基礎情報:ドイツ(2005年)

基礎データ

  • 国名:ドイツ連邦共和国 (Federal Republic of Germany)
  • 人口:約8,245万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:0.9% (2005年)
  • GDP:2兆2,440億ユーロ (2005年)
  • 一人あたりGDP:2万9,594ユーロ (2005年)
  • 労働力人口:4,156万4千人 (2005年)
  • 就業者数:3,878万3千人(2005年)
  • 失業率:11.7% (2005年)
  • 実収賃金:2,542ユーロ (2005年、製造業、平均グロス月収)
  • 労働組合組織率:22.6% (2003年)

資料出所:(組合組織率)Monthly Labor Review January、
University of Amsterdam 欧州統計局(Eurostat)、
(その他)ドイツ連邦統計庁、ドイツ連邦雇用エージェンシー

I.労働関係の主な動き

1.統計データ

(データのうち、出所の断りのないものはドイツ連邦統計局の発表による数字である)

a.経済指標

2005年は、経済成長率(実質GDP成長率)が0.9%となり、04年の水準(1.6%)には及ばなかったが落ち込みは軽微であった。成長の柱は、昨年以降一貫して輸出であり、輸出の伸びは05年の経済成長率を0.7ポイント押し上げている。これに対し、内需の押し上げ効果は0.2ポイントに過ぎない。

05年の一人当たり国民所得は2万400ユーロで、前年と比べ1.6%の伸びであった。その増加の要因は、給与所得の伸びではなく、資産所得の増加によるものである。

b.労働市場動向

ドイツ連邦雇用エージェンシー(BA)の発表による05年の年間平均失業者数は486万3000人(対前年比48万2000人増、千人単位)であり、失業率は11.7%と、前年の10.5%から1.2ポイントもの高い伸びを示した。この増加の主な原因は、ハルツ第Ⅳ法、すなわち社会扶助制度(生活保護に相当)と失業扶助制度との統合が05年1月から実施され、従来社会扶助を受けていた「就労能力のある」人の一部が失業者にカウントされたことにある。この、いわゆる「ハルツⅣ効果」は38万人とされる。

05年における失業者の東西の内訳は、西地域324万6000人(失業率9.9%、対前年比46万4000人増加)、東地域161万7000人(失業率18.8%、対前年比1万8000人増加)で、東地域の失業率は西地域の2倍の水準である。東地域の対前年比の増加が一見少ないように見えるが、BAは「東部ドイツでは同時に就業者数も西に比べ急激に減っている」と説明しており、東地域の雇用情勢が厳しい状況は続いていると見られる。

失業者の男女比は、男性261万2000人、女性225万1000人。年齢層別に見ると、25歳以下の失業者が61万2000人で、前年と比べ10万8200人増と目立った動きを示している(対前年比増加率21.4%)。

c.賃金・労働条件

連邦統計庁によると、雇用労働者のうち事務職員層を対象とした労働協約で定める月当たり賃金は、05年に対前年比で1.3%増加した。また、現業労働者層を対象とする労働協約で定める週当たり賃金は、前年と比べ1.2%増加した。この増加率は1995年以来、最も低い数字であるとされている。

05年に支払われたすべての賃金総額は9090億ユーロで、対前年比0.3%の減少だった。税・社会保険負担等を除いた実質賃金はプラス0.1%と、前年に比べわずかに増加した。

2.労働関係の主な動き

a.労使関係

05年は、金属産業や公共サービスなど主要部門の賃金協約改訂交渉を翌06年に控えて、比較的穏やかな年となった。IGメタル(金属産業労組)は06年2月末の賃金協約の期限切れを前に、05年12月に賃上げ要求水準を5%とする方針を固めている。

なお、ドイツのナショナルセンターDGBの組織人員は、05年12月末現在、約677万9000人で、前年と比べ23万4000人減少した。この減少率は3.3%で、04年末現在の対前年比減少率4.4%と比べれば減少幅は減ったものの、退潮の傾向は止まっていない。しかしDGBは04年から05年にかけて28万3000人の新規加入があったとし、今後に期待を示している。

産別ごとの動きを見ると、これまでDGBにおいて最大だったVer.di(公共サービス労組)は235万9000人となり(対前年比マイナス4.3%)、減少の少なかったIGメタルが237万6000人(対前年比マイナス2%)とVer.diを上回って最大規模となった。

b.制度等

05年の特別な動向として、1)ハルツ第Ⅳ法施行とその影響2)連邦議会選挙の実施と大連立政権の誕生––の二点をあげることができる。ここではその概況を示し、政策の詳細については「3分野別動向」において述べる。

1)ハルツ第Ⅳ法施行とその影響

ハルツ第Ⅳ法の05年1月施行によって、社会扶助を受けていた「就労能力のある」人の一部が新たに失業登録され、失業者数が増加する結果となった(本稿1統計データ

この制度施行後、05年7月時点で、686万人が社会法典第Ⅱ編に基づく給付の対象者となっている。給付対象世帯(「需要共同体」と呼ばれる)の数は379万であり、1世帯あたりの平均人数は1.81人である。対象者のうち506万人(73.8%)は「就業可能な要扶助者」であり、一方180万人(26.2%)はこれまでの社会扶助に相当する社会給付の対象者とされる。社会給付対象者のうち大多数(96.4%)は15歳未満である。

