資料シリーズNo.244
Web提供型の簡易版職業適性評価ツール:
簡易版Gテスト(仮称)のプロトタイプ開発に係る報告
概要
研究の目的
職業適性検査を含むキャリアガイダンスツールは、従来紙ベースの形態が主体であったが、近年では紙ベース以外にも、PCや、カードタイプ、シミュレーションタイプ等、様々な形態が生まれ、キャリア支援の現場での活用が進んでいる。厚生労働省の職業情報提供サイト(日本版O-NET)では、Web上での自己理解支援ツールの提供を2021年2月から開始した。
本研究の目的は、職業能力の特徴を測定するWeb提供型の簡易版職業適性評価ツールの実験版システム(プロトタイプ)の開発と、職業適性検査としての機能の検証等について報告することである。このシステムは、将来的に日本版O-NETに搭載されることを想定して研究開発が進められたものである。具体的には、厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の紙筆検査の一部についてのWebシステム化を実施した。
研究の方法
プログラム開発・Webモニター調査・オンライン実験・研究会開催
※Webモニター調査について
- 実査期間:
- 2021年1月~2月
- 対象:
- 20~64歳の一般就業者、有効回答数:11,153件
主な事実発見
- 厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の紙筆検査の中から、代表的な職業能力の特徴を測定するものとして、検査9~11(立体図判断検査、文章完成検査、算数応用検査)の3種類に絞り込んで検査機能のWebシステム化(PCやスマホでも動作可能なWebシステム化)を行い、最後に検査結果を関連する職業グループと結びつける結果表示画面の作成を行った。オリジナルの紙筆検査では、実施者が検査の進行の全てを管理するが、日本版O-NETのような誰もが自由にアクセスできるWeb上で使用されるシステムにおいては、実施者や専門家が不在の状態で実施することを想定する必要があったため、受検者が独力で一通りの検査を進行できるような開発上の工夫を行った。
- Webシステム化された3つの検査(検査A:立体図判断検査、検査B:文章完成検査、検査C:算数応用検査)について、Webモニター方式で一般就業者から解答を得た(調査の有効回答数は11,153件。うち、各検査を完了した件数は、検査Aが11,055件、検査Bが11,033件、検査Cが10,914件)。各検査の粗点合計の得点分布を図表1~3に示す。比較的偏りのない分布形状が得られたことから、このデータを使って尺度の標準化を行った。
図表1 検査A合計得点の分布(N=11,055)
図表2 検査B合計得点の分布(N=11,033)
図表3 検査C合計得点の分布(N=10,914)
- Webシステム化された同検査を同一人物に2回受検してもらい、その得点状況を比較する方法(再テスト法)を用いて、検査の信頼性を検証する実験を行った。その結果、検査Aは.740、検査Bは.749、検査Cは.735という相関係数(信頼性係数)が得られた(N=108)。さらに、検査の妥当性を検証するため、オリジナルのGATB検査9~11(紙筆検査)とWebシステム化された同検査を同一人物に受検してもらい、得点状況を比較する実験を行った。その結果、紙版とWeb版のどちらを先に受けたかに関係なく、全体として、受検者の両検査間の相関係数(妥当性係数)が一定程度以上確認された(Web版を先行受検し紙版を後で受けた群(N=52)では、立体図判断検査が.602、文章完成検査が.714、算数応用検査が.723。紙版を先行受検しWeb版を後で受けた群(N=58)では、立体図判断検査が.552、文章完成検査が.657、算数応用検査が.776)。以上の結果から、今回開発されたWebシステムの検査機能は一定以上の妥当性を有していると結論づけた。
- 本研究では、尺度の標準化に用いるバックデータを、Webモニターによる大規模調査を通じて収集し、一定以上の頑健性を保った検査機能をもつプロトタイプを開発できた。しかし一方で、個々のWebモニターの挙動を詳細に確認すると、検査の解答状況を現場で直接管理できないという限界から、検査途中で何らかのアクシデントにより脱落したり、粗点0点をとるケースも散見され、必ずしも全ての解答状況が理想的とはいえない面もあった。Webモニター調査ゆえの限界ではあるが、良質なデータを得るための工夫を継続的に検討していく必要があることも認識できた。
政策的インプリケーション
本研究で開発されたプロトタイプとプログラムソースをもとに、日本版O-NETサイト上での自己理解支援ツールの実装を適切に進めることができる。
政策への貢献
日本版O-NET上の職業能力系の自己理解支援ツールの一つとして2022年2~3月頃に公開予定。
本文
お詫びと訂正
本ページおよび本文PDFに誤りがありました。以下のとおり訂正してお詫びいたします。
なお、本ページおよび本文PDFはすでに訂正済です。(2022年1月19日)
本ページ:「研究の方法」の対象
- 誤:「20~65歳」
- 正:「20~64歳」
本文PDF:
- p.31「1.調査の目的」の最終行
- 誤:「20~65歳」正:「20~64歳」
- p.31「2-2 調査対象者」の3行目
- 誤:「20~65歳」正:「20~64歳」
- p.73 下から3行目
- 誤:「65歳まで」正:「64歳まで」
- 誤:「50~65歳」正:「50~64歳」
- p.74 図表5-5下の※部分
- 誤:「50~65歳」正:「50~64歳」
- p.74 図表5-6下の※部分
- 誤:「50~65歳」正:「50~64歳」
- p.75 図表5-7下の※部分
- 誤:「50~65歳」正:「50~64歳」
- p.99 下から9行目
- 誤:「20~65歳」正:「20~64歳」
- p.99 下から4行目
- 誤:「20~65歳」正:「20~64歳」
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:523KB)
- 第1章 本報告の背景と目的
第2章 Web 提供型の簡易版職業適性評価ツールに関する概念設計
第3章 スタート画面、出題機能および簡易結果表示画面の開発
第4章 ツールを使った就業者解答データ収集調査
第5章 尺度構成に関する検討
第6章 尺度の信頼性・妥当性に関する検討
第7章 結果表示付き自己理解支援ツール(完成版)の開発(PDF:5.2MB) - 付属資料(PDF:1.7MB)
研究の区分
研究期間
令和2年度~3年度
執筆担当者
- 深町 珠由
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
研究参加者
- 小松 恭子
- 労働政策研究・研修機構 研究員
- 田中 歩
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員(2021年4月~)
- 松原 亜矢子
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員(~2021年4月)
- 松本 真作
- 労働政策研究・研修機構 前特任研究員
- 松本 純平
- 労働政策研究・研修機構 前特任研究員
- 室山 晴美
- 労働政策研究・研修機構 特任研究員