1995年 学界展望
労働調査研究の現在─ホワイトカラーの人事管理、女性労働、国際化
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女性労働

論文紹介

福原

女性労働では、キャリア形成・コース別人事制度、管理職への昇進・昇格をめぐる問題、パートタイマーの多様性と共通性に関する議論、そして最後に女性の就業選択に関する調査の4つのテーマを取り上げます。

従来の研究動向をみると、女性のキャリア形成についてはかなりの調査が蓄積されてきました。これに対し、近年、一つは経済不況に伴う女性の就職難の深刻化、もう一つは職場での男女の処遇の平等化が予想に反して進んでいないという二つの問題が指摘され、このなかで調査研究の動向も少し傾向が変わってきていると思います。そういう流れに沿って、以下ではいくつかの調査研究を検討していきたいと思います。

女性のキャリア形成とコース別人事制度

女性のキャリア形成については、脇坂氏の著書をまず取り上げたいと思います。著者はいくつかの業種の課・係からなる職場に焦点を当て、手堅い調査に基づき、女性のキャリア形成のあり方によって職場類型を抽出しています。すなわち、男性独占型、女性独占型、男女同等型、男女分業型、そして最後の二つの中間型(中間型についてもさらに2類型)の五つです。それぞれの類型は興味深いものですが、類型化を基礎にして女性労働を分析していこうという方法も大きく評価できると思います。なぜなら、研究者間の女性のキャリア形成をめぐる議論では、それぞれの研究者が前提としている産業や業種が異なることから、ややもするとすれ違いの議論がなされることがあるし、類型化によりこうした混乱は避けることができるからです。

ところで、こうした類型の違いが生じる理由について、脇坂氏は男女同等型職場についてはイノベーション仮説で説明し、男女分業型職場は統計的差別理論で説明しようとしています。職場の類型化だけではなく、そうした違いの生じた理由にまで深く立ち入って分析をしたという点で貢献は大きい。しかし、その視点は、いずれも企業側が女性労働力に対して統計的差別という認識を持っているか否か、あるいはその認識が変化していくことによって説明しようとしています。実際には、個々の企業や業種の「仕事の質」とコストの視点から女性労働力を活用するかどうかを決定するという側面もあるのではないかと思います。

とはいえ、著書は女性のキャリア形成を職場レベルで観察し、それを類型化するということで、これまでの女性キャリア形成研究の一つの到達点を示していると思います。

脇坂氏は、もう一つの論文でコース別人事制度が女性労働力の活用の面でうまく機能しているかどうかを検証しています。男女いずれも採用時と採用後では潜在能力が変化し、採用時にコースを決定してしまう制度が効率の側面からみて欠点を持つと言っています。そして、それを克服する手段としてのコース転換制度についての調査がなされ、結論として、「コース転換制度は、キャリア・アップの要にとどまるだけでなく、一般職の底上げによって、自ら転換制度の必要性をなくし、全体として昇格制度のなかに解消されていこう」と主張している。同じ主張は、1988年の小池論文(小池・冨田編『職場のキャリアウーマン』)でなされ、脇坂論文は小池氏の主張を調査に即して補強したという関係にあります。

脇坂氏の女性のキャリア・パスについての考え方の基本は、「女性は仕事が充実しているほど定着志向が強くなる」とするものです。また、使用者の統計的差別を克服する手立てとして、一方でイノベーターの存在に期待しつつ、他方でキャリア・パスのための制度の確立(たとえばコース転換制度)を図る必要性が強調されました。

ところで、これに関連して、近年、二つの調査動向があらわれています。一つは、コース別人事制度の欠点をさらに多岐にわたって調査したり、また廃止への動きを検証するもの。もう一つは、女性のキャリア形成に関する議論の前提として、これまで統計的差別理論を前提としてきたが、それだけでよいのだろうかという議論があらわれている。これに関する調査をいくつか拾ってみたいと思います。

中村論文は、総合職を対象とした調査である21世紀職業財団『総合職女性の就業実態調査結果報告書』(1994年)を使って、以下の諸点を発見しています。[1]女子の管理職は中堅・中小企業が多く、係長など管理職位の低いところで多い。しかも学歴の中心は高卒である。[2]総合職は大企業にあてはまる概念であるが、大企業に女性管理職が少ないことは、総合職が女性の有効活用として生かされていない。したがって、[3]コース別管理については、コース別管理制度が女性管理職育成にとって欠点を持っている。すなわち、入社時に不確実な将来の選択をさせることになり、それが総合職を選択する女性の少なさや、予想外の離職を生んでいると分析しています。中村氏は、コース別人事制度の廃止とまでは言わないが、管理職の育成には関連した職務群の経験=キャリア形成が必要であることを強調し、これは脇坂氏の主張と重なります。

