資料シリーズNo.261
へこたれない仕事探し
―失業中の求職者を対象とした求職活動支援の研究―

2022年12月21日

概要

研究の目的

本研究の目的は、失業中の求職者が再就職を実現するため、仕事探しをしていて、つらい経験をしたり、うまくいかないことがあっても、あきらめず粘り強く仕事探しを続けることができるようになることにある。このため、心理学の知見を利用して、オンラインでの再就職支援プログラム「希望の就職が実現する秘訣―へこたれない仕事探し―」(以下「へこたれない研修」と言う。)を開発し、民間調査会社に委託して募集した117人の失業中の求職者を対象として、へこたれない研修及びモニター調査を実施し、その効果を検証した。

研究の方法

①へこたれない研修の開発

へこたれない研修はオランダの研究者グループが開発した習得目標志向性研修(learning goal orientation training)を参考としている(Van Hooft & Noordzij, 2009; Noordzij, Van Hooft, Van Mierlo, Van Dam & Born, 2013)。この研修は、参加者が自己調整(self-regulation)、つまり「自ら考えて動く」仕事探しができるようになることを目的とする。

習得目標志向性研修では、トレーナーは参加者に対し、就職できたかどうかといった仕事探しの結果に注意を向けるよりも、そのプロセスにおいて、仕事探しに関連したノウハウを習得したり、知識を学ぶことなど、自分自身の成長に注意を向けるように働きかける。この働きかけにより、書類選考で落とされたり、採用面接で不調に終わるなど、採用する側から拒絶されても、その経験を新たなノウハウや知識を習得する機会と捉えることができるようになる。その結果、再就職の可能性を高めることが現場実験から実証されている(Van Hooft et al., 2009; Noordzij et al., 2013)。

本研究は、この習得目標志向性研修を、ハローワークでの活用を想定し、現場で実施が可能な再就職支援セミナーとするため、次の3点を中心に変更した。

  1. 習得目標志向性研修は対面でのグループワークが中心だが、コロナ禍の影響により、対面での研修の実施が難しいことから、オンラインでの研修プログラムへと変更した。
  2. 習得目標志向性研修は、1週間の期間を空けて2回実施する、全体で6時間の研修プログラムだが、ハローワークで実施する際、参加者の負担が大き過ぎることが考えられる。このため、1回1時間の研修プログラムへと大幅に期間と時間を短縮した。
  3. 習得目標志向性研修は、仕事探しを通して自分自身が成長するプロセスに注意を向ける方法として、トレーナーと参加者の1対1のカウンセリングをベースとしたグループワークだが、より効率性を重視し、参加者一人一人が個別のワークに従事する集合研修へと、その実施方法を簡便にした。

詳しくは、JILPT資料シリーズNo.241『自ら考えて動く仕事探し―求職活動支援の研究―』(労働政策研究・研修機構,2021)を参照のこと。

② モニター調査の実施

モニター調査ではへこたれない研修を含め3種類の研修プログラムを実施した。成功体験を思い出し、それらの体験を分析することにより、自分自身の長所や強みを理解する「仕事の経験から長所や強みを見つけよう!」研修プログラム(以下「成功体験ワークショップ」と言う。)、履歴書の書き方、そして採用する側にアピールできる志望動機の書き方の習得を目的とした「知ってトクする履歴書の書き方-グッとくる志望の動機を書こう!」研修プログラム(以下「履歴書作成指導研修」と言う。)、そして、へこたれない研修である 。

実験計画としては、へこたれない研修を実験群とし、成功体験ワークショップを比較群とした。履歴書作成指導研修は、ハローワークで一般的に実施されている就職支援セミナーであることから統制群とした。

いずれの研修も2021年9月下旬に2週間をかけてオンラインで実施した。研修プログラムの時間は60分程度だが、オンラインでの実施のため、その準備や研修後のアンケート調査の説明も含め、所要時間は90分とした。

アンケート調査は全体で6回実施した。その内訳は、モニター調査の対象候補者を選択するためのモニター簡易調査、研修プログラムの参加前、参加の直後、そして研修プログラムの実施日から2週間後、4カ月後、6カ月後の計6回の回答を求めた。調査に要する標準時間はいずれも15分程度であり、すべてWeb調査で実施した。

主な事実発見

① 再就職の成功

変数減少法による二項ロジスティック回帰分析の結果、へこたれない研修は、成功体験ワークショップや履歴書作成指導研修といった従来型の研修プログラムと比較して、再就職の成功の可能性が高くなることが示唆された。

再就職の成功は、求人への応募、面接試験の受験、内定の通知、就職の有無の4つの指標から検討した。へこたれない研修だけが内定の通知の有無において、その効果が有意に認められた。他の再就職の成功の指標は、いずれの研修プログラムも有意な効果が認められなかった(図表1参照)。

図表1 変数減少法による二項ロジスティック回帰分析の結果

図表1画像

内定の通知の有無に対して、変数減少法による二項ロジスティック回帰分析をかけた。従属変数として、①内定の通知を受けたかどうかを選択し、独立変数として、性別(女性=1、男性=0)、年齢層(30代=1、40代=2、50代=3)、求職活動実績(項目平均値)、へこたれない研修(参加=1、不参加=0)、成功体験ワークショップ(参加=1、不参加=0)、履歴書作成指導研修(参加=1、不参加=0)を投入した。

