ディスカッションペーパー 23-03
縮む日本の中間層:
『国民生活基礎調査』を用いた中間所得層に関する分析

2023年4月7日

概要

研究の目的

日本の中間層の割合の推移を確認するとともに、その変化の背景にある要因を明らかにし、中間層割合の上昇に資する政策について検討すること。

研究の方法

厚生労働省「国民生活基礎調査」個票データを用いた集計。

主な事実発見

  1. 『国民生活基礎調査』の個票データを用いて計算した結果、1985~2018年の間に日本の中間層の割合は低下していた。特に1985年から2000年までの低下が大きい。2003年以降、割合は安定的に推移している(図表1)。ただし、中間層として区分される範囲をある年で固定した上で中間層の割合の推移を確認すると、2003年以降も中間層の割合が低下しているケースがある。

    図表1 中間層の推移

    図表1画像:中間層の割合の推移。1985年から2000年にかけて低下した後に、2003年から2018年にかけては、おおむね2%ポイントの幅の中で推移。2003年から2018年の間では2009年の57.3%が最低、2003年の59.3%が最高。1985年から2018年の間の中間層割合の低下は、5.8%ポイント。

    資料出所)『国民生活基礎調査』個票データより筆者ら計算。

    注1)中間層等は、等価可処分所得に基づき定義されている。

    注2)貧困層、低所得層、中間層、高所得層の範囲は以下の通り。

    貧困層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の50%未満

    低所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の50%以上75%未満

    中間層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の75%以上200%未満

    高所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の200%以上

  2. 国際比較すると、『国民生活基礎調査』を用いて計算した日本の中間層の割合はOECD平均よりも小さい。ただし『全国消費実態調査』を用いた先行研究の計算結果は、日本の中間層の割合がOECD平均よりも大きいことを示している(図表2)。使用する統計によって他国と順序が入れ替わることに注意が必要である。また、1980年代~2010年代にかけての中間層の割合の低下幅は、『国民生活基礎調査』を用いた計算結果によれば、OECD平均の低下幅より大きい(図表3)。

    図表2 中間層の国際比較

    図表2画像:2010年代中頃における日本や他国の貧困層、低所得層、中間層、高所得層の割合。2010年代中頃におけるOECD35か国平均の中間層の割合は61.5%で、日本の『全消』に基づく数字(65.2%。ただし2009年の数字)よりは小さく、『国生』に基づく数字(57.5%。2015年の数字)よりは大きい。国別の数字を確認すると、引用した4か国の中で中間層の割合が最も小さいのはアメリカ(51.2%)、最も大きいのはフランス(68.3%)である。『全消』に基づく場合は日本の中間層の割合の数字はフランスの数字に近く、他の3か国よりも大きい。『国生』に基づく場合は日本の中間層の割合の数字はフランスやドイツよりは小さく、イギリス(58.3%)に近く、アメリカよりは大きい。

    資料出所)OECD35か国平均、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本の『全消』については、OECD(2019)、Figure2.1より引用。日本の『国生』については、『国民生活基礎調査』個票データより筆者ら計算。

    注1)中間層等は、等価可処分所得に基づき定義されている。

    注2)貧困層、低所得層、中間層、高所得層の範囲は以下の通り。

    貧困層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の50%未満

    低所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の50%以上75%未満

    中間層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の75%以上200%未満

    高所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の200%以上

    図表3 中間層の変化の国際比較(1980年代から2010年代にかけて)

    図表3画像:1980年代中頃から2010年代中頃にかけての約30年間の中間層の割合の変化。OECD17か国平均では中間層の割合が2.6%ポイント低下し、貧困層+低所得者層の割合および高所得層の割合が上昇。日本でも同様に中間層の割合の低下と貧困層+低所得層および高所得層の割合の上昇が生じているが、中間層の割合の低下幅がOECD平均と比べて大きい。4か国の中ではアメリカ、イギリス、ドイツが日本と同様に中間層の割合の低下を経験しているが、いずれの国も低下の幅は日本よりも小さい。

    資料出所)OECD17か国平均、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスについては、OECD(2019)、Figure2.4より引用。日本については、『国民生活基礎調査』個票データより筆者ら計算。

    注1)中間層等は等価可処分所得に基づき定義されている。

    注2)貧困層+低所得層、中間層、高所得層の範囲は以下の通り。

    貧困層+低所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の75%未満

    中間層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の75%以上200%未満

    高所得層の範囲=等価可処分所得で測った中位所得の200%以上

  3. 中間層の割合が変化する背景について、就業の有無、高齢化、家族構成変化の観点から検証した。結果、① 中間層の割合が高い非引退世帯のシェアが低下し、中間層の割合の低い引退世帯のシェアが上昇したことが、人口全体で見た中間層の割合の低下に大きく寄与している、②  世帯内に就業者が一人でもいると、就業者がいない世帯と比べて中間層の割合が高い、ことがわかった。賃上げなど、個人ベースで見た労働所得の引き上げについて検討することに加えて、世帯ベースでの所得向上を促進する施策への配慮が必要である。
  4. 税や社会保障による再分配は、中間層の割合を引き上げる効果を持つ。引き上げ効果は引退世帯で大きく、非引退世帯で相対的に小さい。非引退世帯における引き上げ効果は、1985年より2018年の方が縮小している(図表4)。

    図表4 再分配による中間層の変化

    図表4画像:2010年代中頃における日本や他国の貧困層、低所得層、中間層、高所得層の割合。2010年代中頃におけるOECD35か国平均の中間層の割合は61.5%で、日本の『全消』に基づく数字(65.2%。ただし2009年の数字)よりは小さく、『国生』に基づく数字(57.5%。2015年の数字)よりは大きい。国別の数字を確認すると、引用した4か国の中で中間層の割合が最も小さいのはアメリカ(51.2%)、最も大きいのはフランス(68.3%)である。『全消』に基づく場合は日本の中間層の割合の数字はフランスの数字に近く、他の3か国よりも大きい。『国生』に基づく場合は日本の中間層の割合の数字はフランスやドイツよりは小さく、イギリス(58.3%)に近く、アメリカよりは大きい。

    資料出所) 『国民生活基礎調査』個票データより筆者ら計算。表 4 より作成。

政策的インプリケーション

個人ベースの労働所得の上昇に加えて、世帯ベースでの所得向上に着目した政策の必要性などについて指摘した。

政策への貢献

労働政策立案のための基礎資料の提供。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材育成に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

高橋 陽子
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

関連の研究成果

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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