大沢真知子論文は、近年の女性の就職難をふまえて、その理由を「女性労働者の景気調整弁的な役割という議論」だけに解消せず、むしろ経済の構造変化のなかで企業の高学歴女性の採用方針に質的な変化がみられる点に注目しています。大沢氏はマクロ的な統計データを駆使して近年の就職戦線の変化を[1]短大卒や高校卒に厳しく、[2]総合職よりは一般職に厳しいと分析し、そのなかに企業の女性採用に質的変化を読み取ろうとしています。そして、日興証券人事課長の話を引き合いに出しながら、従来の一般職の仕事がより専門化することによって総合職と一般職の区別が消滅していくとまで主張しています。企業は女性の大卒の採用に関して少数精鋭主義をとり、他方、これまでの一般職の仕事を非正規従業員に代替させる方向へ向かっているという。コース別人事管理は消滅すると同時に正規従業員・非正規従業員の間の身分差・分断、すなわち女性労働者の二極分化がさらに進むのではないかとみています。

このようなドラスティックな変化が急激に起きるとは思えませんが、コース別人事管理の見直しが一部の企業で始まっており、それが女性労働市場全体の質的変化に影響しているとする仮説は長期的にはあてはまるかもしれません。

次に冨田論文を取り上げますが、彼は「統計的差別理論を越えて」と題する問題提起から論文を始めます。そこでは、統計的差別理論をふまえた、職場における女性の人材育成に関するこれまでの雇用制度の議論を三つに整理しています。すなわち、[1]企業が女性活用を目指した雇用管理をすることが女性の定着率を高める、[2]潜在能力の高い女性労働者を選抜する方法としてのコース別人事制度の合理性を説明し、[3]女性が男性同様に長期勤続することが可能となる制度としての育児休業制度の導入の必要性を重視することになったと。

これらの制度の充実を評価したうえでなお、冨田氏は労働省『女子労働者労働実態調査』(平成2年)によりながら、「企業にとって望ましい女子労働者の勤続年数を実現するために、結婚あるいは出産退職の慣行を使って女性労働者の勤続年数をコントロールしている」事実に注目する。続いて連合総研『仕事と職場環境に関する調査』(平成3年)を取り上げ、「上司」「仕事のやりがい」「人事考課の公平さ」などの職場環境に関し、男子に比べて女子の満足度が低くなっていることを明らかにしている。そのうえで、「仕事のやりがい」に注目して、補助的・定型的業務の女性に対する新しいキャリア・コースの必要性が強調され、これは暗にコース別人事制度への批判を含んでいると思います。

このように、脇坂氏、中村氏、大沢氏、冨田氏それぞれの分析視点は異なるわけですが、コース別人事制度の問題点を指摘し、さらに論者によってはこの制度の廃止まで求める、あるいはその方向へ進むという主張までなされています。しかし、こうした議論は、さきのホワイトカラーのキャリア形成のところで議論になった複線型人事管理とか専門職養成といった議論とどのようにかみ合うのかあるいは整合性を持つのか、この点は今後議論すべき課題として残ると思います。

それから、冨田氏の議論に戻るのですが、彼は、企業による恣意的な女性の勤続年数コントロール、「上司」や「人事考課の公正さ」への女性の不満を指摘しながらも、その問題について深く追求していないのが気にかかります。しかし、この問題をとらえようとする調査がいくつかみられるので、次にそれをみていきます。

管理職への昇進・昇格

八代論文の中心的関心は、これまで十分に明らかにされてこなかった人事管理部門の役割を明らかにしようというもので、それに成功していると思います。彼はそのうえで、今後の課題として次の点を指摘しています。女性従業員が管理職に昇進するためには、同一企業に勤め続けることが必要であるが、その可否は人事部門の機能もさることながら、一つは上司の女性に対する行動によるところも大きいと。大手小売業は女性管理職育成の点で相対的に積極的であるが、この業界においても「上司」によって左右されるところが大きいという指摘は興味を引きます。

統計的差別理論を前提とした雇用制度の実施にもかかわらず、昇進・昇格での女性差別が残っており、その背後に「上司」や「上司による女性への査定」の問題が存在すること、それに注目した調査がいくつかみられます。

遠藤論文は、一方で労働者生活にとっての査定の意味を問い、他方では、能力主義の公正性を保証するものとして査定をとらえる考え方への批判として書かれたもので、性と信条についての差別実態を調査しています。

ここでは、このうち性差別についての部分についてのみ言及しようと思います。遠藤氏はケース・スタディにもとづき、女性労働者と男性非労働組合員の間で熟練度または生産性に顕著な差がないと推測されるにもかかわらず「査定分」に差が生じ、それが長年にわたって累積する様子を明らかにしました。

