「働きやすさ」・「働きがい」につながる中小企業の取り組み

 副主任研究員 藤本 真

昨年度、厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくり」プロジェクト(※)に、企画委員会の委員として参加した。仕事柄、当機構における調査研究以外に、こうしたプロジェクトにメンバーとして参加することが少なくない。しかし、この「働きやすい・働きがいのある職場づくり」プロジェクトでは、そうした職場作りに積極的に取り組んでいる中小企業を見つけていくための企業アンケート調査から、取り組みを進める全国の中小企業のインタビュー調査(プロジェクト全体では約40社を調査した)、さらには中小企業の従業員がどのような人事労務管理の下で「働きやすさ」や「働きがい」を感じているのかといった点を解明するための個人アンケート調査までを、まさに「フルセット」で実施し、それらに関わってきたため、私にとってこれまで参加してきたプロジェクトの中でもとりわけ印象深いものとなっている。

いくつもの中小企業の経営者や人事・総務担当者に、「働きがい」、「働きやすさ」につながる組織内での取り組みというテーマで話を聞いてきて改めて思い知ったのは、中小企業における精力的な人事労務管理というものが、出来合いのルールや制度を組織全体に覆いかぶせていこうという営みではなく、お互いの「顔が見える」間柄のなかでの試行錯誤であり、そこで働く従業員の思いと経営者、管理者の思いとを重ね合わせながら、組織にとって、従業員にとってよりよいものを「手作り」で紡ぎ出そうとする取り組みであるという点である。

例えば従業員130人の自動車部品のメーカーは以前から小集団活動を行っていたが、2年前に社長が旗振り役となって活動のやり方を変えた。それまでは各部署を単位として小集団活動を進めていたが、部署横断的な4つのテーマを設定して、それぞれのテーマについてこれまた部署横断的な構成のチームを編成して取り組むこととした。部署ごとに漫然と小集団活動を行っているなかでは、ノルマとしての生産目標の達成以上に何かを改善していこうという意欲が従業員に生じていないことを、新しく就任した社長が従業員と接する中で察知し、改善につながる具体的なテーマが必要であると考えたためである。

また、従業員260人ほどの医療法人では、かつて職場の責任者が主導するOJTと、月1回社団内で開催する「法人勉強会」、外部の研修に参加した従業員が他の従業員に内容を伝える「伝達講習」により、人材育成を進めていた。法人勉強会は、社団の従業員が得意分野について講義をするセミナー形式を中心に進めていたが、セミナーや発表のテーマが次第になくなってきて、勉強会の運営を担当する従業員がストレスを感じ始め、さらに参加者も次第に減少していくという事態になっていた。また社団外の研修の受講も、基本的には従業員の自主性に任せていたため、「早いもの勝ち」のような状況になり、職員の間に不公平感が生じていた。こうした事態に人事担当者が危機感を抱き、組織内での検討を重ねた結果、この法人では各職員の職務能力のレベルに見合った研修体系を作り、法人全体で能力開発意欲の向上を図ろうとしている。

以上のような会社・法人の「試行錯誤」や「手作り」の過程は、そこで働く従業員の働きがいにもつながりうる。プロジェクトにおいて実施した個人アンケート調査によると、自分の勤務する会社が「従業員の意見を会社の経営に反映している」と認識する中小企業の従業員は、約75%が勤務先で働きがいを感じているのに対し、「従業員の意見を会社の経営に反映している」と認識していない中小企業の従業員では、働きがいを感じる割合が約50%となる。会社・法人の「試行錯誤」、「手作り」の過程に適切に従業員の意見が取り入れられれば、従業員の意欲の向上につながることを示唆する結果である。

従業員の「働きがい」を高め、「働きやすさ」をもたらし、ひいては組織としての活力につなげていこうという中小企業の取り組みは、うまくいくこともあれば、思ったよりうまくいかないこともあろう。また、ある取り組みが一時効果を上げたとしても、経営環境が変われば、従業員の顔ぶれや状況が変われば、同じ取り組みでも効果が上がらなくなるかもしれない。ただ私には、その時々の取り組みの効果が上がることよりも、絶えざる「試行錯誤」や「手作り」に、中小企業の経営者やそこで働く従業員が意欲をもって取り組めることのほうが重要であるように感じられる。そうした経営者や従業員の意欲につながる環境の整備や支援の取り組みに、「働きやすい・働きがいのある職場づくり」プロジェクトの成果が少しでも寄与できればと、プロジェクトの一員として「試行錯誤」と「手作り」を重ねてきた立場から切に願っている。

(2014年8月8日掲載)