1995年 学界展望
労働調査研究の現在─ホワイトカラーの人事管理、女性労働、国際化
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今後の研究テーマ

八幡

一見、それぞれが独立した研究領域であるかのようにみえますが、議論を重ねるうちに、論点は一定の共通項に収斂してきたと言えましょう。つまり、変転の時代にあるという時代性であり、原点に立ち返って、幅広く考える時期にあるという点です。

そのような観点から最後に今後期待する研究テーマ一覧を提示することにします。

今後期待する研究テーマー覧

ホワイトカラーの人事管理分野

  1. キャリアの分析道具として、職種・職務区分の内容を再検討すること。業種や組織規模等を考慮したうえで比較可能な区分をつくること。
  2. 業種や企業規模、職種・職務区分によるキャリア形成の違いを調査すること。
  3. 企業組織や人事管理の推移と職務編成の変化およびキャリア形成への影響を調査すること。
  4. キャリアのあり方を特徴づける人事施策とその規定要因を明らかにし、近年の動向を解明すること。
  5. 主要な産業における特定企業の異動・昇進データによる包括的事例調査。
  6. キャリアに対する労働者のアンビバレントな意識の構造と要因、そのニーズの内実の調査。
  7. 複線型人事管理・専門職制度・自己申告制度などの実態調査。

女性労働分野

  1. コース別人事管理の多様化とその運用の実態。
  2. 一般職女性の職務構成上の位置とキャリア形成の実態。
  3. 女性労働者に対する処遇と査定の平等化の進展状況。
  4. 擬似パートの労働実態とその国際比較。
  5. 女性の就業選択理由の多様化の実態。

国際化分野

(1)海外現地生産の展開と労働面での対応
  1. 日系進出企業が現地の労使関係や労働慣行に与えた影響は、途上国と先進国ではかなり異なるだろう。また、進出企業だけではなく、日本企業の経営方式、日本の労働組合のリーダーの思考や行動様式などの知見をベースにしたうえでの国際比較の観点が重要。発展的な課題としては、市場経済化が進む社会主義国で日系企業が現地社会に与える影響。
  2. 進出してから長期間経ている企業を対象とする製品転換、リストラ、場合によっては撤退などの場面で労働面でどのような対応がなされたか。
  3. 中小企業経営者のキャリア形成の国際比較、途上国での研究はきわめて少ない。
(2)外国人労働者問題
  1. 技能実習生の実態調査
    国内での状況と帰国後の状況、国内では効果を上げるためにどのような工夫がなされてきたか、また帰国後に研修受け入れ企業とどのような関係を維持しているか、現地での仕事をするうえでどの程度効果を上げたか。
  2. 長期滞在の外国人労働者の社会的影響
    学校、自治体の支援体制、生活保護、帰国支援などの実態。