基礎情報:シンガポール(2003年)

基礎データ

  • 国名:シンガポール共和国(Republic of Singapore)
  • 人口:418万5200人
  • 実質経済成長率:1.1%(2003年)
  • GDP:1591億3500Sドル(2003年)
  • 一人あたりGDP:3万8023Sドル(2003年)
  • 労働力人口:215万100人
  • 失業率:4.6%(2003年)
  • 日本の直接投資額:915億円(2002年)
  • 日本の直接投資件数:34件
  • 在留法人数:2万1104人(2003年)

資料出所:外務省新しいウィンドウ財務省新しいウィンドウ、統計局、労働省

2003年の主な動き

シンガポールでは、2001年12月にリー・シェンロン副首相を議長とする経済再生委員会(ERC)が設立され、1.税制、中央積み立て基金(CPF)、賃金、土地に関する政策、2.起業家精神の育成と地場企業の国際化問題、3.サービス産業、4.製造業、5.人材育成、6.地場企業、7.経済構造改革の影響、等の七つの小委員会が運営されている。各小委員会は、2003年2月に政府が取り組むべき課題を緊急に実施すべき課題と長期的に取り組むべき課題にわけ、報告書を提出している。その中で、緊急課題としては、コスト削減を大命題に、CPF雇用者負担率を2年間据え置くことが提言されている。また、長期的課題としては、外部経済との連携の拡大、競争力・柔軟性の維持、起業家精神の育成、製造業とサービス業の2つの成長エンジンの増進、人材育成などが提言されている。この報告に基づき、2003年度は予算案が提出され、各分野の政策が実施された。

シンガポールは、4月に発生した新型肺炎SARSの影響を、東南アジア諸国の中で最も大きく受けており、2003年はSARS対策が経済社会政策の主要な位置を占めた。

1. 経済・雇用情勢

2003年の経済成長率は、SARS(非典型ウィルス)やイラク戦争の影響から、2002年を大幅に下回る1.1%であったものの、プラス成長はなんとか維持した。プラス成長には、電気、化学などの産業での国外需要の増加が大きく貢献している。これに対して国内需要は脆弱で、国内の雇用情勢にもその影響は及んだ。

労働市場では、2003年の就業者数が203,400人、前年との比較で1万7000人が職を失っている。失業率は、2002年の4.4%から2003年は4.6%に上昇した。半導体受託製造会社や大手海運会社が500人から1000人の人員削減を発表したほか、港湾公社が50人あまりを解雇するなど、特に、建設、製造部門の製造業での雇用減少が著しい。

表:就業概況
  2002 2003
就業者数(千人) 2017 2034
男性 1137 1123
女性 880 911
産業別就業者割合(%) 100.0 100.0
製造 18.2 17.9
商業 21.3 20.9
運輸・通信 10.8 10.6
金融サービス 17.1 17.1
コミュニティサービス 25.7 26.9
6.8 6.5
就業形態別就業割合(%) 100.0 100.0
使用者 4.7 4.7
雇用者 86.2 86.5
自営 8.3 8.1
家族就業 0.8 0.7
臨時雇用者の就業者に占める割合(%) 3.7 4.0
パートタイマーの就業者に占める割合(%) 4.5 5.7

(出所) Singapore Department of Statistics "Labor Market Statistics 2003"

2. 労働関連の動向

ERCの報告に基づき、2月28日に2003年度予算案は発表された。今回の予算案では、法人・最高所得税について懸案の20%への引き下げを次年度に持ち越し、現行の22%に据え置くこと、産業・商業施設の賃貸割戻しや外国人労働者税の据え置きを半年延長すること、中央積立基金(CPF)の経営者拠出率を2年間、現行の16%に据え置いた上、外国人専門職を海外から呼び寄せる税控除枠を拡大するなど、経済情勢悪化を考慮した具体的内容の政策方針が示された。

