二人で働いて幸せになる―夫婦・会社・世間―

主任研究員 中村良二

疾走するお父さんたち

この頃、自転車の前後にチビ助二人を座らせ、保育園へとスーツ姿で疾走するお父さんの姿を見かけることがある。実に颯爽としてカッコイイ! 大変だけれど頑張ってと、密かにエールを送る。夫婦二人で働きたい、働かざるを得ないなら、いかに分業・分担するのか、まずは夫婦間でお互いに納得することが必要となろう。

かなり前に、アメリカのあるトップエリート夫妻の記事を読んだ。大学時代の同級生が互いの仕事場のほぼ真ん中あたりに居を構え、すべての家事をほぼ半分ずつ分担したそうである。究極の「平等」の形かもしれないが、その結果は、二人ともくたびれ果てたあげくの離婚であった。二人で幸せになるはずだったのに、何かがズレていたようである。

女性が働き続けるためには

この何年か、中小企業のワーク・ライフ・バランス(WLB)について調査(注)を続けてきたが、他機関の調査も含め、そこで明らかになってきたのは、家事の大部分をほぼ女性だけが担っている、どうしようもない現実である。女性が継続就業する仕組みが徐々に浸透しつつあるが、より小規模企業では、育児休業云々の前に、結婚や出産で退職する女性が実に多い。休業制度は重要であるが、その前段階にも十分な目配りが必要である。

ある自治体Aが実施した調査では、「育児休業を取らずに復帰した」との回答は圧倒的に男性に多く、その理由は「面倒をみてくれる人がいたから」であった。その「人」とはまず間違いなく「妻」であろう。また、育児休業を取るべきか否かに対して、大多数がイエスと回答する中で、少数派ではあるが明確にノーを表明する人々もいる。回答者は男性に多かったが、その理由は、自分たちの「負担が増えるから」であった。

競争激化でより一層の効率化が求められる中で、さらなる負担も共有しつつ、皆の不満がなるべく小さくなるように、納得できるようにする…至難の業であろうが、WLB推進の一方の主役たる企業が、そうした人事管理を実践しないことには、状況は変わらない。

じっくり育てて、戦力化し、辞めさせない

A調査の中で、女性管理職が少ないと回答した企業は、「管理職に必要な経験や判断力がない」ことを理由にあげていた。どのような仕事を担当させながら育てるのかは、実は会社側の判断次第である。性別問わずきちんと育成した上で、「女性従業員『だけ』には判断力がない」というなら諦めもつこうが、それも評価の公平性や納得性にかかっている。ともあれ、じっくり育てた社員が辞めてしまうことは「損」と、企業は考えないのだろうか。育成のコストと退職の損失、それを企業がいかに判断するかである。

ある有名巨大企業では、従業員の親の引越費用を負担している。手塩にかけた従業員に働き続けてもらう←実の親に育児を手伝ってもらうことがいいだろう←親に引越してもらおう!という発想である。きわめて特殊な例ではあるが、そこに込められたメッセージは明確である。「あなたが大事!辞めてくれるな!できる限りのことはする!」である。むろん、それに相応する従業員の働きが期待されている。いずれにせよ、今後ますます、企業の「育てる」姿勢と具体的な中身が問われることは確実である。

親族や世間の目?

夫婦が互いに納得し、企業が十分な応援をしたとしても、まだ伏兵?がいる。某新聞社の掲示板をみていると、憤る姑たちが度々現れる。曰く、「嫁は息子に家事までさせているらしい。私はそんなことはしなかった」と。なぜ、昔とは違う今の夫婦のあり方を素直に認め応援しないのだろうか。夫婦間でモメる原因の一つは、こんなところに潜んでいるのかもしれない。翻って、未だ「男の子なのだから、料理も掃除も洗濯もできて当たり前!」とおっしゃる母親というジョセイにお会いしたことがない。世のお母様方、ご子息が後々、家事能力ゼロゆえに、奥さんとの生活できわめて厳しい立場に立たされないよう、ぜひ小さいうちからの「育成」をお願いしたいと思う。

(2011年7月29日掲載)