労働力需給の推計

情報解析課長 秋山 恵一

2007年には人口が減少に転じると予測されるなど、我が国の経済社会が大きな転換点を迎えつつある。それに的確に対応した雇用・労働政策が求められていることから、厚生労働省において雇用政策研究会(座長:小野旭当機構理事長)が開催されてきた。団塊の世代が 65歳以上となり、本格的な引退時期を迎える今後 10年程度の間を対象とした雇用政策の方向性について検討が重ねられ、報告書が本年7月に取りまとめられた。(報道資料

その検討の基礎資料として、2030年までを推計期間とする労働力需給の将来推計の結果が活用された。既に、結果は当HP上でも公表しているところであるが、これについて簡単に紹介したい。

なぜ将来推計が必要か

本件を含め、各省庁、研究機関などにおいて日本の人口、日本経済など多くの将来推計が試みられている。そもそも、なぜ将来推計が行われるのだろうか。

その理由の一つとしては、各種統計調査で得られる数値・指標は、あくまで調べた時点の結果であり、過去を示したものに過ぎない。しかし、各省庁などが行政運営を進めていくには、今までの統計数値・指標だけでは不十分であり、今後どのように推移するであろうか、すなわち、今後を予測した数値・指標が必要である。例えば、年金や医療に関わる政府の制度では、長期にわたる安定的な制度運営を行うためには、将来を見越した設計が必要なので、そういった点でも、年金や医療についての将来推計が行われている。

25通りの推計結果

この度当課が行った推計では、計量経済の分析手法を用いている。実際の統計データから、個々の経済現象の相互依存関係について統計的手法を用いて関係方程式を定め、それら方程式を組み合わせた連立方程式体系を構成する(計量経済モデルと呼ばれる)。その連立方程式体系を解くことにより、将来推計を行うものである。

つまり、 (1) 過去のデータから関係する方程式を推定し、 (2) 将来想定される条件設定を行って、将来の推計値を求める、という手順を踏む。

計量経済モデルの計算に際して、将来の条件設定を変えることにより、各種数値の変化が他に与える影響を定量的に把握することができる。

今回行った推計においても、5通りのケース(労働市場への参加が進まないケース、高年齢者の雇用機会が高まるケース、女性の能力活用・仕事と生活の両立が進むケース、若年の就業が進むケース、労働市場への参加が進むケース)を5通りの経済成長率ごとに、つまり合計 25通りの推計を行った。また、ケースの相互比較を行うことにより、条件設定の違いによって数値がどの程度変化するかをつかむことができる。

例えば、今後の日本経済が1人当たり2%の成長率で推移するとした場合において、労働市場への参加が進まないケースでは、就業者は 2004年の 6,329万人が2030年には5386万人と 943万人減少することになると予想されるが、労働市場への参加が進むケースでは、2030年には 5,860万人と469万人の減少にとどまることになるとの推計結果が得られたところである。

すべての人が自律的に働くことができ、安心して生活できる社会の実現には、推計結果を参考にした雇用・労働政策の展開が不可欠といえる。