基礎情報:タイ(2003年)
基礎データ
- 国名:タイ王国(Kingdom of Thailand)
- 人口:6279万9872人(内務省、2002年)
- 実質経済成長率:5.4%(2002年)
- GDP:1265億ドル(2002年)
- 一人あたりGDP:1993ドル(2002年)
- 労働力人口:3548万3000人(2003年第4四半期)
- 失業率:2.4%(2002年)
- 日本の直接投資額:614億円(2002年)
- 日本の直接投資件数:52件
- 在留法人数:2万8776人(2003年)
資料出所:外務省、タイ国内務省統計局
2003年の主な動き
2001年に成立したタクシン政権は、2001年9月に「第9次国家経済社会開発計画(2002年から2006年)」を閣議決定した。第9次計画では、通貨経済危機以降の財政赤字解消のほか、貧困の撲滅、所得格差の是正に開発目標の重点が置かれている。また、この計画では、国王が示す「足るを知る経済」思想のもとに生活スタイルを発展させつつ、経済、社会、政治および環境の調和を目的とすることが共通の理念として示されている。開発戦略としては、人的資源、社会保障、農村及び都市の発展、環境の保全、経済政策の強化と国際競争力の確保、科学技術の強化などが提出されており、2003年の諸政策もその計画の方針のもとに決定された。
2003年の経済成長は、年始にタクシン首相が6%成長を目標とすることを表明したものの、緊張感の高まるイラク情勢と戦争勃発に伴う石油価格の高騰、SARSの影響により5.4%にとどまった。
しかし、コンピューター、IT産業、通信分野は好調で、労働市場はそのような状況を反映し、2003年の失業率は低下傾向を推移した。タクシン政権の農村での雇用創出プログラムも効果を発揮した。1995年から2002年までのタイにおける労働関係指標の推移は下記の通りである。
1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Round1 (Feb) |
Round2 (May) |
Round1 (Aug) |
Round1 (Nov) |
|||||
労働力人口(千人) | 30814 | 31165 | 32890 | 30270 | 32810 | 32971 | 33210 | 32652 |
失業者数(千人) | 549 | 498 | 729 | 1311 | 1716 | 1759 | 986 | 1070 |
失業率(%) | 1.7 | 1.5 | 2.2 | 4.4 | 5.2 | 5.3 | 3.0 | 3.3 |
2000 | 2001 | |||||||
Round1 (Feb) |
Round2 (May) |
Round1 (Aug) |
Round1 (Nov) |
Q1 (Jan.-Mar.) |
Q2 (Apr.-jun.) |
Q3 (Jul.-Sep.) |
Q4 (Oct.-Dec.) |
|
労働力人口(千人) | 32994 | 33266 | 33973 | 33342 | 33212 | 33494 | 34488 | 34060 |
失業者数(千人) | 1418 | 1363 | 813 | 1224 | 1582 | 1188 | 896 | 829 |
失業率(%) | 4.3 | 4.1 | 2.4 | 3.7 | 4.8 | 3.5 | 2.6 | 2.4 |
2002 | ||||||||
Round1 (Feb) |
Round2 (May) |
Round1 (Aug) |
Round1 (Nov) |
|||||
労働力人口(千人) | 33495 | 33988 | 34970 | 34594 | ||||
失業者数(千人) | 1083 | 976 | 616 | 616 | ||||
失業率(%) | 3.2 | 2.9 | 1.8 | 1.8 |
出所:国家統計局(NSO)HPより
注:1995-98年の数値は、各ラウンドの平均値。タイの労働力統計は、1971~83年は年2回(1-3月と7-9月)、1984~97年は年3回、1998~2000年は年4回、2001年からは毎月ごとの統計となっている。
2002年10月の省庁再編に伴い、タイ労働・社会福祉省は、1.労働省と2.社会開発・人間保障省とに2分された。社会開発・人間保障省は、総理府や旧労働・社会保障省が担当していた社会福祉や婦人、青少年、高齢者行政部門を統合したものとなった。
