基礎情報:タイ(2005年)

基礎データ

  • 国名:タイ王国 (Kingdom of Thailand)
  • 人口:6,526万人 (2004年3月 内務省)
  • 実質GDP成長率:6.1% (2004年、NESDB)
  • GDP:1,635億ドル (2004年)
  • 一人あたりGDP:2.521ドル (2004年)
  • 労働力人口:3,528万1,000人 (2005年第1四半期)
  • 就業者数:3,405万人 (2005年第1四半期)
  • 失業率:2.5% (2005年第1四半期)

資料出所:タイ内務省統計局、タイ投資委員会(BOI)、タイ中央銀行、国家統計局、在タイ日本大使館資料

I.労働関係の主な動き

1.概況

経済回復は概ね順調であり、政府は従来の輸出主導に加えて国内需要も経済の牽引力とした持続的成長の確保を目指す一方、貧困撲滅と所得の拡大による草の根レベルでの国内経済の強化を目指している。タクシン政権における一連の景気刺激策の結果、好調な内需と民間投資の拡大により、経済は回復基調に乗っていると言ってよい。

他方2004年12月に発生したインド洋大津波は、タイにおいても多数の犠牲者を出し、観光業、漁業等地域経済へ甚大な影響を与えた。しかし、タイ経済全体への影響は限定的で、今のところ全体の経済成長に大きな翳りは見えていない。1997年のアジア通貨危機から10年近い歳月が経ち、バンコク市内では当時建設が途中で中止となったビルに再び建設会社の手が入っている。高架鉄道(BTS)や新聞にも、新築マンションやコンドミニアムの広告があふれ、タイでは小さな建設バブルが起きているとも言われている。

こうした好調な経済情勢を受け、労働市場は概ね安定している。特にバンコク等都市部では上記の建設業をはじめとする様々な分野で労働需要が再び伸びている。これに伴い、外国人労働者の流入数も増加している。一方、労働力輸出先の台湾では、出稼ぎ労働者の賃金等をめぐるトラブルで暴動が発生するなど、出稼ぎ労働者の労働者保護が問題化している。

2.最低賃金の改定

2006年1月1日より各県の最低賃金が改正された。地方分権の流れを受け、従来よりも細分化された各県別の最低賃金額となっている(表1)。最高額はバンコク首都圏の184バーツ(日額)、最低額は北部のナーン、パヤオ、プレー県の140バーツとなっている。

表1:タイの最低賃金額(日給) 2006年1月1日改訂版

表1:タイの最低賃金額

出典:BangkokPost、2005年12月号

表2:タイの労働指標(1995-2005年)

表2:タイの労働指標

出典:タイ国家統計局HP(http://www.nso.go.th新しいウィンドウ)

3.インド洋大津波による観光業での雇用不安

2004年12月26日にスマトラ沖で発生した大津波は、タイ南部の6県で大きな被害をもたらした。被災住民は1万2000世帯、5万3000人以上、死者は5374人(タイ人1795人、外国人1787人、不明1792人)、行方不明者は3132人に上った。津波の災害発生時は観光シーズン中であったため、観光業へ大きな打撃を与えた。ホテルの建物崩壊、客室稼働率の大幅な低下、宿泊のキャンセルなどが相次ぎ、収益の損失は数十億バーツに上ると推計されている。観光業に従事していた労働者の雇用不安も懸念され、約50万人とも言われるホテル・関連業界の従業員が失業する恐れがあるとも報道がなされた。また、沿岸の漁業も大きな打撃を受け、漁船の大破に直面した。漁業に関しては、2005年の原油高が漁民の生活に更なる悪影響を与えた。被災地での経済・社会的、また環境的インパクトは大きかったものの、2005年後半には観光の活気も戻り、西洋人を中心とした観光客数も回復傾向となった。

4.社会保障制度の整備・拡充

ポピュリスト政策と批判も大きいが、30バーツ医療制度(2002年~)、失業保険(2004年~)、社会保障基金(SSF)の再整備といった一連の社会保障政策が着実に整備され、労働者のソーシャルセーフティネットが構築されつつある。

4年目を迎えた30バーツ医療制度は、すでに適応範囲も歯科やHIV/AIDSへの治療も含まれ、国民健康保険的な役割を担いつつある。タイの全労働者の約4割が農民でインフォーマルセクターの労働者が多いことから、先進国型の国民健康保険に匹敵する制度を確立することは困難と言われていただけに、制度が定着してきたことは評価できることであろう。今後は、財政的な面でより現実的な制度に再整備させていく必要があるとの声がある。

