資料シリーズNo.274
若者の転職動向
―「雇用動向調査(平成26年~令和元年)」二次分析―
概要
研究の目的
若者の転職の現状を把握し、脱工業化社会下における若者のキャリア形成環境の改善につながる転職のありかたを明らかにする。
研究の方法
厚生労働省「雇用動向調査」の平成26年~令和元年の上半期(1~6月)・下半期(7~12月)の事業所調査、入職者調査、計12回分を、個票情報の使用許可を得た上で累積データを作成し、ウェイトバック後の復元値を二次分析した。
分析対象:全国の16大産業に属する常用労働者5人以上の事業所、およびその事業所に調査期間中に入職した入職者のうち、以下の条件に全て該当する者。
- 入職時の年齢が29歳以下
- 最終学歴が高校卒以上
- 調査時点において「事業所調査」の回答事業所に在籍
- 現職に入職する前の過去2年間に職歴がある
- 「雇用期間の定めのない一般労働者」への入職者
- 入職した時の経路が「出向」や「出向からの復帰」以外
主な事実発見
- 先行研究の整理と「事業所調査」を分析した結果、若者にとって「優良なキャリア形成環境」を期待できる産業類型として「従来型ものづくり」「ビジネスサービス」「社会サービスの大企業・官公営事業所」が抽出された。
- 正社員から正社員への若年転職者は6年間の累計でのべ258.3万人。非正規雇用から正社員への若年転職者は同78.5万人。正社員として中途採用される若者は正社員からの転職者のほうが圧倒的に多い。
- 「優良なキャリア形成環境」を期待できる3つの産業類型のうち、「消費者サービス」の正社員から転職した人が比較的多いのは、女性は「ビジネスサービス」内の「情報サービス業、インターネット付随サービス業、映像・音声・文字情報制作業」、男性は「社会サービス(大企業・官公営)」内の「社会保険・社会福祉・介護事業」である。
- 「優良なキャリア形成環境」を期待できる3つの産業類型のうち、非正規雇用から正社員への転職者が最も多いのは、高卒では「従来型ものづくり」、大卒では「社会サービス(大企業・官公営)」であり、両学歴とも「ビジネスサービス」は二番目に多い。
単位:%、Nは実数(千人)
前職 | 学歴 | 現職産業(脱工業化産業類型※1) | 合計 | 注目する3産業類型計 | N | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
従来型ものづくり | 従来型サービス | ビジネスサービス | 社会サービス | (うち大企業・官公営)※3 | 消費者サービス | その他 | |||||
正社員 | 高校卒 | 30.5 | 26.6 | 14.4 | 7.8 | (2.9) | 20.3 | 0.3 | 100.0 | 47.8 | 738.0 |
専門学校卒※2 | 11.7 | 16.5 | 12.2 | 45.8 | (19.3) | 13.1 | 0.7 | 100.0 | 43.1 | 418.0 | |
高専・短大卒 | 14.6 | 18.2 | 15.0 | 39.1 | (15.3) | 11.4 | 1.7 | 100.0 | 45.0 | 189.6 | |
大学(文系)卒 | 14.1 | 25.8 | 28.7 | 13.0 | (9.4) | 16.1 | 2.2 | 100.0 | 52.3 | 858.5 | |
大学(理系)卒 | 21.7 | 20.0 | 14.7 | 33.0 | (23.4) | 10.0 | 0.7 | 100.0 | 59.8 | 318.0 | |
大学院卒 | 24.1 | 19.9 | 26.6 | 25.5 | (11.3) | 1.4 | 2.5 | 100.0 | 62.1 | 61.2 | |
合計 | 19.6 | 23.1 | 19.2 | 21.5 | (11.3) | 15.4 | 1.2 | 100.0 | 50.1 | 2583.3 | |
非正規雇用者 | 高校卒 | 23.4 | 29.6 | 17.4 | 10.3 | (4.9) | 19.0 | 0.4 | 100.0 | 45.7 | 298.0 |
専門学校卒 | 18.1 | 26.8 | 16.8 | 22.4 | (14.7) | 15.7 | 0.2 | 100.0 | 49.6 | 115.3 | |
高専・短大卒 | 11.0 | 18.5 | 18.1 | 44.8 | (14.6) | 7.3 | 0.4 | 100.0 | 43.7 | 61.2 | |
大学(文系)卒 | 8.5 | 31.4 | 19.0 | 27.0 | (20.0) | 12.5 | 1.7 | 100.0 | 47.5 | 198.3 | |