2003年の労働分野の主な動きとしては、社会保障制度、外国人労働者問題で、経済社会状況にあわせたかたちでのいくつかの改正が行われた。
1. 社会保障等に関する変更
(1)社会保険料の拠出分担の変更と30バーツ健康保険制度の実施
タイの社会保障制度は、1990年に社会保障法が成立し、疾病、出産、障害、死亡、児童扶養、老齢および失業に対して給付を行うことが規定されている。社会保障政策は、通貨危機以降、経済構造改革の一方でのセーフティネット政策として急展開している。
タイにおける医療保険は、社会保障法に基づく医療保険、公務員を対象とした健康保険制度が従来からあるが、2002年2月から「30バーツ健康保険制度」を導入されたことで3本柱により構成されることになった。
社会保険法にもとづく医療保険では、財源は、雇用主と被用者の保険料と政府からの拠出により構成される。それぞれ3者は被用者の賃金の1.5%を負担することになっている。しかし、98年から2003年の間は、経済情勢を考慮して各1%を負担することとなっている。給付は、診察費、治療費、入院看護費、医薬品費等の現物支給と現金支給にわけられる。
この社会保険法に基く医療保険では、農民や低所得者はカバーされない。そこで、すべてのタイ国民は30バーツ支払うことで、年間1100バーツまでの治療を受けられるという低所得者層を中心とした医療保険制度が「30バーツ医療保険制度」である。この制度は2002年2月以降、全国的に展開しており、農村の低所得者も、初診料30バーツを支払うことで、年間1100バーツまでの医療サービスが受けられることになった。2003年は、この30バーツ医療制度との統合による社会保険医療制度の全国民をカバーする医療保険の展開が検討されたが、草案内容への反対などもあり、いまだ成立には至っていない。
(2)失業保険制度の成立
2003年の失業率は、2%前後を推移するという低さながら、失業保険制度の確立は懸案であった。90年に社会保障法が成立して以来、社会保障基金制度は、1.障害、2.死亡手当、3.医療手当、4.出産手当、5.児童手当、6.老齢手当、7.失業手当から構成されているが、失業手当については措置が実施されていなかった。2003年4月28日の閣議で、2004年1月1日からの保険料の徴収についての勅令が許可された。この決定により、91年の社会保障法の提出する7つのパッケージのすべてが実現したことになる。
失業保険の拠出負担は、政労使の三者で行うが、政府が0.25%、労使がそれぞれ0.5%を負担することで合意された。
この失業保険制度の概要は以下のとおりである。(海外労働情勢2002年から2003年版より)
対象事業所
社会保険適用事業所(1人以上)
支給対象者
次のいずれかに該当するものであること
- 過去15カ月間に6カ月以上保険料を納付したこと
- 懲戒的な解雇以外の非自発的離職者及び自発的離職者であること
- 雇用事務所(公共職業安定所)で求職活動を行っているものであること(職業紹介、訓練を正当な理由なく拒否した場合には無資格となる)
支給率
- 解雇による失業者:前職月あたり賃金の50%を180日間。
- 自発的離職者:前職月あたり賃金の30%を90日間。
受給機関
上限180日間(自発的離職者は90日間)
保険料
使用者、労働者とも給与の0.5%分を徴収。初年度については、政府が焼く82億バーツの基金を創出し財源とする。
運営
社会保障基金での運営を予定。
ちなみに、社会保障基金制度による使用者の拠出負担は、全体で給与の8.5%であるが、2003年1月からは、労働者の技能訓練のための「技能開発基金制度」も発足しており、さらに拠出負担は1%増えることになっており、その負担増加の影響が懸念されている。
(3)貧困者支援政策としての低所得者への住宅供給開始
バンコク中心部の日雇い労働者および低所得者を対象として、住宅供給プログラムが開始された。「コンタイへのGHB住宅ローン」とよばれ、政府住宅銀行が従来のローン対象外労働者層に対して貸し付けを行うようになった。ローンは、一人あたり上限110万バーツ、返済期間は30年、初年度の利子は3.75%、2年目4.75%、3年目5.75%、4年目以降は0.75%ずつ利子が上昇するという仕組みで設定された。タイ政府は、2007年までに60万戸のコンドミニアム建設を目指す。
