連合の09春闘要求論議始まる/賃金交渉を最大の景気対策に

調査員 新井栄三

連合が春闘要求の議論を始めている。中小労組に関連した動きを紹介する。

個別企業の枠を超えた交渉と政策・制度要求との連携を

連合の09春闘基本構想の最大の特徴は、個別企業の枠を超えた交渉を実現させることで、内需拡大による景気回復と、物価上昇下での生活防衛を図ることが狙い。「最大の景気対策は来年の賃金交渉」(髙木会長)と捉え、 (1) 定期昇給に相当する賃金カーブ維持分と、 (2) 物価高による賃金目減り分の回復に取り組む。さらに、「賃金カーブを維持し、物価上昇の手当をするだけでは、実質的な生活向上に資すべき原資は含まれてこない」(同)ことから、 (3) 実質賃金の改善も含めた「三段重ね」で春闘交渉に臨む姿勢を鮮明にしている。

物価上昇に見合う賃上げ要求は困難?

とはいえ、景気の後退で経営環境の悪化が懸念されるなか、経営側が「三段目」の賃金改善に応じるとは思えない。もっと言えば、「二段目」の物価上昇分の要求についても、その見方も含め、難しい交渉を余儀なくされそうだ。実際、髙木会長は10月30日の中央討論集会で、構成組織のなかに物価上昇分の要求すら難しいとの意見があることに触れ、「『しんどい』といった声が聞こえてこないでもないが、もしそんな議論があるとしたら、組合員はどんな風に受け止めるか。国民も『連合に期待していたが、そういう議論か』となり、ますます先行き不安を高めるのではないか」などと懸念を表明した。政策・制度要求に関しても、「政府にも景気対策を求めていくが、人に何かを求めるだけでなく、自分たちが景気対策のために何ができるかといった立場も大切だ」と訴えた。

参考までに、連合が今年6月に行った「生活アンケート」では、「かなり」と「やや」をあわせて94.7%の組合員が物価高を実感していると回答。物価上昇への対策(複数回答)では、約半数が「食費や外食回数を減らした」「趣味やレジャーの出費を抑えた」「衣服や靴の購入を控えた」と答えていた。他方、連合総研(薦田隆成所長)が18日に発表した「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」をみると、食料品など身近な品目の値上げの影響もあって、働く人が実感する物価上昇率は平均で11.5%に達している。髙木会長の指摘は、家計を守るために、いろいろとやりくりしている労働者の切実な思いを代弁しているようだった。

こうしたなか、議論では、「今回ほど、マクロ的な視点でモノを考え、要求・闘い方を考えなければならないことは滅多にない。高い視点から積極的な考え方に基づく要求を作り込んで欲しい」(JAM)「労働者の生活は苦しくなるばかり。物価上昇分を取り戻し、そのうえで生活の維持・向上や格差是正をめざす闘いを進めるべきだ」(UIゼンセン同盟)などと、中小共闘を牽引する産別から積極的な要求の組み立てを求める発言がでた。このほか、電力総連は、取り引きの適正化などを通じた中小企業の収益と労働条件の改善の取り組みを要望した。

他方、議論では、要求の組み立てに当たり、取り巻く情勢を踏まえた慎重な対応を求める産別も少なからずあった。

中小共闘は「4,500円以上」のベア要求を確認

一方、連合の中小労働委員会は10月20日、いち早く09春闘の「中小共闘」方針を確認した。賃上げの要求目安は、 (1) 賃金カーブ維持分 (2) ベースアップ分 (3) 格差是正分──の三段積み上げ方式。一段目の賃金カーブ維持分は、中小組合のカーブ維持分の推計値として「4,500円」とし、二段目のベア分は、物価上昇見合い分として2%弱を想定して「4,500円以上」を設定した。さらに、三段目として、単組事情により格差是正分を上積みするという。つまり、賃金カーブの算定が困難な組合は「9,000円以上」の要求目安になる。基本構想を踏襲しつつも、一段強めの要求に映る。

個別企業の論理を超えた運動を

討論集会で総括答弁した古賀伸明事務局長は、「いま求められることは国民生活の不安を払拭し、経済を安定的にさせながら日本社会をどう安定させるか。そのためには、内需の重要性あるいは早期の景気回復の基盤をつくっていく役割と責任を春闘の位置づけとした。個別労使となるとさまざまな課題があるし交渉は厳しいが、個別企業の論理を超える運動ができないか。働く者全体にとっての公正な分配、日本社会のこれからのためにどんな分配が必要なのかという視点で連合は旗を振っていく」と述べ、討論を結んだ。

基本構想は12月2日の中央委員会で「2009春季生活闘争方針」として決定するが、討論集会などの議論を踏まえ、11月20日の中央執行委員会では、2008年度の消費者物価の見通しを1%大半ばと想定する「闘争方針案」を確認。あわせて、産業や企業間の基本賃金の水準が比較できる指標も示された。

前述の連合総研調査では、今後1年くらいの間に失業する不安を感じている人の割合は23.8%で、2002年10月(24.9%)以来の高い水準となった。今後、春闘の焦点が賃上げから雇用維持に移りそうな気配も生じてきそうだ。中小共闘が積極的な動きをみせるなか、大手組合は働く人の思いにどう応えるのだろう。労働側の動きに対し、経営側はどんな主張を展開するのか。今後の動向を注視したい。

(2008年 11月26日掲載)


注:要求のたたき台となる「基本構想」と、主立った議論などは 11月25日刊行予定の「ビジネス・レーバー・トレンド」12月号をご参照いただきたい。