大学(理系)卒 | 13.5 | 30.1 | 9.6 | 43.5 | (30.5) | 1.8 | 1.5 | 100.0 | 53.7 | 91.0 | |
大学院卒 | 21.4 | 4.9 | 17.5 | 48.2 | (34.5) | 4.3 | 3.8 | 100.0 | 73.3 | 21.3 | |
合計 | 16.7 | 28.1 | 16.9 | 23.9 | (14.7) | 13.6 | 0.9 | 100.0 | 48.2 | 785.0 |
※1 脱工業化産業類型については序章参照のこと。※2 「専門学校卒」=専修学校専門課程卒(2年以上の課程)
※3 大企業=属する企業全体の常用労働者数が300人以上の回答事業所
単位:%、Nは実数(千人)
類型 | 現職産業 | 男女計 | N | 男性 | N | 女性 | N |
---|---|---|---|---|---|---|---|
従来型ものづくり | 鉱業,採石業,砂利採取業 | 3.2 | 0.4 | 2.9 | 0.3 | 6.5 | 0.0 |
建設業 | 8.2 | 138.5 | 7.4 | 117.8 | 12.7 | 20.6 | |
製造業 | 6.3 | 368.3 | 5.5 | 282.3 | 9.1 | 86.0 | |
合計 | 6.8 | 507.1 | 6.0 | 400.4 | 9.8 | 106.7 | |
ビジネスサービス | 金融業・保険業 | 3.0 | 36.4 | 2.6 | 17.7 | 3.4 | 18.6 |
不動産業・物品賃貸業 | 9.1 | 72.8 | 6.2 | 44.8 | 13.7 | 28.0 | |
学術研究・専門技術サービス業 | 6.6 | 81.4 | 4.0 | 43.9 | 9.7 | 37.5 | |
情報サービス業、 インターネット付随サービス業、 映像・音声・文字情報制作業 |
13.8 | 84.0 | 5.3 | 50.5 | 26.5 | 33.5 | |
職業紹介・労働者派遣業、その他の事業サービス | 13.1 | 220.4 | 7.4 | 99.2 | 17.7 | 121.2 | |
合計 | 10.8 | 494.9 | 5.9 | 256.0 | 16.1 | 238.9 | |
社会サービス (官公営・大規模組織) |
学校教育 | 3.4 | 40.1 | 2.4 | 22.3 | 4.7 | 17.8 |
その他の教育,学習支援業 | 0.8 | 12.8 | 0.9 | 10.4 | 2.4 | ||
医療業 | 3.5 | 183.2 | 3.7 | 48.1 | 3.4 | 135.1 | |
保健衛生 | 10.5 | 1.3 | 9.2 | ||||
社会保険・社会福祉・介護事業 | 13.5 | 46.4 | 25.8 | 18.1 | 5.7 | 28.3 | |
合計 | 4.8 | 293.1 | 7.1 | 100.2 | 3.6 | 192.8 |
※Nが3千人に満たない現職産業は表示を割愛した。※該当ケースが0のセルは空欄とした。
政策的インプリケーション
- 雇用の質に問題が多い「消費者サービス(飲食・宿泊、生活関連サービス)」産業の正社員から「社会保険・社会福祉・介護」の正社員へ転職した男女は、約8割が前職ではサービス職であったが、約3割が現職で専門技術職に就いており、約6割は賃金が増大していることから、社会人が学び直し資格を取得することで技能水準の高い職業へキャリアアップできる可能性が示された。
- 「情報サービス・インターネット付随サービス・映像・音声・文字情報制作業」は、女性(正社員)を専門技術職(正社員)へ中途採用する際、学歴より産業ニーズにあった専門知識・技能や就業経験を重視する可能性があり、当該分野の職業訓練の提供が非大卒女性のキャリア形成支援につながる可能性がある。また同産業には、高校卒男性(非正規雇用者)を専門技術職の正社員へ雇用する傾向もみられ、採用後に専門性を獲得できる(獲得させる仕組みを備えている)事業所の存在が示唆される。
- 「職業紹介・労働者派遣業、その他の事業サービス」業では、非正規雇用から転入する男性については、学歴問わずマニュアル職が主な正社員としての受け入れ口となっている可能性がある。
政策への貢献
フリーター等の正規雇用への転換支援、若年者の定着を課題とする企業への支援にむけての基礎資料を提供する。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材育成に関する研究」
研究期間
令和5年度
執筆担当者
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