資料シリーズNo.264
Web提供型の簡易版職業適性評価ツール
:
Gテストの検査拡充に係るプロトタイプ開発報告
概要
研究の目的
社会活動におけるデジタル化やオンラインツールの普及が加速する中、就職支援の現場でもオンラインツールやサービスへの期待が高まっている。厚生労働省の「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」(愛称:job tag)では、2022年3月のサイトリニューアルで様々な自己理解支援ツールの公開が始まり、その一つに「簡易版職業適性テスト(Gテスト)」(当機構での呼称:簡易版Gテスト)がある。これは、当機構が厚生労働省職業安定局首席職業指導官室から要請を受けて開発したプロトタイプをもとにしたシステムだが、今般、簡易版Gテストの拡充版として検査の追加開発が要請された。本報告は、その開発過程と検査の基本的性質等の分析結果について報告することを目的としている。
研究の方法
プログラム開発・Webモニター調査・オンライン実験・研究会開催
※Webモニター調査について
- 実査期間
- :2021年12月~2022年1月
- 対象
- :20~64歳の一般就業者
- 有効回答数
- :11,043件
主な事実発見
- 2022年3月に厚生労働省のjob tag上で公開された「簡易版職業適性テスト」(簡易版Gテスト)には、厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の紙筆検査で測定される適性能の中から、S(空間判断力)、V(言語能力)、N(数理能力)の3種類の検査をWeb化したものが搭載されている。開発にあたっては、事前に各Web検査の基本的性質(分布等)を確認し、job tagの職業名と接続する仕組みを設計し、搭載していた(詳細は、当機構の資料シリーズNo.244を参照)。そこで、今回開発する拡充版では、その他の適性能として、Q(書記的知覚)、P(形態知覚)、K(運動共応)に関する検査のWeb化に着手した。Qに関しては、オリジナルのGATB検査4(名詞比較検査)と同一設問をWeb化した。Pに関しては、オリジナルのGATB検査5(図柄照合検査)の設問で使用されている図柄を刷新したWeb検査を開発した。さらに、その新検査の測定機能をチェックする目的で、GATB検査5と同一図柄によるWeb検査も実験的に開発した。Kに関しては、オリジナルのGATBでKを測定する円打点検査と記号記入検査がWeb化に馴染まないため、K(運動共応)が意味する本来の動作に立ち返り、それを可能とするような動作性検査の開発を試み、結果として、オリジナルGATBとは形状も動作も全く異なる新検査(頂点移動検査)を開発した。
- Q、P、Kに関するWeb検査を、データ収集目的のシステム(Gテスト知覚編)として組み上げて、Webモニターである一般就業者(20~64歳)を対象に、検査解答データの収集を行った(調査の有効回答数は11043件)。収集したデータについて、検査の基本的性質(分布の形状、年齢段階別の得点推移等)を確認し、オリジナルのGATB紙筆検査との比較を行った。結果として、全般的に、Web化された検査はオリジナルのGATBよりも得点が低く出る傾向がみられたものの、分布の形状に問題はなく、オリジナルGATBの測定対象との適切な重なりが示唆された。Pの図柄照合検査に関しては、新しい図柄による検査と元の図柄を使った検査を比較し、測定対象の適切な重なりがあることから、新検査が元検査から代替可能と示唆された。Kの頂点移動検査に関しては、分布の形状から個人の何らかの能力差を測定できることが示されたが、測定対象となる概念については追加的検討が必要と判断された。
- Web検査の信頼性は、同一人物に同じ検査を2回受検した場合の得点状況を比較する方法(再テスト法)によって検証した。その結果、Qの名詞比較検査は.784(N=100)、Pの図柄照合検査(新検査)は.753(N=99)、Kの頂点移動検査は.665(N=100)という相関係数(信頼性係数)が得られた。妥当性の検証に関しては、同一人物にWeb検査とそれに対応する紙筆検査を受検し、その得点状況を比較することによって確認した。QとPに関しては、オリジナルの紙筆検査と類似性が高いため、両検査間の相関係数(妥当性係数)が一定程度以上確認されたが、Kはオリジナルの紙筆検査とは全く異なる形状の検査だったため、単純な相関係数の算出では関連性を見出すことが難しかった。
- Gテストはjob tagの職業検索に使用するツールであるため、今回開発したWeb検査を、簡易版Gテストの追加検査として実装するための検討を行った。QとPの新検査に関しては、職業検索の機能を検討できる段階にあると考えたが、Kの新検査は測定概念についてさらなる情報収集が必要と判断し、今回は実装を見送ることにした。そこで、簡易版Gテストで測定されるS、V、Nに加え、今回のQ、Pの合計5検査を使い、職業との接続方法を検討した。結果として、これまでの簡易版Gテストの接続方法(S、V、Nを使用した方法)を維持し、各職業グループへの接続が行われた後で、Q、Pの得点を加味した職業リストを提示する方法で実装することになった。さらに、拡充版のGテストでは、全5検査の実施を必須とするのではなく、従来の簡易版Gテストの3検査だけでも結果が出る機能をそのまま残し、「ベーシック版」と位置付けた。全検査を実施する場合は「アドバンス版」として実施することで、新検査の得点を加味した職業リストが提示されるように設計した。以上の開発によって、2023年3月公開用の最終版プロトタイプを完成させた。
今後の課題として、今回実装を見送ったKの検査の性質に関する追加的検討や、応用面として、Gテストの相談場面における有効な活用方法に関する知見の収集といった課題が考えられる。
政策的インプリケーション
本研究で開発されたプロトタイプとプログラムソースをもとに、job tag上での自己理解支援ツールの実装を適切に進めることができる。
政策への貢献
本報告に書かれたシステムは、厚生労働省において一般公開用に改修された後、「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」(愛称:job tag)上に2023年3月より公開中。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」
研究期間
令和3~4年度
執筆担当者
- 深町 珠由
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 石井 悠紀子
- 労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
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