この種の調査は、使用者の差別的意志が査定にあらわれるとしても、それをどこまで数値として把握できるかという点で、慎重でなければなりません。しかし、こうしたケース・スタディにもとづく調査研究がこれまで十分になされてこなかったという点で、この研究はパイオニア的な意義を持つと思います。また、この研究は女性労働者に対する差別を単に統計的差別理論だけでは説明できないことを実証的に明らかにしたという点でも評価できるでしょう。

燈田論文は短いものですが、大企業男性管理者に対しアンケート調査を実施し、その価値観を探っている点で興味深い。男性管理者は「不測の事態に対処できる危機管理者としての能力」や「勇気を持って業務や行動の革新を計画し、部下からの提言を受け入れる」などを管理者能力とみなし、「女性管理者はこれらの能力が男性管理者に比べ劣っている」と考えていることを明らかにした。この調査では、男性上司が女性の部下を管理職に昇進させることに対し、排除の論理があることをきわめてストレートに明らかにしたという意味で興味深いと思います。

以上、近年の女性正規従業員をめぐる調査動向をサーベイしましたが、そこで感じた点をいくつか整理します。

第1に、従来女性のキャリア形成のあり方を探る研究調査が主流でしたが、脇坂氏の著書はそうした流れの一つの到達点を示しているものとして評価できると思います。

しかし、第2に、こうしたキャリア形成に関する多くの調査がおしなべてコース別人事制度の欠点を指摘し、あるいは全体としての昇格制度への転換が主張されていますが、実態として多くの企業でそのような動きが出ているのだろうかという疑問が残ります。

第3に、こうしたキャリア形成を中心とした調査研究に対して、異なった視点からの調査が出てきているということです。すなわち、女性に対する「査定」のあり方や「男性上司」の価値観そのものを改めて問題にするというものです。

そして第4に、従来女性の雇用管理は統計的差別理論を前提にしたうえで提起されたものが基本でしたが、近年はそれとは別な差別の論理があるのではないかという点、すなわち性別役割分業に基づく男性管理者(あるいは広く男性)の差別意識を読み取ろうとする調査があらわれてきていると思います。

パート労働

次にパート労働に関する調査に移ります。パート労働についてはまず労働省が実施した実態調査があります。これは近年では最も包括的な調査ですが、これを素材として、あるいはこれを活用した分析がいくつかなされています。その一つに仁田論文がありますが、ご存じのように、氏のパートタイム労働の類型化とその概念規定をめぐってその後大沢真理氏との間で論争(?)が起きました。このパートタイマー理解をめぐる論争は、直接には労働調査からはずれるものですが、パートタイマーの実態把握・調査のあり方とかかわるものだと思いますので、取り上げたいと思います。

労働省調査は、「事業所が正社員以外でいわゆるパートタイム労働者的扱いを行っている者」を「いわゆるパート」と呼び、「いわゆるパートのうち一般の正社員より所定労働時間が短い者(いわゆるパートのうち短時間労働者)」を「Aパート」、「いわゆるパートのうち一般の正社員と所定労働時間がほぼ同じ者」を「Bパート」と類型化しています。

パートタイマーの働き方はきわめて多様ですが、こうした多様性を実態調査にもとづいて類型化しようとする研究が一つの流れとなっています。たとえば中村圭介氏は1990年に4類型(「短時間短期型」「短時間長期型」「長時間短期型」「長時間長期型」)を提示し、さらに佐藤博樹氏も91年に別な4類型(労働時間と配置業務および技能水準から類型化した「長時間基幹パート」「長時間補助的パート」「キャリアパート・専門パート」「短時間補助的パート」)を提示しました。

さて、仁田論文ですが、ここでは日本のパートタイム労働者が、国際的な常識でのパートタイム労働者と比べ、その定義が異なっていることに注目し、わが国に多い「疑似パート(労働省の言うBパート)」の「パート」性を検討し、他方同じく日本に多い「被扶養パート」に注目してその「労働者性」を問題として取り上げました。すなわち、こうした日本特有のパートタイム労働者の機能・役割を問題にしたと言えます。そして「疑似パート」については分析の結果、実質的な労働供給量と密接にかかわって賃金および賞与が支払われているとして「本来のパートタイム労働者より、一般労働者に類似していると言えそう」と結論づけています。他方「被扶養パート」については100万円の壁という課税制度がパート労働者に「就業調整」という行動を引き起こしているだけでなく、労使双方に能力開発へのインセンティブを与えないとしてその問題点を指摘しました。すなわち、国際的な常識ではとらえられない日本の特殊な側面、「疑似パート」と「被扶養パート」を抽出し、その労働市場における機能を検討したわけです。