† p<.10. * p<.05. ** p<.01

内定の通知を受けることは、求人への応募や面接試験の受験と比較して、どれだけ求職活動をしたかといった“量”よりも、どのような求職活動をしたのかといった“質”が重要であることが考えられる。このため、へこたれない研修は求職活動の質を高めることにより、内定の通知を受けることに効果を発揮したことが考えられる。

② 求職活動意図と求職活動実績

反復測定分散分析の結果、研修前と研修直後で比較すると、求職活動実績(調査時点より前の2週間の間、実際に実施した求職行動の頻度を測定)はいずれの研修プログラムも、その効果は有意ではなかったが、求職活動意図(調査時点以降の2週間の間、仕事探しをしようと思う意志の強さを測定)については、いずれの研修プログラムも効果が有意であった(図表2参照)。これらの結果から、参加者は今回の研修に参加することによって求職活動意図は強くなったが、その意図が求職活動実績として行動化に至らなかったことになる。

この原因の一つとして、コロナ禍の影響により、求職活動意図は高くても行動化の機会が制限され、求職活動実績へと反映されなかったことが考えられる。その一方で、へこたれない研修は唯一、内定を受けることに効果を発揮したことから、求職活動の質は上がっていたことが考えられる。

図表2 研修プログラム間の心理的メカニズムの違い

注) 研修内容(参加者間3水準)×測定時(参加者内2水準)の2要因の反復測定分散分析を行い、測定時の主効果が有意であった研修プログラムを対象に、Bonferroniの方法による多重比較を行い、有意な違いが認められた心理的メカニズムと求職活動実績の結果を整理したものである。+は研修前よりも研修直後に項目平均値が有意に上がった変数であり、-は研修前よりも研修直後の項目平均値が有意に下がった変数である。

③ 目標志向性と認知的自己調整機能

反復測定分散分析の結果、研修前と研修直後で比較して、へこたれない研修は有意にマスタリー目標志向性(自分自身の成長に注意を向ける傾向)が高くなる一方で、パフォーマンス回避目標志向性(結果がうまくいかないことを怖れ積極的に行動しない傾向)は低くなった。パフォーマンス接近目標志向性(結果を出すため積極的に行動する傾向)には有意な違いが認められなかった(図表2参照)。これらの結果は、習得目標志向性研修の効果を検証する研究の結果と齟齬のないものであった(Noordzij et al., 2013)。

習得目標志向性研修のワークでは、参加者が仕事探しにおいて自分自身の成長に注意が向くようにするため、成長目標の立て方を学び、実際に成長目標を立てる課題を体験する。これに対し、へこたれない研修では、参加者が仕事探し成長シートを活用して、求職活動のプロセスで身に付けることができたり学べることに注意を向けるといったより簡便な方法で習得目標志向性研修と同様な効果があったと考えられる。

認知的自己調整機能については、失敗をしてもそこから学ぶ「失敗からの学習」、現状のやり方だけでなく、もっとよいやり方はないかと幅広く戦略を意識する「戦略の意識化」、効果的な求職活動ができるという信念である「求職活動自己効力感」の3つの観点から検討した。反復測定分散分析の結果、研修前と研修直後で比較して、へこたれない研修は、いずれの認知的自己調整機能も有意に高くなった(図表2参照)。

【引用文献】

Van Hooft, E. A., & Noordzij, G. (2009). The effects of goal orientation on job search and reemployment: a field experiment among unemployed job seekers. Journal of Applied Psychology, 94(6), 1581-1590.

Noordzij, G., Van Hooft, E. A., Van Mierlo, H., Van Dam, A., & Born, M. P. (2013). The effects of a learning‐goal orientation training on self‐regulation: A field experiment among unemployed job seekers. Personnel Psychology, 66(3), 723-755.

労働政策研究・研修機構. (2021). 自ら考えて動く仕事探し―求職活動支援の研究―. 労働政策研究・研修機構.

政策的インプリケーション

へこたれない研修の参加者は、仕事探しがうまくいかなくても、その経験から学ぼうとする姿勢が強くなるとともに、失敗を怖れず、今までとは違った仕事の探し方に挑戦する気持ちが強くなり、自信を深めるようになるなど、自ら考えて動く仕事探しのプロセスを促進することが明らかにされた。また、成功体験ワークショップや履歴書作成指導研修といった従来型の研修プログラムと比較して、再就職の成功の可能性が高くなることも示唆された。ただし、へこたれない研修が再就職の成功の可能性に及ぼす影響については、失業中の求職者の前職の就業形態や勤務形態等のキャリアに関連する要因も考慮に入れて検討する必要がある。今回の実験では研修の参加者を無作為に3種類の研修プログラムに振り分けたが、その参加者のキャリアについては偏りがあり、実験条件としては必ずしも均質なグループではなかった問題が指摘できる。

政策への貢献

当機構では厚生労働省から求職者の早期再就職を目的とした就職支援セミナーの研究開発の依頼を受けていた。この依頼を受け、へこたれない研修を厚生労働省と共同で開発した。

本文

お詫びと訂正(2022年12月27日)

本報告書の本文P17の図表1-1-9には別の図表が掲載されていました。お詫びして訂正いたします。なおHP掲載の本文には、訂正を反映しております。

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業相談・紹介技法と求職活動の支援に関する研究」

研究期間

令和2~3年度

執筆担当者

榧野 潤
労働政策研究・研修機構 統括研究員
石川 智子
労働政策研究・研修機構 研究助手
西垣 英恵
労働政策研究・研修機構 研究助手

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