請負労働者は「漂流」しつづけるか?

JILPT研究員 藤本 真

1.若年層の雇用の受け皿?

1990 年代後半 以降、 多くのメーカーが、より低コストでの生産や、多品種少量生産体制のもとでの頻繁な生産量変動への対応を求められるようになり、その結果、「業務請負」という形で製造業務を遂行していくケースが増加した。業務請負会社に特定の業務を委託するという形で、自社で直接には雇用していない人材を活用する業務請負は、社会保険負担など直接雇用にともなうコストを削減することができ、また要員の確保に時間がかからないといったメリットを企業にもたらす。したがってその活用は依然拡大しつつあると見られ、製造業企業の立地が多い地域では、業務請負会社による求人が急増しているという。

業務請負会社に雇用される労働者は「請負労働者」とよばれることが多いが、その多くを若年層が占めているといわれる。若年層の高失業率が問題視される中で、請負労働者という就業機会は、雇用の受け皿として存在感を増しつつあり、社会的にも徐々に注目を集めてきている。

2.忙しい、けれど先が見えない?

社会的に注目を集めつつある証拠に、数ヶ月前、NHKで業務請負と請負労働者を取り上げた特集番組が放送された。ご覧になった方も多いと思うが、筆者には、繁忙のきわみにある業務請負会社スタッフが見せる躍動感・充実感と、そこに雇用されている請負労働者(番組に登場したのは、いずれもフリーターだった。)の、充実感とは程遠い日々の就業実態との対照が、妙に印象に残った。

実際、請負労働者はどのような働き方をしているのだろうか。筆者がこれまでに実施・分析してきた調査[1]からは次のような実態が明らかになっている。まず、雇用契約は有期、賃金の支払い形態は時給払いというケースが多数を占める。大体がフルタイム勤務であり、時給換算の賃金水準は 1,000 ~ 1,100円程度。担当している業務は、主に、加工・組立ての仕事や製品の検査・試験、データ入力などであり、その多くは、これまで製造現場で働いた経験の全くない労働者でも、1、2週間程度から長くても1ヶ月程度で習得できるような、比較的容易な業務である。

筆者が分析した調査に回答した請負労働者の多くも、 30 代前半までの若年層である。では、彼らは請負労働者として働くことをどのように捉えているのだろうか。請負労働者として働くことに対して、彼らは、正社員としての就職先が見つかるまでのつなぎとして有効であるとか、あるいはすぐに仕事につけるといったメリットを感じている。しかし、一方、彼らの 8 割以上が、将来の見通しが立ちにくい、収入や雇用が不安定、技能向上をしても評価が上がらないといった不安・不満を抱いている。つまり、請負労働者という働き方は、現状では、安定した職業生活のビジョンや、キャリアアップの動機を若年労働者に与えるものとはなっていない。

3.外部人材のキャリア・ディベロップメント

請負労働者として働く若年層は今のところ「引く手あまた」の状態に近いのではないか。しかし、この状態は、彼らの職業生活の展望を考えたとき、かえって厄介なことなのかもしれない。請負労働者として働きつづける限り、当面は就業機会が保証される。しかし、就業機会は保証されるものの、雇用や収入、キャリアに不安を抱きつづける状況は変わらない。そして就業機会が保証されているがために不安はなかなか解消できない。多くの若年請負労働者はこうしたジレンマを抱えているのではないか。

業務請負を営む企業の側にも、請負労働者の雇用や収入、キャリアに対する不安を解消するような契機は乏しい。請負企業の人事労務管理について調査した結果をみても、請負労働者の能力に見合った処遇の見直しや、キャリアアップにつながる取り組みを十分に行っている企業はごく少数にとどまっている。業務を委託するメーカーからの頻繁な注文に数の上で対応するだけで手一杯、という企業がほとんどなのだろう。

請負労働者あるいは派遣労働者といった、いわゆる外部人材のキャリアの問題については、請負・派遣元と請負・派遣先の取引関係や、就業先の頻繁な変更など、直接雇用の人材にくらべて影響を与える要素が多いためか、これまで十分な実態の把握や検討が行われていない。ただ、現状のままでは、多くの若年労働者が、比較的低いキャリアの天井で頭打ちしながら、NHKの番組タイトルにあったように、繁忙な職場を「漂流」しつづける事態が広がっていくことが懸念される。事実発見を基にしつつ、外部人材のキャリア・ディベロップメントの可能性(あるいは限界)と、その要件について十分に検討することが必要である。


[脚注]

  1. ^ 本コラムで紹介しているのは、筆者が参加した 東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究部門の調査研究プロジェクトにおいて実施された、(1)請負企業の人事労務管理に関する調査・分析(2003年実施)、(2)厚生労働省による請負労働者を対象とする調査(2002年実施)の再分析、の結果である。