これに対し、大沢氏から[1]疑似パートの位置づけ、[2]被扶養パートは本来のパートと言えないか、[3]人びとは「自由な選択」によってパートタイム労働者となるのかという問題提起がなされ、直接に仁田論文を批判の対象に取り上げました。

第1の疑似パートと短時間パートの間の賃金水準の比較方法をめぐる議論については、今後、方法論自体を吟味する必要があります。第2、第3の論点については、両者の間にはパートタイマーの実態把握に対する基本的な視角が異なっていることを指摘するにとどめておきたいと思います。仁田氏の場合、すでにまとめたように国際的に定義されたパート労働者の概念と比較してそれに含まれない「パート労働者」の多様性を指摘し、同時にそれらの「パート労働者」の持つ機能・役割そして問題点を明らかにするという、いわば労働市場の機能的な側面からパート労働者の抱える問題をとらえようとしています。これに対し、大沢氏の場合はパートタイム労働の実態のなかに性別役割分業の再生産過程をみいだそうとし、いわば本質論を展開しています。この論争は、仁田氏の実態分析に対し、大沢氏が批判を加えるという形で展開されたわけですが、大沢氏の問題提起が重要なものであるとしても、仁田氏の議論に対してはきわめて外在的批判であり、また仁田氏の議論の意味が十分にくみ取られていないように思えます。

三山論文は、同じく労働省調査を中心にパート労働を論じたものですが、パート労働者の持つ多様性と共通性という両面についてきわめて要領よく整理されております。

さらに、日本労働研究機構の調査報告書を取り上げます。これは、パートタイマーなどを広く非典型労働者としておさえることがややもすると「典型労働者」に比べてマイナスイメージをもってとらえられがちなのを反省して、「時間給労働者」という概念を使っています。意図は十分くみ取れるのですが、もう一つ説得力に欠けるようにも思えます。

第2章の神谷論文では、「就業調整タイプ」と「非就業調整タイプ」のパートタイム労働者の行動様式が調査分析されています。さきの仁田・大沢論争で問題となった「被扶養パート」の行動が明らかにされ、そのうえで税・社会保険制度の個人単位での適用の必要性が強調されています。

第3章の林論文では、卸売・小売業、飲食店、サービス業等でパートタイム労働者を基幹的・恒常的労働者として位置づける傾向を発見しています。本田論文もまた、基本的にはこれと同じ事実を発見しています。

第4章の野田論文では、このような変化をふまえたうえで、パート労働者に対する雇用管理・労働条件管理が企業への拘束力を強めるという形で展開されていることが明らかにされています。これは、卸売・小売業やサービス業ではほかの業種とかなり異なったパート労働者の働き方が存在し、仁田氏がとらえようとした国際的常識からはずれたパートタイマーが着実に増えていることを示すものだと言えます。

女性の就業選択

最後に女性の就業選択に関する調査を取り上げます。女性の就業選択については、従来ダグラス・有沢法則によって説明するのが一般的だったわけですが、近年ではとくにパートタイマー女性の就業選択は必ずしもこの法則で説明できないのではないかという見解が示されてきております。高山・有田論文は、統計データを駆使しながらこの点を明らかにしたという点で重要な貢献をしたと言えます。

この論文では、女性がフルタイムで働いている世帯は夫の収入が400万円以下の階層に比較的多く、専業主婦世帯は400万円以上の階層が相対的に多かった。これに対し、パートの世帯構成はサンプル全体と大差がなかったとしています。すなわち、フルタイムの就業はダグラス=有沢法則が成立しているが、パートの就業についてはそれが当てはまらず、異なった要因によってパートが選択されている点を発見しています。

このような分析は、高山・有田論文によってようやく始まったばかりではないかと思いますが、今後時系列的な調査研究が必要であることを著者たちも述べており、今後の成果が期待できます。

討論

八幡

福原さんからいくつかのおもしろい問題提起がありましたが、それに関連して意見を述べたいと思います。

一つは、コース別人事管理に絡んで、結果的に、一般職の問題がクローズアップされてきました。つまり、ある意味では、総合職的な仕事にすべてが収斂していってしまうという議論ですが、では、一般職の仕事がなくなっていくのかという点です。たとえば情報化が進んだために、それまで一般職がやっていたルーティン的な事務処理の仕事がなくなってゆく。金融業をみているとそれも実感しますが、しかし、それ以外にも一般職の仕事はいろいろあるわけで、たとえばコピーとりとか、伝票整理とか、営業所で待機していて営業マンとの連絡事務を担当するとか、かなりフレキシブルに対応しなくてはならないような仕事がたくさんある。そうした場合に全員が総合職になってしまうと、その仕事をどうするのかという大きな疑問が出てくる。

