17.1%という数字

 調査・解析部 政策課題担当部長 荻野 登

当部が従業員30人以上の企業を対象に2月に実施し、先月発表した「構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査」PDF(有効回答数2,783社)で、17.1%の企業が今後、「主力事業を転換する」と回答した。

17.1%という数字を見て、「多いな」という印象を持ったが、今年の『中小企業白書』(4月26日公表)で「新事業展開」を特集しており、以下の数字が出ていた。製造業に限定されるが、過去10年間に新事業展開を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった割合は、20人以下で9.8%、300人以下で11.0%、300人超で15.1%だった。これと比較すると、過去と今後の見通しの違いはあれ、17.1%はインパクトのある数字ではないのかもしれない。

また、当部の調査で過去5年間に何らかの事業再編を「実施した」は約半数にのぼり、今後3年間については、約4割が「実施予定がある」としている。企業は新たな成長分野への参入に向け、すでに過去から、さらに今後も積極的な姿勢を示している。手をこまねいているわけではないことがわかる。調査はアベノミクスの「成長戦略」が発表される4カ月前に行われている。帝国データバンクの「長寿企業アンケート調査」(2008年)によると、大正元年までに創業した長寿企業のうち、56.3%が主力事業を変更(業種転換)していることをみると、企業の新陳代謝は特段、驚く出来事ではないともいえる。

「成長戦略」では中小企業の革新に向け、戦略市場への参入と海外展開を支援するとしている。新規市場の開拓と海外展開は、民間投資を喚起する成長戦略にとって欠かせない要素ということになる。

調査では、海外事業を「現在、展開中」の企業(12.5%)に対しその影響も聞いた。海外展開が国内の設備投資や雇用者総数に影響したかについては、「直接的な影響は受けていない」が、設備投資70.3%、雇用者総数65.4%となった。海外展開が国内空洞化につながる懸念を完全に払拭できる数字ではないにしても、影響がないとする企業は3分の2以上にのぼる。

今年の『通商白書』(6月25日公表)では「生産性向上における国際展開の役割」を特集し、「企業の生産性と海外市場への進出(輸出・対外直接投資)状況には正の相関関係が存在する」と分析。さらに「海外市場での競争がもたらす学習効果が企業の生産性を向上させる場合がある」と述べている。昨年、当部ではものづくり産業の海外展開に関するヒアリング調査を実施し、資料シリーズNo.122「企業の海外事業展開の雇用・人材面への影響に関する調査」としてまとめている。

独自の高い技術やグローバル・ニッチと呼ばれる分野で高いシェアを有する企業の海外展開が、国内の雇用・設備投資にマイナス要因となったケースは見られなかった。逆に海外でもまれる「学習効果」が、市場開拓や人材育成にプラスとなるケースがめだった。

新たな事業や海外展開に加え、得意分野での提携も増加傾向にある。このコラムを書いているときに、ホンダとGMが燃料電池車で提携するとのニュースが飛び込んできた。ホンダは近年、航空機事業に進出した。また、日本の自動車メーカーでもっとも早く、北米に製造拠点を立ち上げた企業だ。進取の気質に富む研究開発と高い技術に裏打ちされ、いち早く海外市場に打ってでて、もまれる経験が多ければ多いほど、チャンスを切り開くことができる好例といえるのではないだろうか。

(2013年7月5日掲載)