ディスカッションペーパー24-02
中間層を構成する世帯の変容
概要
研究の目的
所得の観点から中間層以上(中間層+高所得層)に分類される者の特徴を複数の分析手法を用いて明らかにし、その上で中間層以上の割合の上昇に資する政策のあり方について検討する。
研究の方法
厚生労働省「国民生活基礎調査」個票データを用いた分析。
主な事実発見
- 1997年と2018年の等価可処分所得(=世帯の可処分所得/√世帯人数)の分布を、世帯主年齢が65歳未満(図表1左側)の場合と、世帯主年齢が65歳以上(図表1右側)の場合に分けて比較した。世帯主年齢が65歳未満の世帯に属する者の所得分布では、1997年の中間層の下限(223万円)を下回る所得を得ている低所得層と貧困層の割合の合計は5.9%ポイント上昇している。世帯主年齢が65歳以上の世帯に属する者の所得分布では、低所得者と貧困者の割合の合計は12.5%ポイント上昇している。
注1)等価可処分所得は1997年基準の物価水準で調整済み。
注2)等価可処分所得が1000万円を超える者(1997年は全体の1.4%、2018年は同0.8%)を除いて描画。 - 雇用所得や事業所得など、働いて得られる所得である稼働所得について、世帯主年齢65歳未満の世帯(左側)に属する者、世帯主年齢が65歳以上の世帯(右側)に属する者に分けて比較すると、1997年から2018年にかけて、いずれも200万円未満の者の所得を得る者の割合が増加しているが、65歳以上の世帯においてより大きく上昇している。また下位10%点、50%点、上位10%点のいずれにおいても値が低下している。
- 機械学習の手法の1つであるCARTを用いて、中間層以上に含まれる者の特徴を決定木の形で描出し、視覚的に確認した。図表3は世帯主年齢が65歳未満の世帯に属する者について描出した、1997年の結果(左側)、ならびに2018年の結果(右側)である。いずれの年の決定木でも、最初に世帯内の所得の集中度、次に総所得に占める稼働所得の割合により分岐が生じている。換言すれば、世帯内に所得のある大人が2人以上おり、総所得に占める稼働所得の割合が高い場合に、中間層以上に分類される者の割合が高い。また、決定木に現れる独立変数は1997年と2018年で異なる。1997年では世帯内の大人の平均年齢が分岐の条件として現れ、世帯内の大人の平均年齢が低い場合にはさらに18歳未満の子どもがいないことなどが影響している。2018年のデータでは、1997年の決定木には現れなかった世帯内の大人に占める非正規雇用の割合が影響している。
- 1997年から2018年にかけて中間層以上割合が減少した背景について、要因分解の手法を用いて検討した。具体的には、1997年から2018年にかけての中間層以上割合の減少を、構成効果と係数効果の2つに分解し、それぞれの大きさを確認した。構成効果とは、中間層以上に分類される者の属性が1997年から2018年にかけて変化したことに伴い中間層以上割合がどの程度変化したかを表すもの、係数効果とは、中間層以上割合の変化のうち構成効果の効果を除いたもの、をそれぞれ表している。構成効果と係数効果がそれぞれどの程度寄与するのかを図表4に示した。世帯主年齢が65歳未満の世帯に属する者における構成効果は0.3%ポイント、係数効果は-6.0%ポイントであり、中間層以上に分類される者の属性は大きくは変化しておらず、その他の変化の影響が大きいことがわかった。世帯主年齢が65歳以上の世帯に属する者では、構成効果は-5.0%ポイント、係数効果は-8.6%ポイントであり、高齢者の増加などの影響も大きいが、それ以上に属性変化以外の変化の影響の方が大きいことがわかった。
注1)稼働所得は1997年基準の物価水準で調整済み。
注2)稼働所得が2000万円を超える者(1997年は全体の0.6%、2018年は同0.5%)を除いて描画。
政策的インプリケーション
中間層以上割合の上昇のために、両立支援策拡充による就業促進や、個人の稼働所得の上昇につながるリスキリング支援策の拡充の必要性について指摘した。
政策への貢献
労働政策立案のための基礎資料の提供。
本文
研究の 区分
プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材育成に関する研究」
研究期間
令和5年度
執筆担当者
- 高橋 陽子
- 労働政策研究・研修機構 研究員
- 篠崎 武久
- 早稲田大学 理工学術院教授