日常と異なる経験と転機

副主任研究員 深町 珠由

大震災を経験した激動の2011年が終わり、新たな年を迎える時期が来ている。2011年の一年間を振り返って、私が精神的に大きな転機を感じた出来事がある。それは労働大学校での被災学生支援である。

今まで、相談員からの聴取等をふまえて、キャリアガイダンスに関する研究や、キャリアガイダンスに役立つ支援の研究を行ってはきたものの、自らが相談窓口に立って直接学生や求職者の支援を行ったことはなかった。戸惑いはあったものの、被災された学生さんたちは続々とここに宿泊に来られるのだし、立ち止まっているわけにはいかない。と、そんなことを考えながら、実際の相談やセミナーでVPI職業興味検査やキャリア・インサイトを使うこととなった。自らの部門が開発している検査類を使って相談を行うことが、自分たちの得意分野を生かせるし、開発機関ならではの情報を生かした貢献ができると考えたからである。

結果として、多くのことを経験し学ぶこととなった。

まず、「人生初めて」の出来事はとても緊張するという当たり前のことを知った。

最初の相談では、まず話をどう切り出してよいのかとても迷い、緊張した。しかし、検査やツールの結果を糸口に話を向けてみると、意外なほど簡単に打ち解けて話を進められるようになった。被災学生の抱える個人的な事情や悩みを面と向かって聞くことは難しいが、検査結果というきっかけがあると、そこから話題を広げることが(相談初心者の私であっても)比較的簡単にできることを体験できたのである。

相談員の方々に対する研修の中でいわれる、「検査結果を糸口として話を進めるとよい」ということを自分で証明することになったので、これは貴重な経験となった。

その後も様々な事例に遭遇したが、次第に自信を持って取り組めるようになった。場数が物を言う世界なのだ、ということも次第に体感できた。

検査やツールは、開発当初は開発者側にあらゆるデータやノウハウが集積されているが、いったん開発者の手を離れ公表されると、ユーザの手に委ねられ、そこに情報やノウハウが蓄積されるようになる。今回の学生支援の体験は、そうしたユーザ側のノウハウの一端を垣間見た気がした。こうした体験は今後の改訂を進めるための良いフィードバックにもなる。

キャリア・インサイトを始めとする、コンピュータによるガイダンス(CACGS)に関する研究は、欧米でも盛んに行われているが、その中で、出力結果に対してユーザが抱きがちな「典型的な誤解」というものが整理されている(Osborn&Zunker,2006)[注]。例えば、「コンピュータの出す結果が絶対だ」という誤解は典型的なものである。このようなことが起こらないよう、相談担当者は適宜介入して、適切な支援やアドバイスをする責任があるのだとも指摘されている。CACGSはユーザが自力ですべてのガイダンスを体験できる「セルフヘルプ」システムとして作られているものの、利用場面においては「一人」が必ずしも推奨されていないというのが、現在の知見で主流となっている。この知見を実感する上でも、今回の相談体験は非常に勉強になった。

相談やガイダンスの場面において、検査やツールはどんどん使うに越したことはないと私は思っている。人間の対話の力だけですべての有用な情報を提供したり、引き出したりすることには限界があり、必ずしも誰もがそううまくできるわけではない。そうした限界をわきまえた上で、有効だと見定めた検査類を使って相談やガイダンスを行うことは、人間の英知を活用したスマートな活動につながるのではないかという期待を私は持っている。

とはいえ、今回自分が体験した相談は到底スマートなものだったとは言えない。まだまだである。

つたない自分の体験を通して学生支援を垣間見るという転機を経験し、今後は相談の道具を携えて有効な支援の仕方や相談のあり方についてもっと考えてみたいと思うようになった。転機というのは日常と異なる体験をするからこそ、こうしてめぐり合えるものなのかもしれない。

【参考文献】

  • ^Osborn, D.S. & Zunker, V.G. (2006) Using assessment results for career development (7th Edition). Belmont CA: Thomson Brooks/Cole.

(2011年12月21日掲載)