テンポラリー・ワーカーに代替されてゆくという感じもするが、その辺がどういう議論なのか、わかったら教えてほしいと思います。

女性のキャリア形成とか、コース別人事管理制度の運用実態をみていくとき、注目してほしいと思うのは、職場レベルでの男女の協業の構造です。これを明らかにした調査は知りませんが、アメリカと比較すると、日本の職場はだいぶ違うのではないかと思います。そういう職場レベルでの、これは調査も分析も難しいけれども、どういう分業関係になっているのかを明らかにすることが重要だと思います。そのなかで性別分業はかなりはっきりした形であるのか、あるいは現実は相当入り乱れているのに性が違うがゆえに査定が違ってきたり、プロモーションで不利に扱われているのか、その辺をしっかり調べる必要があると思います。

それと関連して、さきほど福原さんもご指摘のように複線型人事管理とか、専門職制度との絡みでどうなのかということですが、脇坂論文では職場類型から整理しようとしていますが、どういう職務分担関係にするかによって、質的に随分変わってくると思います。女性独自の専門職といっても、受け皿はあまりないのが現実です。そういうことを考えてくると、大量に増えてくる総合職の女性にそういう選択の余地はどの程度あるのでしょうか。

次に、パートタイマーの問題では、疑似パートがこれからかなり注目されると思います。というのは、パートタイム労働法では疑似パート(フルタイム・パート)は適用除外されているからです。常用雇用化した疑似パートはみ方によって時間給労働者の問題とみることができる。つまり、実態として正社員と変わらない働き方をしているなら、正社員化して、賃金や社会保険も同じに扱うべきでしょうから、そういう意味で疑似パートの問題はかなり大きな問題だと思います。

就業の多様化が一時随分議論されたわけですけれども、正社員との協業関係で、たとえば派遣労働者・期間工・社外工・契約社員とか、そういう正社員以外の働き方をしているテンポラリー・ワーカー全体に注目しておく必要もある。アメリカで最近ブルーカラーの派遣労働者が増えていますし、日本でも派遣職種の見直しがなされつつありますが、派遣労働者も含めてテンポラリー・ワーカーの労働市場が今後広がっていくとすれば、今までパートタイマーを活用することで維持してきた雇用のフレキシビリティの部分も質的に変化する可能性がある。昭和30年代に臨時工の問題で大騒ぎした時代がありますけれども、身分差別をなくそうということで正社員化して解消したわけで、それと同じようなことが、疑似パートの問題で起こりうるのではないかと思います。

コース別人事管理のゆくえ

福原

一般職の仕事がどれほどテンポラリー・ワーカーなりパートタイマーに置き換えられていっているのかという問題については、たとえば、銀行などでは一時期そういうことが進んでいたと思うんですね。ただ、一般職の仕事すべてがパートなりテンポラリー・ワーカーに置き換えられるものなのかどうか、そこについては議論があると思うのです。そして、多分それはできないと多くの人は考えているようです。むしろ一般職的な人たちがやっている仕事というのは、総合職と違っていてもそれはそれなりに重要だという認識はあると思います。銀行の支店において一つの勘どころになるような仕事をやはり一般職の人たちがやっているという認識はあると思うのです。たとえば窓口のすぐ後ろでお金を管理しているような勤続年数の長い女性は、基本的には一般職ですね。だから、こういう人たちの仕事がテンポラリー・ワーカーなりパートの人たちに置き換えられることはまずないという認識が、結構多くの研究者の間にできていると思うのです。そういう意味で、今後パート化が進展するにしても、あるいは派遣労働が増えていく可能性があるにしても、一般職の仕事が完全に置き換えられることはまずないだろうと思います。

それから、私自身もよくわからないのですが、職場における男女間の協業についてです。たとえば百貨店とかスーパーなどの職場であれば、男性社員はあらかじめ管理職候補という形でやっていきますが、女性は違います。こういう形で日本は一応男女間での分業というか、職位の違うものとしての分業ですけれども、そういう形で始まっているのが多いのではないかなと思います。だから、脇坂氏が言う男女同等型の職場でも、実は今言ったような関係が基本ではないかと思います。その点、どうなのでしょうか。

橋元

今の総合職というのは、要するに男性のキャリアを修正して、企業として体系化し直したうえでつくられているということではなくて、従来、男性がやっていたものを総合職と呼んで、そこに入って頑張る気があれば女性でも入っていいですよという、そういうのが実態でしょう。そうすると、男性とは労働法制上の扱いで違いがあり、生活面で抱える条件の差も大きい女性にとって、いろいろな問題が生じてきたのは当然だろうと思います。ですから、女性の総合職をめぐる問題は、起こるべくして起こってきたと言えるでしょうし、むしろやっと問題になってきたかという気がします。そういう意味で問題は、制度そのものにあるというところが非常に明確になってきたという点で、この間の研究は、実態を正確に分析する方向で進んできていると思います。

