資料シリーズNo.301
中間層規模の長期推移と地域分布

2026年3月31日

概要

研究の目的

日本の中間層割合(中間所得層割合)を(1)1960年代から2020年代にわたる約60年間の長期推移、(2)世帯主定義の違いによる推計差、(3)都道府県別の中間層の地域差とその関連要因、の3側面から整理する。

研究の方法

厚生労働省『国民生活基礎調査』(以下『国生』)、旧厚生省『国民生活実態調査』(以下『国実』)の公表集計結果、『国生』個票データ、総務省統計局『全国消費実態調査』『全国家計構造調査』個票データに基づく分析。分析に使用する所得は等価所得(世帯所得を世帯人員の平方根で除した所得)を基本とし、中間層を等価可処分所得(または等価総所得)の中央値の0.75倍以上2倍未満の所得を得る者として定義する。

主な事実発見

第2章

  • 第2章では、個票データの制約から検証が難しかった1970年代以前を含む、1960年代から2020年代の約60年にわたる中間層割合の長期推移を示している。厚生労働省『国生』、旧厚生省『国実』の公表集計結果を用い、世帯人員で調整した等価総所得の分布を復元し、中間層や貧困層などの各層の割合を推計している。あわせて、個票データを用いて、等価総所得に基づいて計算した中間層割合の値と等価可処分所得に基づいて計算した中間層割合の値との違い、および公表集計結果の総所得の階級データから計算した中間層割合の値と個票データの総所得から計算した中間層割合の値との整合性を確認し、公表集計結果からの近似が一定程度妥当であることを検証している。
  • 1997年基準(1997年の等価総所得の中央値に基づいて決まった各所得層の範囲)で各所得層の推移を推計すると(図表1)、1960年代初めには貧困層が大半を占め、中間層は小さいが、1970年代にかけて貧困層が急減し中間層が急増して分布の中心が中間層へ移っている。その後、中間層割合は1990年代前半に約6割に達した後に、1990年代後半以降は緩やかに低下して、2020年代では5割程度である。1990年代後半以降は貧困層と低所得層がやや増える傾向がみられ各2割程度を占める。高所得層は1980年代以降に増えて1990年代半ばに1割強となった後、2010年代以降は1割弱でおおむね横ばいで推移している。

    図表1 1960年代から2020年代にかけての中間層割合の推移 (1997年基準)

    図表1画像:横軸は年代、縦軸は所得階層別の割合(%)。1997年の等価総所得の中央値を基準に、貧困層・低所得層・中間層(中央値の0.75倍以上2倍未満)・高所得層の境界を固定し、各所得層の構成比が時間とともにどう変化したかを示す。1960年代は貧困層の割合が大きいが、1970年代にかけて貧困層が急減する一方で中間層が急増し、分布の中心が中間層へ移行する。その後、中間層は1990年代前半に約6割で最大となり、1990年代後半以降は緩やかに低下して、近年は約5割で推移している。

    資料出所) 『国民生活基礎調査』『国民生活実態調査』公表値より筆者ら計算。

    注1) 中間層等は、等価総所得に基づき定義されている。

    注2) 貧困層、低所得層、中間層、高所得層の範囲は以下の通り。

    貧困層の範囲 = 1997 年の等価総所得で測った中位所得の 50% 未満

    低所得層の範囲 = 1997 年の総所得で測った中位所得の 50% 以上 75% 未満

    中間層の範囲 = 1997 年の総所得で測った中位所得の 75% 以上 200% 未満

    高所得層の範囲 = 1997 年の総所得で測った中位所得の 200% 以上

    注3) 1997 年を基準として、物価調整済み。

  • 代表的な不平等指標であるジニ係数(図表2)を見ると、1960年代中に低下した後、1970年代以降は総所得、等価総所得の両系列とも緩やかに上昇し、2000年頃を境に2000年代、2010年代を通じておおむね横ばいで推移している。1997年基準の中間層割合(図表1)と比べると、特に1960年代から1990年代半ばまでの間で、中間層割合の値の動きとジニ係数の値の動きには乖離がある。1960年代中の中間層割合の急上昇や1980年代までの緩やかな上昇などの基準年固定の中間層割合の拡大・縮小の傾向を、ジニ係数を用いて表すのは難しいことがわかる。所得水準の全体的な上昇に対して中立的なジニ係数と、所得水準の全体的な上昇の情報を織り込むことが可能な中間層割合は、それぞれ個別に計算した上で、2つを併せた形で所得分布全体の動きを確認、検証することが重要である。

