介護休業制度が利用されるためには

JILPT研究員 池田 心豪

高齢社会の進行と仕事と介護の両立

先日発表された『平成 17 年版高齢社会白書』(内閣府)によれば、昨年の 65 歳以上の高齢者人口は過去最高の 2,488 万人となり、高齢化率(総人口に占める 65 歳以上人口の比率)は 19.5 %となった。 10 年後には、高齢者人口が 3,000 万人を超え、高齢化率も 25 %を超えると推計されている。日本はいよいよ本格的な高齢社会を迎えつつある。

高齢者人口の増加とともに、家族の介護問題を抱える労働者も増加していくと予想されており、仕事と介護の両立は、職業生活の課題として重要性を増していくと考えられる。仕事と介護の両立は、周囲の様々な支援によって可能となるが、家族・親族の援助、介護保険サービス、介護ボランティア、近隣援助などとともに、企業の両立支援制度もまた、その重要な一角を担うものである。

利用状況の把握が難しい介護休業制度

企業が講じるべき仕事と介護の両立支援制度は、育児・介護休業法で規定されている。今年 4 月に改正育児・介護休業法が施行されたが、今回の改正で、同一対象家族について複数回の介護休業制度利用が可能となった。これまでは同一対象家族につき最長 3 ヶ月まで1回、介護休業を取得するか勤務時間短縮等の措置[1]を利用できたが、今回の改正により取得回数制限が「対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに1回ずつ通算 93日まで」となった。1度介護休業制度を利用して、家族が一旦要介護状態から回復し、その後再び要介護状態になった場合には、改めて介護休業を取得するか勤務時間短縮等の措置を利用できるようになったのである。この改正によって、制度の利用が進むかどうかは、今後の介護休業制度のあり方を考える上で重要なポイントである。

しかし、それ以前に、介護休業制度の利用については、大きな課題がある。現状において、家族を介護する労働者がどの程度介護休業制度を利用しているのか、制度の利用状況がほとんど明らかになっていないことである。

育児・介護休業制度の利用状況は、「女性雇用管理基本調査」(厚生労働省雇用均等・児童家庭局)で報告されており、 2002 (平成 14 )年の介護休業取得率は 0.05% とされている。しかし、この数字は全常用労働者を 100 とした休業取得者の比率であり、この取得率から家族を介護する労働者の何%が介護休業を取得しているかはわからない。

仕事と介護の両立においては、個々の労働者が家族の介護に関わる状況が多様であり、支援を必要とする労働者を外から特定することが難しいという問題がある。

家族に介護の必要が生じたときに、家族・親族の中で誰が介護するかは、その家族・親族の状況によって様々である。家族に介護の必要が生じても、介護できる家族や親族がほかに十分いて、自らは介護する必要がない者もいる。また、実際に介護していても、要介護者の状態や他の家族・親族との分担状況によって、労働者が介護に関わる程度は様々である。休業や労働時間の調整が必要なほど介護負担が大きい場合もあるが、出勤前や帰宅後に介護すれば休業や労働時間の調整は必要ない場合もある。

こうした介護状況の多様性により、介護を必要とする家族のいる労働者が介護休業制度を利用できているのか、利用していないとしたら、利用したくても利用できないのか、それとも、そもそも利用する必要がないのか、利用状況の把握が難しいのである。

まずは両立実態の把握が課題

労働者が家族を介護している状況は外から把握しにくいため、実際には支援を必要としていても、その事実が表に出なければ、支援の必要がないものとして扱われてしまう可能性もある。職場の支援を必要とする労働者が介護休業制度を利用できるようになるためには、まず、労働者が、どのように家族の介護に関わり、どのようにして仕事との両立を図り、どのような状況で介護休業を取得したり勤務時間短縮等の措置を利用したりしているのか、その実態を明らかにすることが課題である。


[脚注]

  1. ^ 育児・介護休業法では、家族の介護をする労働者に対し、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、労働者が利用する介護サービスの費用助成の何れかを講じることが企業の義務とされている。