またSSFも、基金を30バーツ医療制度と統合するなどの案が浮上しているが、すでに安定した基盤を持つ公務員基金と統合することは、慎重なプロセスが必要となってくると見られている。

5.海外出稼ぎ労働者の労働者保護問題

2005年8月、タイ人の海外出稼ぎ先で最も人数が多い台湾で暴動事件が発生した。台北の鉄道会社に出稼ぎしていたタイ人労働者300人が、集団で暴動を起こし、会社の設備に危害を与えたというものである。事件の全容が明らかになるにつれて、台湾の雇用主がタイ人労働者に提示していた労働条件や労働環境が非常に劣悪であったこと、そのために労働者の不満や精神的ストレスが非常に大きかったことが明らかになり、台湾国内はもとより、タイ国内でも外国での出稼ぎに関する問題を再認識する必要性があるとの認識が高まった。更に、タイ人労働者を保護する側であるタイ政府関係者が、労働者の仲介料を搾取していたことも分かり、大きな波紋を呼んだ。特に出稼ぎ労働者が多い北部と東北部の労働局の担当者が、約1700人分の出稼ぎ労働者の仲介料を水増しして請求していたことが明らかとなっている。

現在台湾で就労しているタイ人は登録済みの労働者で約55万人、不法就労を含めると約100万人程度と言われている。いまだ法整備が十分でない台湾においてタイ人労働者に対する、公平な仲介料金の設定、仲介業者への監査、労働権利の確保などが課題となっている。

6.反タクシン運動の盛り上がり-首相、退陣へ

2005年10月より、新聞社オーナーのソンティ氏とタクシン首相の対立が深まり、ソンティ氏を中心としたグループによる倒閣運動が展開された。ソンティ氏は首相と親族の不正疑惑や、強権的な政治体制を次々と追及し、都市部の知識者層・中間層の支持を集めている。首相はソンティ氏に対して、名誉毀損で裁判を起こしていたが、12月の国王誕生日の席で国王のスピーチで裁判取り下げを諭され、これに従った。12月に入ると、ソンティ氏が中心となったグループらが倒閣デモ、集会を実施。2006年1月には首相の自社株売買取引にまつわる疑惑で、再び運動が過熱。3月には6万人の労働者が首相の退陣を求めデモを実施した。

バンコクでは反タクシンの動きが強まったが、地方においては首相のポピュリスト的政策である30バーツ医療制度、一村一品運動(OTOP)、農民債務取り消し、SME融資などに続き、東北部ロイエット県での貧困撲滅モデル事業が大規模に展開された結果、農村部での支持は根強かった。愛国党政権は、このように人口の大部分を占める農村部への保護を強化し支持を得ることに成功はしたが、他方で都市の労働者に対しての政策が手薄であったため、中央の労働者支持離れが進んでしまったものと見られている。3月のデモでは、都市の労働者層に加え、野党民主党の支持基盤である南部のイスラム系住民も参加。南部の長引く治安不安に対して、現政権が有効な政策を講じられないことに対する不満も背景にあったと見られている。

そんな中、タクシン首相はついに4月4日夜、政府庁舎で記者会見し、辞任することを表明した。6月のプミポン国王即位60周年記念式典に向けて国の結束を訴え、「国王のために辞任する」と説明した。国王に辞任を強く促されたものと見られている。首相の辞任を受け、5月2日に総選挙が行われたが、野党がこれをボイコットしたため、愛国党が圧倒的多数の議席を獲得した。しかし、国王はこの結果を民主的でないと批判、総選挙のやり直しとなる可能性が強まった。政治的混乱が続いているもののすでに野党は首相退陣という所期の目的を達しており、次回選挙に参加すれば、事態は正常化に向け大きく動き出しそうだ。

出所:

  1. 国際研究部海外委託調査員武井泉

参考資料:

  1. 海外労働情報2004年1月号から12月号
  2. 海外委託調査員(研究側)レポート2004年1月から12月
  3. 海外労働情勢2003年から2004年
  4. 外務省ホームページ「資料:タイ第九次国家経済社会開発計画概要」
  5. Economic Corporation Strategy Report(Thai Government,2004)
  6. Thai National Statistical Office "Labor Force Survey 2004"

参考:

  1. 1米ドル=114.87円(※みずほ銀行ホームページ(2006年6月22日現在のレート参考)
  2. 1タイバーツ=3.00円(※みずほ銀行ホームページ(2006年6月22日現在のレート参考)

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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