八幡さんは職場での協業というお話をしましたが、仮に新しい協業みたいな形がつくられていないにしても、実際に職場で女性が総合職でやろうとしたときに、具体的に起こっている問題というのは、どこまで明らかにされているのでしょうか。キャリアを選択するということにかかわって起こっている問題ばかりではなく、総合職で入っていった女性が、仕事のなかで直面した難しい問題があると思いますが、そうした問題として具体的にはどのようなことが明らかになっているのでしょうか。たとえば営業などが典型だと思うのです。何時までが業務としての接待ですかと管理職が女性社員から言われたときに、非常に困惑したというケースを聞いたこともありますが、そうした場合、仕事そのものの問い直しなり、もしくは女性の働き方についてのいろいろな問題点や工夫はどこまで明らかにされているのでしょうか。

福原

そういう研究はあまりないと思いますね。ところが、女性の就職差別について関心のある女子学生たち、たとえば関西の大学にある女性問題研究会の連合組織が、就職で企業回りをしている人たちにアンケート調査をして、具体的に、採用に当たって女性差別的な実態があったのかどうかを調べ、また就職した女性には、就職先での女性にとって働きづらい条件がどうなっているのかについて調査したものなどがあります。それらは、いくつかの事例を紹介することで社会的問題を明らかにしようとしています。

そういう調査は、研究者も個別の面接調査で拾っていくことはできると思うのです。ところが、それを数値として示し、こんなにたくさんあるんですよという形での積み重ねがなかなか難しい。ひょっとしたらできないかもしれない。したがって、結局、いろいろな調査があるにしても、数値化しやすいものの成果がやはり表に出る格好になっているのではないかという気がするのです。

遠藤氏が書いていましたが、このような差別の問題については、労働法の立場からは問題として提起されています。ところが、経済学という視点からは、そういう問題がなかなか提起されないということを指摘されています。そのことは多分、今言ったようなことと密接に関係する事柄ではないかと思います。

橋元

私は、キャリアそのものの組み方とか、実際に職務能力が高まるプロセスということ自体が、女性が普通に生活しながらやれるようなものとして企業がくみ上げないかぎり、いくら準備しても、これは相当頑張る人しかそこには入っていけないという構造は多分残ると思うのです。

八幡

総合職の女性はまだ企業内でマイノリティですから、マジョリティにはならないだろうが、少なくとも相当の数になって、企業も彼女たちを活用しないとやっていけないという状況になってくると、総合職のなかで優秀なグループとそうではないグループに分かれてくるし、そうすれば現実の問題としてみえてくるものだと思います。量的にある程度増えなければ、キャリア・コースの設定もなかなか難しいと思います。

ただ、脇坂論文で強調されているように、一般職と総合職のコース別人事管理、これはもう終焉に向かっているというような評価でいいのでしょうか。

福原

むしろ、総合職と一般職の間に別のコースを設ける、すなわち新総合職や専門職のコースを設けるというのが普通の流れですよね。そういう意味で、むしろ、広い意味での複線化が女性についても進んでいると考えるべきではないでしょうか。

この流れというのは、明らかにコース別人事制度の精密化と弾力的運用ということになると思うのです。脇坂氏などの言われることと、事態はむしろ逆ではないかと思います。この辺がどうもよくわからないのです。

橋元

対応は今のところ企業によってまちまちだと思います。制度として何とか対処していこうというところは、精密化といいますか、そういう方向に進んでいって、もうそれほど重要な戦力としてみなしていなくて、雇用機会均等法との絡みのみでそういう仕組みをつくったところは、むしろ実効性がないからやめようというふうになっていくというのが実際ではないでしょうかね。

現在、制度としてどのような改善・工夫を図ったらよいのか、という観点からの調査は少ないように思います。制度そのものがなくなっていくだろう、非正社員と正社員とに分かれていくだろう、というみ方が強すぎるかもしれません。

でも、福原さんと八幡さんがおっしゃったように、ずっと働き続ける一般職の仕事というのは残ると思います。企業がそれをどのように位置づけていくのかということは、今、非常に曖昧だろうと思いますが、当面、普通の正社員の仕事として存続するでしょう。それらの多くは、外部の人間には任せられない、内部養成による一定のスキルが必要で、深いキャリアにはならないけれども重要であるという性格の仕事でしょう。これらのどこまでを内部化しておくのか、今後、その見直しは順次進められていくでしょうが、そう簡単ではありません。