    図表2 ジニ係数の推移

    図表2画像:横軸は年代、縦軸はジニ係数(値が大きいほど所得不平等が大きい)。総所得と等価総所得の2系列について、ジニ係数の推移を示す。両系列はいずれも1960年代に低下した後、1970年代以降は緩やかに上昇する。2000年頃以降は大きな変化はみられず、2000年代・2010年代を通じて概ね横ばいに近い。

    資料出所) 『国民生活基礎調査』『国民生活実態調査』公表値より筆者ら計算。

第3章

  • 第3章では、世帯主定義の違いが世帯類型別の中間層割合(および現役/引退世帯の区分)に与える影響を、breadwinner基準による再集計によって検証している。図表3は、2021年の『国生』個票データを用い、世帯主の定義を、世帯側の判断に基づく「世帯の中心となって物事をとりはかる者」から、世帯員の所得情報に基づく「家計の主たる収入を得ている人」(breadwinner:世帯主=最多所得者)へ変更したときに、世帯類型別中間層割合がどの方向にどれだけ動くかを示している。単身(大人1人)類型では差は生じていない。一方、大人が2人以上の世帯類型で差が大きく、合計では現役世帯(世帯主年齢18~64歳)が+2.0%ポイント、引退世帯(同65歳以上)が-5.3%ポイントである。特に「65歳以上・大人2人以上・就業者あり(類型13)」で-6.6%ポイントと大きく低下しており、世帯側の判断に基づく世帯主(高齢者)と所得の担い手(現役である可能性が高い者)が一致しない同居世帯が引退側に混在していたことを示唆する。世帯側の判断に基づく世帯主の年齢に依拠した現役/引退の区分は、引退世帯の中間層割合を相対的に高めに見せる可能性があるため、世帯員の所得情報に基づいて世帯主を決めるbreadwinner基準による補完的な再集計を併用することが、世帯構造が多様化した社会の現状把握には有効である。

    図表3 2つの世帯主の定義に基づく中間層割合と世帯類型シェア (2021年)

    図表3画像:横軸は中間層割合の差(%ポイント)、縦軸は世帯類型。差は、世帯主を「最多所得者(breadwinner)」と定義した場合の中間層割合から、「国生」調査における世帯主定義に基づく中間層割合を差し引いた値(差=〔最多所得者〕−〔国生世帯主〕)である。0を境に、プラスは「最多所得者」を世帯主とした方が中間層割合が高いこと、マイナスは低いことを表す。単身(大人1人)類型では差はほぼ生じない一方、大人が2人以上の世帯類型では差が大きい。特に高齢同居世帯(65歳以上で就業者がいる類型)ではマイナスが大きく、世帯主年齢と所得の主な担い手が一致しない世帯が含まれうることを示唆する。

第4章

  • 第4章では、総務省統計局『全国消費実態調査』および『全国家計構造調査』の個票データを用い、等価可処分所得に基づく中間層割合(中間層の範囲は各年の全国中央値の0.75倍~2倍)を都道府県別に推計し、都道府県間の相対的な高低(地域差)とその背景要因を検証した。その結果、1999年から2019年にかけて中間層割合が全国的に縮小し、多くの都道府県で低下がみられた一方、1999年より2019年の値が高い県も複数みられる。ただし、都道府県別の推計値は標本誤差を伴うため、値の小さな差は統計的には意味を持たない可能性があることに注意する必要がある。
  • 通常基準(各年の所得中央値に基づいて中間層の範囲を定める方法)では、中央値が低い方へシフトする局面で中間層の範囲も低い方へシフトするため、所得が低い者が増えていても中間層割合があまり低下せず、数字の解釈が難しくなる可能性がある。そこで、1999年の全国中央値に基づいて中間層の範囲を固定した(1999年基準)うえで、1999年と2019年を比較した(物価変動は別途調整)。図表4は都道府県別の結果であり、沖縄県を除く46都道府県で2019年(青棒)が1999年(橙マーカー)を下回り、また低下幅には地域差がみられる。

    図表4 1999年基準の各都道府県の中間層割合の変化(1999年・2019年)

    図表画像4:横軸は都道府県、縦軸は中間層割合(%)。1999年の全国中央値(等価可処分所得)を基準に、中間層の範囲(中央値の75%〜200%)を固定したうえで、1999年と2019年の中間層割合を比較する(物価変動は調整済み)。沖縄県を除く46都道府県で、2019年の中間層割合は1999年を下回っており、低下幅には地域差がみられる。沖縄県では1999年から2019年にかけて低下が確認されない。