中央積立基金(CPF)拠出率の引き下げ

中央積立基金(CPF)は、老後の生活原資を国営基金の個人勘定に積み立てる国立積立基金の一種である。1955年に被用者の老後の所得保障、死亡・障害時の生活保障を目的に導入され、住宅保障、財産形成、医療保障の機能を併せ持つ総合的な社会保障システムとして発達してきた。この制度では、原則としてすべての被用者が加入者となり、その使用者がCPFへの掛金の支払い義務を負っている。掛け金は、年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し、個人名義のCPF口座に拠出する。

ERCでの報告では、1.現行16%の使用者側拠出率を少なくとも向こう2年間据え置く。2年間凍結して以降についても、目標拠出率の20%への復帰は状況を見て決める。2.高所得者の拠出負担を軽減する目的で、拠出対象となる賃金(月給)の上限額を6000Sドルから5000Sドルへ引き下げる。3.低所得者の手取額を増やすため拠出対象となる賃金(月給)の最低額を200Sドルから363Sドルを500Sドルから750Sドルへと引き上げる。4.51歳から55歳の従業員の使用者拠出率については、現行の16%に据え置くなどの提言がなされた。

8月にゴー・チョクトン首相は、その演説の中で、CPFの拠出率を現行の36%から30%まで引き下げること、使用者拠出率を10月から現行の16%から13%に引き下げることを発表した。これは、中国やインドへ生産拠点を移転する企業が増えることを懸念して、シンガポールの国際競争力と国内雇用の確保をねらいとして、政府が積極的にビジネスコストの抑制策を講じたものである。

改正の具体的内容は、10月1日から55歳以下の従業員について使用者拠出率を現行の16%から13%に引き下げるが、従業員拠出率は現行の20%を維持するため、全体の拠出率は36%から33%になる。また、51歳から55歳の従業員については、2005年1月1日に使用者側を11%、従業員側を19%、2006年1月1日に使用者側を9%、従業員側を18%に引き下げるという2段階での引き下げを決定した。

表:CPF拠出率(%)
  拠出率 合計 口座別配分率
使用者 従業員 普通口座 特別口座 医療口座
35歳以下
現行 16 20 36 26 4 6
2003.10.1 13 20 33 22 5 6
2005.1.1 13 20 33 22 5 6
2006.1.1 13 20 33 22 5 6
36~45歳
現行 16 20 36 23 6 7
2003.10.1 13 20 33 20 6 7
2005.1.1 13 20 33 20 6 7
2006.1.1 13 20 33 20 6 7
46~50歳
現行 16 20 36 22 6 8
2003.10.1 13 20 33 18 7 8
2005.1.1 13 20 33 18 7 8
2006.1.1 13 20 33 18 7 8
51~55歳
現行 16 20 36 22 6 8
2003.10.1 13 20 33 18 7 8
2005.1.1 11 19 30 15 7 8
2006.1.1 9 18 27 12 7 8

出所:CPFホームページ

長期的目標レートは、50歳以下では使用者側が10%から16%、従業員側が20%で、合わせて30%から36%に改正され、51歳から55歳の場合は、使用者側が6%から12%、従業員側が18%で合わせて24%から30%に改正された。また、CPF対象者の所得上限額を現行の6000Sドルから段階的に引き下げる。所得上限引き下げは、3段階で行われるが、そのスケジュールは下記の通りである。

  1. 2004年1月1日から5500Sドル
  2. 2005年1月1日から5000Sドル
  3. 2006年1月1日から4500Sドル

中央積立基金の貯蓄の引き出しについては、1.加入者が55歳に達した時、2.加入者がシンガポールおよびマレーシア西部を永久に退去する時、3.加入者が永久的疾走になった時に引き出すことができる。

3. 新型肺炎SARSの影響

4月に突然流行した新型肺炎SARSは、アジア経済に大きな影響を及ぼしたが、シンガポールでは政府が緊急対策を打ち出し、人的資源省は、感染の疑いのある就労者の待機期間を医療休暇と見なすよう雇用主に勧告を出した他、外国人従業員に10日間の検疫を義務付けるなどの措置をとった。SARSの影響は、観光や航空業に著しく、人的資源省は観光業にコスト削減を目的とした労働時間短縮などの削減の勧告などを行った。2003年は、第1四半期のサービス業の解雇者数は、前期比15%増の2100人であった。また、SARSの影響は、5月末に世界保健機関(WHO)による感染地域リストからの解除が宣言されるまで続いた。