2. 2003年の最低賃金
経済の好調をうけて、2003年の最低賃金は、1から8バーツ引き上げられた。主のチョンブリ、ラヨンなど東部臨海工業地域での引き上げが目立つ。県別の最低賃金は以下の通りである。
都・県名 | 引き上げ額(バーツ) | 新最低賃金(バーツ) |
---|---|---|
バンコク・ナコンパトム・サムットプラカン・パトンタニ | 4 | 169 |
ノンタブリ | 2 | 167 |
チョンブリ | 4 | 150 |
サラブリ | 5 | 148 |
ナコンラチャシマ | 2 | 145 |
ラヨン | 8 | 141 |
アユタヤ | 6 | 139 |
クラビ | 5 | 138 |
ランプーン・スコータイ | 4 | 137 |
ブリラム・ペッチャブリ | 4 | 136 |
カンチャナブリ・カラシン・カンペンペット・チャンタブリ・チュンポン・チャイナート・トラート・ナコンパノム・ナラティワット・プラチンブリ・ペッチャブン・ ラチャブリ・ソンクラー・シンブリ・スラタニ・ノンプアランプー・ウダイタニ | 2 | 135 |
ナコンヨック | 1 | 134 |
出所:BangkokPost、2002年12月20日。
3. 外国人労働者をめぐる雇用政策
2003年のタイの経済は、タクシン政権の経済緊急パッケージの効果により、他のアジア諸国と比較しても好調で、労働市場も先述のとおり堅調を維持した。SARSの影響にもかかわらず、2002年に比較しても好調であった。
タイでは合法な外国人労働者は、弁護士やサービス産業における専門職に加え、農業技術者などを含む技能職である。労働省によると2003年はおよそ98243人が登録された。
一方、技能のない労働者は不法入国労働者であるが、隣国であるミャンマー、ラオス、カンボジア等からの不法流入が後を絶たない。4月のSARS対策会議では、タクシン首相は、ミャンマー、ラオス、カンボジアとの間で便益を共有しえる関係を築くための共通戦略を確認した。タイ政府は、タイ国内に何百万人もの不法移民を就労させるのではなく、近隣諸国内で雇用を創出し、所得を得られるようにすることが重要であるという戦略を推進している。この流れの中で、政府は、不法移民対策として、登録されていない移民労働者の存在を確認して、就労ビザを2004年9月まで更新していく方針である。
11月には、タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアとの4カ国による経済協力戦略会議をミャンマーで開催し、「バンガム宣言」を採択した。4カ国による経済協力戦略(ECS)では、1.国境貿易が拡大する中で国際競争力を促進すること、2.経済利益のより有利な分野において農業生産や一般製造の動向を促進すること、3.近隣4か国における雇用創出と所得格差の解消、4.平和、安定と富の促進と維持などを主要目標として掲げている。
また、タイから海外で働く労働者の存在も無視できない。タイ人労働力は、アジア市場では、建設業、土木業、サービス業に従事している。中国、ベトナムなどからの労働者との国際労働市場での競合から、海外出稼ぎ労働者への職業教育訓練サービス実施が唱われているが、その具体的対策が待たれている。
参考資料:
- 海外労働時報2003年1月号から12月号
- 海外委託調査員(研究側)レポート2003年1月から12月
- 海外労働情勢2002年から2003年
- 外務省ホームぺージ「資料:タイ第九次国家経済社会開発計画概要」
- Economic Corporation Strategy Report(Thai Government, 2003)
- Thai National Statistical Office "Labor Force Survey 2003"
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- 基礎情報:タイ(2003年)
- 基礎情報:タイ(2002年)/全文(PDF:816KB)
- 基礎情報:タイ(2000年)
- 基礎情報:タイ(1999年)
※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
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