若年者雇用 雑感

副主任研究員 堀 有喜衣

急激に雇用情勢が悪化しているとの報道が毎日のようになされている。わたしたちは、バブル崩壊以降の不況のような状況に再び突入しつつあるのだろうか。まだ今回の展開は見えてきてはいないが、前回とは違うと感じられる点もある。そこで若年者雇用に限って、若干の雑感を述べてみたい。

第一に、バブル崩壊以降の不況は、高度成長期以降はじめて、若者の雇用の不安定化や失業の問題を大きく浮上させた。そのため、なぜこんなに若者が不安定化したのか、またそもそも不安定化しているのかということも含めて、なかなか問題の把握が進まなかったように記憶している。また若者への道徳的非難が認識の前提としてあり、「パラサイトだから」「怠けているから」などという風当たりも強かった。こうした状況が、若者支援への取り組みを遅らせたひとつの原因であったことはまちがいない。

しかし今回は、すでに多くの研究者によって積み重ねられた知見がある。これまでの経験から得た見取り図が今回にあてはまるのかどうかはまだわからないが、少なくともこれまでの苦い経験を生かして、今回の不況を乗り切りたいという気持ちは皆おなじだろう。

第二に、若者が自らの状況に対する抗議の声をあげ、それに社会が注目している、という点である。 2005年に起こったパリ郊外での若者の「暴動」は日本でも広く報じられたが、日本では若者の抗議行動は起きにくいだろうという印象をもっていた。しかし今回は違うようだ。日本社会に若者の声をくみ上げる回路が構築されつつあるのだとすれば、大変喜ばしいことである。

第三に、前回の不況の教訓として、企業は景気が回復した時期にも非典型化(非正社員化)、間接雇用化を推し進めていた。しかし今回、渡りに船とばかりにリストラを進めようとしたものの、あちこちで非正社員による抵抗が起きることとなった。これは多くの企業にとって予想外のことであったろう。非正社員、間接雇用であれば、何の障害もなく雇用調整が可能になるわけではなかった。この経験は企業側にどのように受容され、対応がなされていくのだろうか。

そして再び景気が回復したときのために考えておきたいことがある。若者の問題に最も関心が集まったのは2002年ごろであったが、その後の景気回復にともなって、世間の関心は驚くほど急激に薄れた。しかし景気がよいときに、労働政策はより効果を発揮するのではないだろうか。例えば効果を上げているとされるイギリスのNEET対策は景気がよく、失業率も低い時期にはじまっている。景気循環に振り回されない取り組みを考える必要があるのではないかと思う。

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(2008年12月26日掲載)