金が存在しない。業種ごとに賃金の下限を決め、その労働協約を拡張する仕組みがとられている。

2011年に労働者派遣法(AÜG)が改正され、派遣労働者に対して最低賃金を適用する新たな仕組みができた。また、同年4月に、派遣業界団体BZAとBAPが合併して人材サービス業者全国使用者連盟(BAP)を結成。このBAPとドイツ労働総同盟(DGB)の労働協約を拡張する形で2012年1月から派遣労働者に対する最低賃金が導入された。導入当初の金額は、東部7.01ユーロ、西部7.89ユーロで、11月にはさらに、東部7.50ユーロ、西部8.19ユーロに引き上げられた。有効期限は2013年10月31日までとなっており、派遣会社の所在地(国籍)にかかわらず、ドイツ国内で働く全ての派遣労働者に適用される。対象労働者数は約90万人と見られる。

資料出所:JILPT報告書(2011)「諸外国の労働者派遣制度(PDF:1.7MB)」、JILPT国別労働トピック記事

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2-3 失業保険制度

ドイツの失業保険制度は、大きく分けて「失業給付Ⅰ(ALGⅠ)」と「失業給付Ⅱ(ALGⅡ)」がある。

制度名:
失業給付Ⅰ(ALGⅠ)
根拠法:
社会法典第3編(SGBⅢ)「雇用促進」
被保険者:
65歳未満の者
受給要件:
  • 失業中であること
  • 公共職業安定所(AA)に失業登録し、少なくとも週15時間以上の仕事を探し、すぐにAAの職業紹介に応じられること
  • 失業給付の権利取得期間(離職前2年間に通算12か月以上保険料を納付)を満たしていること
給付水準:
従前の手取賃金(法律上の控除額を差し引いた賃金)の60%(扶養する子がいる者は67%)
給付期間:
失業する前の被保険期間によって異なる。
  • 12か月以上:給付6か月
  • 16か月以上:給付8か月
  • 20か月以上:給付10か月
  • 24か月以上:給付12か月
  • 30か月以上で50歳以上:給付15か月
  • 36か月以上で55歳以上:給付18か月
  • 48か月以上で58歳以上:給付24か月
財源:
社会保険料(賃金の3.0%、労使折半)。不足した分は政府負担となる。
管理運営主体:
連邦労働社会省が監督し、連邦雇用エージェンシー(BA)が運営。保険料徴収は疾病金庫が実施。
  •  ※特定の条件を満たした短期有期労働者は、失業手当へのアクセスが緩和される。
受給要件:
  • 主に社会保険加入義務があり、10週間以下の有期雇用であること
  • 過去12か月の報酬が社会法典第4編18条1項に基づく基準支給額(2012年、月額2,625ユーロないし年額31,500ユーロ)未満であること
給付期間:
その他すべての条件を満たす場合、6か月に短縮された以下の受給資格期間が適用される(2014年12月31日までの時限措置)。
  • 被保険期間が6か月以上:給付3か月
  • 被保険期間が8か月以上:給付4か月
  • 被保険期間が10か月以上:給付5か月

資料出所:厚生労働省「海外情勢報告」、連邦労働社会省

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2-4 補足的な失業扶助制度

制度名:
失業給付Ⅱ(ALGⅡ)
自己資金がわずか、もしくは全く持たない就労可能者に対して、最低生活水準を保障するために必要な給付を行う。
根拠法令:
社会法典第2編(SGBⅡ)「求職者のための基礎保障」
受給対象者:
就労可能で生活に困窮している者。
受給要件:
  • 15歳以上65歳未満であること
  • 1日3時間以上は就労できる者であること
  • 本人および本人と生活する者が、本人の能力と資金では生活するために必要となる額を、十分に満たすことができない要扶助状態にあること
給付水準:
給付基準額(2013年1月1日以降)
  • 単身者、ひとり親、未成年のパートナーがいる者:月額382ユーロ
  • 満18歳以上(成人)のカップル:1人につき345ユーロ
  • 25歳未満で、需要共同体(BG)において生活する者:306ユーロ
  • 14~17歳:289ユーロ
  • 6~13歳:255ユーロ
  • 0~5歳:224ユーロ
財源:
連邦政府の一般財源(税金)及び地方自治体の一般財源(税金)
管理運営主体:
連邦雇用エージェンシー及び地方自治体

