キャリアガイダンスのアカウンタビリティ

副主任研究員 下村 英雄

当研究機構では、様々なキャリアガイダンスツールの研究開発を行い、公表している。しかし、そもそもキャリアガイダンスツールを開発する必要性とは、いったいどのように説明されるべきものなのだろうか。この問題を、最近のキャリアガイダンス研究では、キャリアガイダンスのアカウンタビリティの問題と結びつけて論じる場合がある。

例えば、日本におけるキャリアガイダンスの提供機関は、国や自治体、大学やNPOなどによって設置されていることが多い。ただし、どのような形で設置されている場合でも、多かれ少なかれ、個々のキャリアガイダンスの提供機関は、いわばステークホルダーである設置主体に対して、現在、提供しているキャリアガイダンスの効果を実証し、十分なキャリアガイダンスサービスを提供できているということを、常に説明する必要が生じる。

キャリアガイダンスの効果をいかに実証するのか

しかし、「キャリアガイダンスの効果をいかに実証するのか」というテーマは、キャリアガイダンス研究の最先端のトピックでありながら、とても難しい問題を含んでいる。例えば、何らかのキャリアガイダンスの直後にある種の心理的な変化が見られたという意味での効果測定であれば、現状でも一定の研究知見の蓄積はある。また、そうした一連の研究のメタ分析によって、いくつかの効果的なキャリアガイダンス技法というものも実証的に特定されつつある。しかし、最終的にどうなった場合に効果があると見なすのか、また、どのくらい効果が持続すれば効果があったと言えるのかなど、解決すべき問題がいくつかあるため、キャリアガイダンスの効果を実証的な形で示すのは、一般に考えられている以上に難しい。

そこで、1つの考え方として、目下、提供しているキャリアガイダンスが一定水準のサービスに達していることを、一定の学術的・理論的な根拠に基づいて開発された標準的なテストや情報ツールを用いることによって保証するという考え方が出てくる。こうしてキャリアガイダンスのアカウンタビリティの問題は、標準的なキャリアガイダンスツールの継続的な研究開発の必要性へと結びつく。

特に、先進諸国では、標準的なキャリアガイダンスツールの提供は公的な機関で行っていることが多く、一定水準のキャリアガイダンスツールを無償または実費で提供している場合が多い。このことで、国内におけるキャリアガイダンスツールの質のミニマムを規定することができ、国内におけるキャリアガイダンスの質を保つことができるからである。結局、一国のキャリアガイダンスサービスの総体的なレベルとは、どの程度、質の高い標準的なキャリアガイダンスツールを用意できているかに、かなりの部分、依存するということになるのである。

キャリアガイダンスツールの「外部」

さて、キャリアガイダンス研究におけるツール論では、もう1つ、重要な論点がある。それは、いかなるキャリアガイダンスツールであっても、それらツールがカバーできない「外部」が常に生じてしまうということだ。例えば、自己理解系のツールであれば、検査結果と本人の意向がくいちがってしまうことが問題になり、職業理解系のツールであれば、本人が希望する職業が掲載されていないことが問題になる。いずれも、ツールから外れてしまう個々人の多様な思いが、常に、ツールの外部に存在してしまうことから生じてくる問題である。

しかし、本来、キャリアガイダンスツールの役割とは、ツールで明らかになったその先に、自分で何とかしなければならない圏域があると気づいてもらうことにあるのだろうと思う。各種ツールの活用方法で分からないところがあれば、身近な教員やカウンセラーがそれを説明してくれることだろう。また、少し難しい問題を抱えていれば、親身になって相談にも乗ってくれることだろう。しかし、最終的には、ツールから得られた結果を自分の中で受け止め、次のステップへ大きく飛び出していかなければならない段階がやってくる。

こうした具体的な行動へとつながる意識面での大きな跳躍こそが、端からはちっぽけに見えるキャリアガイダンスのとても大きな成果なのだと思う。そして、このことの意義を多くの人々に伝え、重要な政策目標になるのだと納得してもらうことができた時、本当の意味で、我々は、キャリアガイダンスの本質をアカウンタブルに示すことができたということになるのであろう。今後の研究課題としたい。

( 2007年 12月26日掲載)