イクメンと企業役員のクオータ制

調査員 飯田 恵子

先日、高校時代の男友達から第1子誕生のため育児休業で1年「イクメン」をするとの連絡があった。その時は「夫が子育てする時代か」と単純に思ったが、後日会って聞くと、妻の職場は育休が非常に取りづらく、夫婦で悩んだ末の苦渋の選択だったらしい。

友人は「ここまでしたからには妻には役員まで出世してもらう」と半分真面目に話していたが、ふと気になって調べると、上場企業の役員等に女性が占める割合は1.2%。かなりの狭き門だ。それに対してノルウェーではこの割合が40.3%と高い。実はこれにはクオータ制が大きく関係している。

ヨーロッパで進む企業役員のクオータ制

ヨーロッパでは近年、企業役員に占める女性割合が極端に少ないため、クオータ制(割当制)を導入して積極的に格差の是正を図ろうとする動きが活発化している。今年7月、EU議会は役員の女性割合を2015年までに3割以上、2020年までに4割以上に引き上げるよう、主要加盟国に対して要請した。また、要請だけで達成が困難と判断した場合にはEU立法で義務付けるとしている。

EU主要国で早期に役員のクオータ制を法制化したのはノルウェーである。2003年にまず国営企業や複数州で活動する企業を対象に「取締役は男女ともに4割以上」を義務付けた。2005年には上場企業も対象となり、遵守できない場合は企業名の公示や企業の解散などの制裁が科される。このような法規制によって、現在ノルウェーでは企業役員の4割が女性である。このほかオランダでは、2009年に国営企業や従業員250人以上の企業を対象に2015年までに「取締役は男女ともに3割以上」が規定された。また、イスラエル、スペイン、アイスランド、フランスでも同様に法律で役員のクオータ制を義務付けている。ベルギーでも今夏に法案が成立し、ドイツでは現在法制化に向けた議論が行われている

欠かせぬ環境整備と専門支援

EUによると、女性を多く活用している企業は、売上・財政面でより良い実績を出す傾向にある。すでにクオータ制を導入済みの国では、導入前に「企業の競争力が落ちる」として強い反発があったが、これまでのところ経済への悪影響は見られず、女性役員がいない企業と比較してより好業績との調査結果(注1)も出ている。

EUは加盟国に対して、今後さらに女性の登用を促進するために女性の能力向上訓練やメンタリング、ネットワーキングの強化など専門的な支援策を実施するよう求めている。同時に女性に負担が偏りがちな育児・介護の両立支援に関する企業への実質的インセンティブ支援策、男女ともにワーク・ライフ・バランスを強化する必要があるとしている。

クオータ制は日本にも波及するか

2010年の日本の雇用者総数に占める女性割合は42.6%である。1985年に35.9%だったことを考慮すると、女性の労働参加はこの四半世紀で大きく上昇した(注2)

その一方で、前述の通り企業の女性役員の割合は1.2%(注3)。女性の役員登用を阻むものは何だろうか。

実は働く女性は増加しているが、第1子出産後には約6割の女性が退職している(注4)。ここでまず「出産を契機としたキャリアの中断」という壁がある。このほか「職場の男女均等待遇」や「女性の意識の問題」といった壁も存在する。

21世紀職業財団が実施した「女性労働者の処遇等に関する調査」では、女性の「就業継続に必要なこと」として、若年層では「育児や介護のための労働時間面の配慮」への希望が多く、中・高年層になると「男女の均等待遇と公正な人事評価の徹底」の希望が多くなるとの結果が出ている。また、「管理職の希望有無」については、「なりたくない」という割合が一般職女性で55.3%、総合職女性でも29.7%となっていた。なりたくない理由として、総合職・専門職で「仕事と家庭の両立が図れる自信がないから」とする者の割合が高くなっている。

以上のことから女性役員の増加には、日本でもEUと同様に、育児・介護期の両立支援、男女の均等待遇や公正な評価といった環境整備はもとより、職場の意識改革や女性の能力向上に関する様々なポジティブ・アクション策が重要なことが分かる。「クオータ制」も選択肢の一つだが、女性労働者が元来少ない企業もあるだろうし、一方を優遇すれば逆に差別につながるなどの異論もあるだろう。

いずれにせよ、女性の労働参加やグローバル化が進む中で、働く人の意識も日々変化している。今後こうしたEUの様なクオータ制の流れが日本にも波及するのか注目したい。そして友人のイクメンが報われる日が来ることを祈りたい。

(2011年12月2日掲載)