資料出所:厚生労働省「海外情勢報告」

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2-5 困難な状況にある者に対する施策

ドイツでは、かつては若年者の労働市場への参入促進のため、高齢者の早期引退を推進していた。しかし、老齢年金の65歳から67歳への段階的引き上げ(2012年から2029年まで)の実施や、景気回復による技能労働者不足の深刻化などを背景に、高齢者の就業を促進する方向にある。ただ、現在は、2008年の世界金融危機、その後の欧州債務危機を経て、類似や利用の少ない労働市場政策の削減・統合が進んでいる。例えば、中高年労働者向け、若年労働者向けなど、6種類にわかれていた統合助成金(事業主が失業者を採用した場合に事業主に支給される助成金)を統合した。また、長期失業者、若年失業者を公共の利益に資する就労のために雇用する地方自治体や企業などに対して必要な助成を行う雇用創出措置(ABM)は、利用が少ないため廃止された。

高齢労働者の賃金保障(EGS)

失業給付の受給残日数が120日以上、手取賃金(月額)差額が50ユーロ以上ある50歳以上の失業者が再就職する場合、失業前の手取賃金の差額の一部(1年目50%、2年目30%)が補填される。2年間受給可能。2012年1月1日以降は、それ以前に請求権が発生した場合のみ支給され、遅くとも2013年12月31日に終了する。

労働機会提供(1ユーロジョブ)

各種給付を受領しつつ、就職しない者を早期に労働市場に参加させるために導入された制度。労働習慣がなくなった長期失業者に対して、僅少ながら手当を与えて就労経験をさせ、失業状態から脱却させることが目的。主に市町村での福祉の作業などに従事。なお、失業給付IIを受給する25歳以下の若年失業者がこれを拒否すると、最悪の場合、失業給付の全額の支給が停止される。

これまで年間10億ユーロの予算が投入されてきたが、早期再就職という本来の政策目的と異なり、いつまでも1ユーロジョブにとどまり正規労働への移行が進まないとの批判があった。そのため、1ユーロジョブの対象となる失業者への措置として、今までは利用制限はなかったが、2012年により、5年間で24カ月間までの利用制限が課されることとなった。また、1ユーロジョブ対象者を提供する福祉団体等には、今までは措置費用として対象者一人当たり最大500ユーロが一括金として支給されていたが、150ユーロに削減された。

資料出所:厚生労働省「海外情勢報告」

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2-6 年齢に関する法制度(定年等関係)

根拠法令:
一般雇用機会均等法(AGG)など
施行年月:
2006年8月
定年制:
可(65歳以上)
  • 65歳未満定年は、それが当該定年到達時から3年以内に締結された合意に基づくものであるか、または同3年以内に労働者によって追認されるかした場合を除き、原則として65歳定年とみなされる(社会法典第6編(年金保険)第41条2文)。
高齢者の解雇に対する特別な保護:
不当解雇された労働者が、元の条件で職場復帰できない場合、和解金が支払われる。対象者が50歳以上の場合、和解金が上乗せされる。

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2-7 障害者雇用対策

根拠法:
社会法典第9編(SGB Ⅸ)
対象者:
  • 重度障害者(障害の程度50以上の者)
  • 重度障害者とみなす者(障害の程度が30以上50未満で、障害が職業上影響を及ぼす場合)
  • 障害が重度でない青年及び若年成人を加える(2004年「重度障害者職業訓練就労促進法」制定に伴い新たに対象となる、障害のある若者の職業訓練や職業あっせんに力点)
雇用主への規制:
法定雇用率は、民間部門・公的部門ともに5%。雇用率の対象事業所は、従業員20 名以上の企業及び公的な部門である(社会法典第9 編71 条1 項)。法定雇用率未達成の場合企業は納付金を納付する。なお、中小企業については、従業員規模に応じて納付金額を軽減する規定が置かれている。
手続き等:
負担金の徴収方法
  • 州の社会統合事務所が、雇用率の達成状況により、負担調整賦課金を事業主から徴収する。
  • 障害者の作業所に仕事を委託した事業主は、請求された金額の50%を負担調整賦課金から控除できる。
 
助成方法
  • 州の社会統合事務所は、負担調整賦課金の20%を連邦の負担調整賦課金基金に納付。州の社会統合事務所は、負担調整賦課金を用いて、障害者の必要に応じて職場を改築したり設備を整備したりする費用や、障害者を雇用するために特別に大きい支出を必要とする場合の費用等に助成する。
  • 連邦に納付された負担調整賦課金は連邦雇用機構に必要な財源に充当。

資料出所:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター(2012年4月)「調査研究報告書 No.110, 欧米の障害者雇用法制及び施策の動向と課題

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ドイツ」

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