これは専門職制度の問題でも同様なことがみられます。専門職、専門職と言いながら、ほんとうに専門職になったら外部化することになります。ですから、企業は、企業の人材としての専門職というのをどこで線引きすればよいのか、どのような専門能力が内部人材として必要であるのか、明確にできないのです。本当の専門職になると企業としては困るのです。そこにどう線を引いていくのか、企業は躊躇しているようにみえ、キャリアを明確にしていけないのです。専門職キャリアの人がどういう仕事を社内でやっていくのか、明確に展望を打ち出せないでいます。他方で、従業員のほうはラインに魅力を感じている。こういうなかで制度の具体化や試行錯誤もあまり本格化しないというのが実情です。同じような問題を、この一般職の非正社員化ということでも感じますね。周辺部分はたしかに非正社員化していくでしょうけれども、企業自身が一般職の仕事をどう位置づけるかということが今後大きな問題になっていくのではないでしょうか。

女性の長期勤続化の影響

福原

全体の流れとしては、女性の勤続年数、これは正規社員、パートの女性も含めてですが、長くなっていますよね。だから、長く勤めたいという欲求を持っている女性が増えていることを、企業が認識することがまず重要ではないでしょうか。

冨田氏が言うように、勤続年数に対する企業側によるコントロールはあっても、それがなかなか効かなくなってきていると思います。そこではとくに、一般職の女性のキャリア形成や処遇についての、企業側の対応が問題になっていると思います。

ところで、話は少し違うのですが、この1~2年は新規学卒女性の就職難の問題が大きくクローズアップされました。これは一つには、経済不況という問題もあるのだろうと思いますが、他方には、全体として女性の勤続年数が長くなったことも影響しているのではないかと思います。企業としては、企業内における男女比率をできれば一定にとどめておきたい。ところが、辞める人がいなくなったので、採ろうと思っても採れない。そういう形で、実は採用にブレーキがかかっているのではないかと思います。

八幡

人事担当者は一般職女性の勤続年数が延びているので、採用枠が狭くなっているという言い方をしています。だから、短大卒は今年はほとんど採らないとか。

福原

勤続年数が長くなることは大いに評価してよいと思います。ところが、そのしわよせが新規学卒者の女性のところに全部かかってきているという今の状況が、もし何年か続くと、これは結構大変な事態になるのではないかと思うのですが。

八幡

一番やりやすい雇用調整のやり方が入り口を抑えることですから、そのやり方は変わらないと思います。ですから、基本的には女性があちこちで活躍して、数が増えてくれば企業も人事管理システムを変質させざるをえない。

事例にありましたが、要するにイノベーター的な企業が増えることがキーだと思います。たとえばリース業では第一線で多くの四大卒女性が活躍していますが、それは、本当は男性社員を採りたかったけれども、新しい業界なので、男性社員で優秀な人材は金融業に流れて採れない。それで四大卒女性に注目したら、女性のほうがずっと優秀な人が入ってくる。そこで、四大卒女性をどんどん戦力化しようという形でやっている会社がリース業に多い。

そういう形で四大卒女性が増えてくると、育児休業制度などの条件整備にも積極的に取り組むといった特徴がみられるが、仕事のやり方は男性社員とあまり変わらない。まだ若い会社が多いので、今後どうなるのか注目される業界だと思います。

四大卒女性が量的に増えて、管理職目前ぐらいになりつつあるというのは最近のことなので、今後どうなるかはまだ予測は難しい。今はちょうど分かれ目だと思います。

パートタイマー問題

福原

パートタイマーの問題についてですが、とくに疑似パートがこれまでも増えてきたし、今後も増えていくと思います。これを的確に把握するには仁田氏が提起したように、パート労働者の定義を明確にする必要があると思います。パートという言葉が乱用されているのが日本の実態でしょう。疑似パートはパートと呼ばないとか、別の名称を考えるとかしないと、議論が錯綜して仕方ないですよね。結局、仁田氏はそのあたりをうまく区分して概念規定した。そのうえで、それぞれの特徴を明らかにしようという作業をしたのだと思います。ところが、それが素直に理解されない状況が日本にはある。パート労働の本質論としての大沢氏の議論に疑問を抱いているわけではありません。しかし、そこから先のパート労働の具体像についての議論は、日本では未成熟であり、それが大沢氏の批判のような形で現れたと思います。

フランスなどのパート労働の概念規定をみると、正社員の法定労働時間あるいは協約で定められた労働時間の5分の1を下回る労働時間制をパートタイム労働時間制と呼ぶ。だから、正社員であっても、育児休業の代わりに一時的にパートタイム労働を選択することが原則として可能です。また、育児休業期間が終わって正社員としてフルタイムで仕事をするようになれば、これはパートからフルタイムに移行しただけの話なのですよね。