また、人的資源省は、SARS感染を労災認定するため、労働補償法施行令を改正した。

政労使の代表により構成される全国賃金評議会(NWC)は、毎年5月に当該年度の賃金改定について勧告を発表しているが、2003年度は5月21日に2003年度7月~2004年6月期の賃金改定ガイドラインを発表した。内外の経済の先行きが不透明であるとの判断から、近年、過去のガイドラインの内容を継承して、賃金の凍結・削減を勧告してきたが、今回の勧告では、新型肺炎SARSの影響により業績悪化の企業に対して賃金削減を勧告している。また、賃金体系を年功型から業績型に移行させるため、特別委員会を設置するよう政府に提案した。

2003年度7月~2004年6月期賃金改定ガイドラインの要約は以下のとおり。(海外労働時報2003年8月より抜粋。)

(1)SARSの経済への影響

新型肺炎SARSの影響を最も大きく受けているのは、運輸関連業や観光業で、例えば旅行者数は3月に15%、4月に67%それぞれ減少した(前年同月比)。また通常は70%超であるホテルの稼働率は、10~30%に落ち込んでおり、シンガポール航空は4~5月に30%減便している。他の産業についても直接・間接の影響を受けており、こうした状況を踏まえると、経済や雇用情勢は今後悪化していくことが予想される。

(2)労働市場の現況

労働市場は今なお低迷している。雇用者数は2002年通年で4万900人減り、2003年の第1四半期もすでに9400人減っている。解雇者数は2002年に1万9100人、2003年第1四半期は4200人となっており、SARSの状況が悪化すれば、今後さらに増加することが予想される。失業率(季節調整済み)は、2002年通年が4.4%であったが、2003年3月には4.5%へ上昇し、今年後半には5.5%を上回る可能性もある。とくに運輸関連業や観光業では解雇者数の増大は避けられないだろう。

(3)賃金改定勧告:2003~04年

以上の状況を踏まえて、NWCは2003年7月~2004年6月期の賃金改定について、以下のように勧告する。SARSの影響を直接受けた企業は、雇用を確保するために、相応の賃金削減を実施すべきである。

経済の先行き不透明感や厳しい競争などSARS以外の要因で困難な状況にある企業は、賃金体系を速やかに再構築し、固定給部分・年功給部分を減らし、その分を生産性・業績に応じたボーナス部分に転換していくべきである。そのためには、基本給の2%をはるかに上回る部分を月次可変給部分(MVC)()に振り替える必要があるだろう。

SARSの影響を直接受けていないものの、全般的なビジネス環境の不透明感の影響を受けている企業は、賃金凍結を継続すべきである。また賃金体系の再構築を進め、基本給の2%以上をMVCに振り替えるべきである。

業績の好調な企業は、MVCや特別ボーナスを通じて相応の報酬を従業員に支給すべきである。

(4)競争優位へ向けた賃金体系の再構築:特別委員会の設置

NWCは賃金の柔軟性を増強し、労働コストの長期的な競争優位を維持するために、賃金体系の再構築を強く求める。SARSの問題が起きたことで、その必要性はさらに増している。経済再生委員会(ERC)は、基本給の2%を速やかにMVCに振り返ることを勧告してきたが、NWCはこれを支持する。使用者、労働者、労組は、そのための手続きを速く進めるべきである。NWCはまた、ERCが提案した、従業員の生産性や企業業績に基づく賃金制度、競争的ベースアップ賃金制度(CBWS)の導入を勧める。その場合、同一職種での最高賃金を最低賃金の1.5倍以下に抑えることで、CBWSの導入を加速させるよう、企業と労組に強く求める。

こうした賃金体系の再構築を促進し、その進展状況を告知するために、NWCは政府に対し、政労使からなる特別委員会の設置を提案する。その場合、特別委員会は最初のレポートを6カ月以内にまとめるべきである。