    資料出所)『全国消費実態調査』『全国家計構造調査』個票データより筆者ら計算。

    注1)中間層の範囲 = 等価可処分所得の中央値の 75 %から 200 %。

    注2)使用する中央値 = 1999 年の中央値。

    注3)全都道府県のデータを使って中間層の範囲を決定した上で、各都道府県の中間層割合を計算。

  • 第二に、税・社会保障を通じた再分配は、すべての都道府県で中間層割合を押し上げている。図表5は、2019年の社会保障給付を含まない等価当初所得(橙マーカー:再分配前)と、給付・負担を反映した等価可処分所得(青棒:再分配後)について、都道府県別の中間層割合を示しており、両者の差が再分配による下支えを表している。2019年は20年前よりもこの差が大きく、再分配による下支えが強まっている。これは各都道府県で高齢化が進み、年金等の現金給付の比重が高まった可能性を示唆する。他方、特に再分配前をみると20年前よりも中間層割合が低下している地域も多く、再分配は縮小を緩和するものの、中間層縮小の趨勢が続いていることが確認できる。

    図表5 再分配前後の各都道府県の中間層割合 (2019年)

    図表5画像:横軸は全国および都道府県、縦軸は中間層割合(%)。2019年について、再分配前(社会保障給付を含まない等価当初所得)と、再分配後(給付・負担を反映した等価可処分所得)を並べて示す。中間層の範囲は、再分配前は等価当初所得の中央値の75%〜200%、再分配後は等価可処分所得の中央値の75%〜200%に基づく。すべての都道府県で再分配後の中間層割合が再分配前を上回っており、税・社会保障を通じた再分配が中間層割合を押し上げていることが分かる。ただし、押し上げ幅(下支え幅)には地域差がある。

    資料出所)『全国家計構造調査』個票データより筆者ら計算。

    注1)中間層の範囲 (再分配前) = 等価当初所得の中央値の 75%から 200%。
    中間層の範囲 (再分配後) = 等価可処分所得の中央値の 75%から 200%。

    注2)使用する中央値 = 各年の中央値。

    注3)全都道府県のデータを使って中間層の範囲を決定した上で、各都道府県の中間層割合を計算。

  • 第三に、中間層割合の地域差は、各地域の賃金の高低だけでは捉えきれず、労働市場環境と世帯構造の双方が関係している。多変量解析の結果によれば、都道府県間の水準差(pooled OLS)については、失業率が高い地域ほど中間層割合が低く、また世帯内の就業者比率や世帯規模といった世帯構造要因が、地域間の中間層割合の高低と比較的明瞭に関連する傾向が確認された。他方、都道府県内の変化に着目する固定効果モデルでは、平均賃金の上昇が中間層割合の上昇と結びつく関係が最も安定的に確認され、大学卒以上比率や失業率についても一定の関連が示唆された。
  • さらに、現役世帯(世帯主年齢18~64歳)に限定したpooled OLSの推定では、地域別最低賃金や第2次産業比率といった労働市場要因との関連が相対的に大きくなり、働き手の所得形成を規定する地域要因が中間層割合に反映されやすいことが確認された。なお、固定効果モデル(都道府県内の年次変化)では世帯構造要因の係数は統計的に有意ではなく、同居促進などの世帯構造を直接変える政策によって中間層割合を高める方策は容易ではない可能性が示唆される。

政策的インプリケーション

  • 中間層の縮小を過小評価しないために、中央値連動の「通常基準」と、基準年の中央値に基づき中間層の範囲を固定(anchor)した指標を併用してモニタリング・政策評価を行うことが有用である。
  • 現役・引退世帯の区分や世帯類型別の推計は、世帯主定義で変わり得る。年齢別・世帯類型別に政策対象を設定する際は定義を明示し、可能であれば個票データの再集計等により代替定義による値も算出した上で、結果の頑健性を確認することが望ましい。
  • 中間層割合の値は都道府県間で差があり、また各都道府県内での低下幅にも地域差が確認される。税・社会保障による再分配はすべての都道府県で中間層割合を押し上げる方向に働く。就労所得の底上げ(賃金・雇用環境の改善、教育年数の長い者の雇用機会の確保等)と再分配を、地域の実情に応じて組み合わせる視点が求められる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材育成に関する研究」

研究期間

令和7年度

執筆担当者

篠崎 武久
早稲田大学・理工学術院 教授
高橋 陽子
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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