新しい環境との「良い出会い」

研究員 深町 珠由

新年度に入り、そろそろ身辺が落ち着く頃だろうか。

私が以前仕事でお世話になっていた知人が、久しぶりにメールで近況を知らせてきた。ご子息が高校卒業後に就職し、入寮したところを写した写真が添えられていた。喜びや希望がダイレクトに伝わってきて嬉しく思った。

就職、異動、進学、進級などで自分の置かれた環境が変わった人も大勢いるだろう。新しい社会生活や学校生活という未知の環境に対し多少の不安も感じつつ、一方で新しい人間関係や新たなビジネスチャンスへの期待や希望も膨らんでいることと思う。

人間は常に外界の環境に接し、その環境を自分なりの「モノの見方」で理解し、知識や経験を得る。新しい環境に身をおいたとき、自分の生活や人生、仕事や学習にプラスとなるような「良い出会い」を見抜くことが大切だ。それは必ずしも人間との出会いとは限らない。環境で得た様々な情報の断片が、自分の生活や仕事に良い変化をもたらすきっかけになることもある。

では、環境から効率良く(ある意味、自分にとって好都合に)情報を吸収するにはどうしたらよいのだろうか。自分の周囲にある情報をやみくもに追いかけてしまうと、無駄が多くなる。そうしないためにも、有用そうな情報が目の前に現れたときに強く反応しキャッチできるようなアンテナを、心の中に用意しておくとよい。アンテナの感度や反応の仕方を決めるのは、自分が大切に思う価値観によるところが大きいと思う。

自分の価値観をみつける旅

昨今の景気回復で、雇用情勢にも明るい兆しが見えてきている。しかしそのことが、我々のキャリア選択を簡単にするわけではない。どの学校に進学するにせよ、どの会社にどのような雇用形態で就職・転職するにせよ、自分の納得のゆくキャリアを歩むことは、景気動向とは関係なく、誰にとっても大変な課題である。

将来への選択肢が多いということは、チャンスの広がりでもあるし、歓迎すべきことである。しかし、数ある選択肢から自分に合ったものを選んでゆくためには、別のスキルがいる。情報を取捨選択し集約してゆくスキルである。さらに、自分が行った選択プロセスに納得するとともに、選択した結果に責任をもつことも大切である。このようなプロセスでは、自分の中に明確な判断基準をもつことで、選択がしやすくなることがある。その判断基準の一つとなるのが、価値観である。キャリア選択における価値観の重要性は、D. E. SuperやD. Brownといった職業心理学者によって従来指摘されてきていることでもある。

世の中の価値観にどのようなものがあるのかを直接教わったり、意識したりする機会はあまりない。時代とともにもてはやされる価値観もあるし、すたれてゆく価値観もある。しかし、自分が大切にしたいと思う価値観を意識するだけでも、これからのキャリアや進路を考えたときに次の一手を講じやすくなるだろうし、今後の社会を生き抜く上で欠かせないと思う。

その価値観を追求した先に何が待っているのか。どんな状況が予想されるのか。自分の考えだけでは予測がたてにくいかもしれない。そうした自分では気づきにくい側面について、様々な方法で情報を整理して提供し、気づきやすくする。そんな役割を、キャリアガイダンスを支援するツールが少しでも果たせたらと考える。

キャリアガイダンスツールとの「良い出会い」

キャリアガイダンスを支援する様々なツールが開発されるにつれ、次の課題もみえてくる。

まず、ツールの効果的な利用・活用の仕方を提示することが重要である。個人で利用する場合だけでなく、集団で利用する場合、学校の授業で利用する場合など、対象と目的の違いに応じて効果的な活用の仕方は異なってくる。さらに、各ツールの特性や得意分野を示す必要もあるだろう。各ツールの持ち味を生かしつつ、複数のツールを効果的に組み合わせたり、その効果を調べる実証的な取り組みも必要だろう。

人が自分のキャリアや進路について真剣に考えるとき、自分の価値観を再認識したり、自分では思いつかなかった新たな方向性にも気づいてほしい。そのとき、キャリアガイダンスツールが、人と環境との「良い出会い」の役割を果たせるのなら、研究開発にたずさわる身として幸いに思う。

( 2007年 4月 20日掲載)