八幡

ワークシェアリングで短くなった場合は。

福原

それもそうなのです。

八幡

パートタイマー扱い。

福原

と呼ぶというか……。すなわち、日本とは異なった論理次元でパートタイム労働という言葉が使われているということですね。フランスでは、パートタイム的な就労形態は、経済のあり方とか企業の経営の問題を考えると、それを推進すべきだという立場が主流だけれども、一方で、労働者の諸権利については平等化を進めるべきだという考え方がある。この辺の線引きというか、概念、考え方がはっきりしている。ただし、パートタイム労働に従事している大多数が女性であるという点で、日本と同様の多くの問題も抱えています。

結局、日本の場合、正規雇用でない不安定な雇用形態、しかも女性が従事している場合はすべてパート雇用であるというように流れてしまっている傾向があるのではないかと思うのですが。

八幡

法規制がはっきりしないから、混乱している側面が強い。

福原

そうでしょうね。

八幡

しかし、たとえば社会保険に全員を強制的に加入させるとか、所得税も上限を撤廃して課税するとかすれば、みかけ上は、残業を除いて、正社員時間給労働者と変わらなくなる。そうすると、アメリカとかヨーロッパにはそういう人は大勢いるが、それと同じことになるのか。疑似パートは、今後、整理していくべき大きな課題だと思います。

文献リスト

女性のキャリア形成とコース別人事制度

  1. 脇坂明『職場類型からみた女性のキャリアの拡大に関する研究』岡山大学(経済学研究叢書)、1993年(『職場類型と女性のキャリア形成』御茶の水書房、1993年)。
  2. 脇坂明「女性ホワイトカラーと『総合職』問題」『大原社会問題研究所雑誌』422号、1994年。
  3. 中村恵「女子管理職の育成と総合職」『日本労働研究雑誌』415号、1994年。
  4. 大沢真知子「短大・大卒女子の労働市場の変化」『日本労働研究雑誌』405号、1993年。
  5. 冨田安信「女性の仕事意識と人材育成」『日本労働研究雑誌』401号、1993年。
  6. 日本労働研究機構『女性従業員のキャリア形成意識とサポート制度の実態に関する調査』(調査研究報告書No.21)1992年。
  7. 東京女性財団編『均等法パイオニア女性はいま─女性の就労チェックノート』1994年。
  8. 東京都立労働研究所『若年女子従業員の就業実態と意識』1992年。
  9. 東京都立労働研究所『女性活用に関する企業事例研究1993』1993年。
  10. 21世紀職業財団『総合職女性の就業実態調査結果報告書』1994年。
  11. 東京都労働経済局編『コース別雇用管理等企業における女性雇用管理に関する調査』1994年。

管理職への昇進・昇格

  1. 八代充史「大手小売業における女性の管理職への昇進─人事部門の機能の実態」『日本労働研究雑誌』388号、1992年。
  2. 遠藤公嗣「査定制度による性と信条の差別」『日本労働研究雑誌』398号、1993年。
  3. 燈田順子「なぜ女性管理者が育たないか」『日経ビジネス』1993年3月1日号。

パート労働

  1. 労働大臣官房政策調査部編『平成2年パートタイマーの実態─パートタイム労働者総合実態調査報告』1992年。
  2. 仁田道夫「パートタイム労働の実態」『ジュリスト』1021号、1993年。
  3. 大沢真理「日本的パートの現状と課題」『ジュリスト』1026号、1993年。
  4. 仁田道夫「パートタイム労働の実態をめぐる論点─大沢助教授の批判に答えて」『ジュリスト』1031号、1993年。
  5. 三山雅子「働き方としてのパートタイム分析」『大原社会問題研究所雑誌』408号、1992年。
  6. 神谷隆之「女子時間給パートタイマーの年間賃金─勤続年数別変化とその要因」『日本労働研究雑誌』415号、1994年。
  7. 本田一成「パートタイム労働者の基幹労働力化と処遇制度」『日本労働研究機構研究紀要』6号、1993年。
  8. 鈴木春子・栗田明良「個人対応型勤務制度化の女子パートタイマー─大規模小売店でのアンケート調査から」『労働科学』67巻12号、1991年12月。
  9. 日本労働研究機構『時間給労働者の特性と雇用管理上の問題点』(調査研究報告書No.47)1993年。

女性の就業選択

  1. 高山憲之・有田富美子「共稼ぎ世帯の家計実態と妻の就業選択」『日本経済研究』22号、1992年。
  2. 川島美保「共働き世帯の生活の性別役割意識」『大原社会問題研究所雑誌』411号、1993年。
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