「就業可能な要扶助者」506万人のうち、失業者としてカウントされるのは287万人(56.7%)である。その他の人は、(1)週あたり最低15時間働いているが、収入が少ないため扶助を必要とする人(2)公的な就労機会、いわゆる1ユーロジョブに従事している人(3)小さい子供あるいは扶養者をかかえ、仕事を受け入れることができない人(4)学校あるいは職業資格コースに通っている人(5)58歳以上の場合、求職活動を義務づけられることなく失業給付の請求権を有する、いわゆる「58歳規定」(社会法典第Ⅱ編65条4項に規定)の該当者--のいずれかに相当し、失業者には数えられない。

2)連邦議会選挙の実施と大連立政権の誕生

05年5月22日に実施されたノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州議会選挙で当時の与党、社会民主党(SPD)が大敗したことを受け、シュレーダー首相は同日、2006年9月に予定されていた連邦議会選挙を前倒しする意向を表明した。選挙は9月18日に実施され、事前に4割程度の得票が見込まれていたCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)は、前回(2002年)をも3.3%ポイント下回る35.2%の得票率にとどまる予想外の結果に終わった。かねてから退潮傾向が鮮明だった与党SPD(社会民主党、得票率34.3%)との議席差は最終的に4議席にとどまり、二大勢力はともに小政党との連携を試みたが、議席の過半数を占めるグループを形成することはできなかった。このため、二大勢力は共に政権を担うための連立協議に入り、連立合意を経た後、11月22日にいわゆる大連立政権を発足させた。首相には、ドイツにおいて女性として初めて、アンゲラ・メルケル氏(キリスト教民主同盟)が就任した。労働分野については、シュレーダー政権下の経済労働省が分離され、新たに労働・社会省が担当することとなった。労働・社会大臣には、フランツ・ミュンテフェリング氏(前社会民主党党首)が副首相を兼ねて就任した。

Ⅱ.分野別動向

1.新政権の方針

大連立政権は、選挙戦を通じCDU/CSUとSPDが掲げた政策を中心に、連立政権協議における個々の妥協・調整を経て、政権の基本方針を示す連立協定を11月11日に発表した。いわば「妥協の産物」であるため、発表時に世論の反発を受けた施策も多い。その代表的な例が付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げで、16%の現行税率を、2007年1月から19%とする。一方、これに連動して、雇用保険料は現行の6.5%から4.5%へと引き下げられる。年金については、支給開始年齢(現行65歳)の67歳への段階的引き上げを実施する。

解雇規制の見直しも争点となった。SPDの反発に対し、最終的にはCDU/CSUが主張の一部を貫いた。結果として、解雇保護法の適用が除外される新規採用の際の試用期間が、これまでの6カ月から24カ月に延長される方向が示された。

2.労働市場政策

連立協定は、労働市場改革について、いくつかの修正を打ち出している。まず、西・東地域で異なっていた失業給付Ⅱの支給額を、西地域の月当たり345ユーロに統一する。また、ハルツ第Ⅳ法の運用にあたって、(1)25歳未満の青年層を原則的に親の生計のもとで生活すると見なし、この層が失業している場合、失業給付Ⅱの支給要件を厳しくする(これまでは独立した生計を営んでいていると認められ、支給対象とされるケースが多かった)(2)籍を入れずに共同生活をしている男女の「擬似結婚」関係を同一の生計にあると解釈し、一方が失業している場合でもパートナーに収入がある場合支給しない--など、失業給付Ⅱの支給要件を厳しくする方向を示している。

現在実施されている労働市場政策の修正のほかに、連立協定は「僅少資格(単純)労働者の雇用拡大‐コンビ賃金の導入を検討する」とし、失業率の高い傾向が著しい、職業資格の乏しい労働者向けに、低賃金労働市場においても就労を受け入れやすくするための条件を整備する意向を示している。

労働市場政策については、04年12月、シュレーダー政権下で設けられた「求職者基礎保障のための諮問会議」が05年6月に中間報告を出し、そこですでに失業給付Ⅱ支給額の東西統一などを提起している。同会議は06年前半までに最終報告を出すとしており、その内容は労働市場政策の修正に際して反映される可能性がある。また、旧連邦経済労働省が研究機関等に委託し、現行の労働市場政策(ハルツ第Ⅰ~Ⅳ法)に関する「評価」を実施中であり、ハルツ第Ⅰ~Ⅲ法に関して06年初め、同第Ⅳ法に関して06年末までに報告を出すスケジュールが示されている(ハルツ第Ⅰ~Ⅲ法に関する報告は06年1月末に公表された)。

Ⅲ.リファレンスリスト

  • 苧谷秀信著『ドイツの労働』日本労働研究機構発行、2001年

参考:

  • 1ユーロ=145.39円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)

バックナンバー

※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ドイツ」

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