(5)経営団体、勧告を歓迎:政府も受け入れる

シンガポール事業連盟(SBF)と全国経営者連盟(SNEF)は5月21日、NWCの賃金改定勧告について、歓迎の意を表明した。SBFとSNEFは、過去5年間に労働生産性上昇率と賃金上昇率との格差が拡大したため域内競争力が低下し、結果として企業は、人員削減に踏み切らざるをえなかったとの見方を示し、賃金の削減・凍結を基調とするNWC勧告を支持した。

政府は5月22日、雇用を確保するためにはNWCの勧告は妥当であるとし、受け入れることを表明した。

4. 外国人労働者の積極的雇用政策

政府は、外国人労働者は、特に高度な技能を要する職種では、シンガポール経済の競争力を維持するのに不可欠の存在であるという立場をとってきた。不況期の雇用調整装置としても位置付けている。

2003年は、SARSの影響で、外国人労働者にも10日間の検疫義務の勧告が発せられた。検疫対象者は、1.就労許可証または専門職・管理職のためのQ分類雇用許可証の新規取得者で世界保健機構(WHO)が指定したSARS流行国から入国する者、2.就労許可証またはQ分類の雇用許可証の既得者で指定流行国を訪問したのちに入国する者である。ちなみに雇用許可証には、幹部クラスに発給されるP分類があるが、これは対象外であった。検疫対象者は、政府が用意する2つの収容施設に10日間隔離される。隔離は、使用者が用意した宿舎か自宅で行われる。隔離にかかる費用は全額使用者が負担する。また、感染の場合には、治療等の費用は使用者が負担する。さらに、政府は、使用者に対して、1.事態が収まるまで流行国からの外国人を採用しないこと、2.シンガポール人か非流行国の労働者を採用すること、3.既存の外国人を帰省休暇や仕事などで流行国へ渡航させないこと、4.国内のスタッフと流行国のスタッフとの交代制勤務を一時控えることなどを勧告した。

ちなみに、シンガポールにおける外国人雇用政策は次に基づいて実施されている。

外国人労働者の就労については、外国人労働者雇用法、移民法および規則、職業紹介許可法によって規定される。外国人は、雇用許可書または就労許可のいずれかの発給を受けていない限り、シンガポールで就労することは出来ない。外国人労働者の雇用を規制するため、企業には、シンガポール人従業員の人数に基づき一時期に雇用できる外国人労働者の人数が割り当てられている。この外国人労働者とシンガポール人労働者の割合は、依存率と呼ばれている。依存率は産業により異なる。さらに、外国人雇用に際しては賦課金がかせられる。外国人労働者の需給のコントロールは、「依存率」と「賦課金」という2つの手段でコントロールしている。2003年の依存率と賦課金は下記の表の通りである。

表:2003年の依存率と賦課金
部門 依存率 賦課金 (Sドル/月)
製造 全就労者数の40%まで 熟練30
非熟練240
全就労者数の40%を超え50%まで 熟練30
非熟練310
建設 シンガポール人1人につき5人まで 熟練30
非熟練470
港湾・荷役・造船現場 シンガポール人1人につき3人まで 熟練30
非熟練295
サービス 全就労者数の30%まで 熟練30
非熟練240
家政婦 345

外国人を雇用する場合、就労許可局に依存率を超えて雇用申請しても認められない。外国人労働賦課金制度は、3ヵ年の就労許可保持者を除き、すべての就労許可保持者に適用される。賦課金は、一時又は終身就労許可が労働者に発給され次第開始される。就労許可が有効である限り、取り消されるまで支払い義務がある。賦課金の額は、外国人労働者のカテゴリーにより異なる。

注:

参考資料:

  1. Yearbook of Statistics Singapore 2003
  2. Ministry of Manpower Annual Report 2003 "Work Scope"
  3. Singapore Department of Statistics "Key Economic Indicators 2003"
  4. Singapore Department of Statistics "Employment Trends and Outlook 2003"
  5. Singapore Department of Statistics "Labor Market Statistics 2003"
  6. Ministry of Trade and Industry "ERC Report"
  7. Ministry of Trade and Industry "Performance of the Singapore Economy in 2003 and Outlook for 2004"
  8. 海外委託調査員研究側レポート2003年1月から12月
  9. 海外労働情報2003年1月から12月掲載分

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:シンガポール」

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