資料シリーズ No.190
介護人材を活かす取組―キャリアアップと賃金―
概要
研究の目的
介護労働者の確保と質の向上が喫緊の課題となっている中、介護労働の実態等が必ずしも正しく伝わっておらず、労働者が十分に確保されているとはいえない状況にある。
本研究は、統計データを分析して、介護事業を行う事業所にとって介護労働者の確保、育成に有効な取組、介護労働者の賃金プロファイル等を明らかにするとともに、先進的取組を行っている事業所からのヒアリング結果から有効な取組を整理し、これら研究を通じて得られた知見が、企業の取組、政策の立案へ反映されること等を通じて、介護労働者の確保、定着の推進に寄与しようとするものである。
研究の方法
公表統計の整理、介護職に関する既存調査の二次分析、インタビュー調査(21事業所)
主な事実発見
(1) 介護労働者の定着意識と「キャリアアップの仕組み」との関係
(「平成26年度介護労働実態調査」(介護労働安定センター)の二次分析)
介護労働者を介護職員、訪問介護員に分け、それぞれ正規職員と非正規職員と4つのカテゴリーに区分し、サービス提供責任者を加えた5つのカテゴリーごとに分析を行った。
- 介護職員については、キャリアアップの仕組の整備が定着につながること。
- 訪問介護員等については、キャリアアップの仕組の整備と定着の間に関係は見られないが、正規職員については、介護能力を適切に評価する仕組、非正規職員については、介護能力に見合った仕事への配置が密接な関係があること。
また、働き方やキャリアについて上司と相談する機会の設定も定着意識と関係があること。
これらについて、訪問介護員等については、ひとつの組織内でキャリアを積んでいく(内部労働市場型の働き方)のではなく、外部労働市場(職能別労働型の働き方)を意識しながら複数の組織でキャリアを積んでいくものが多いことから違いが生じており、介護職員と訪問介護員とでは、異なったきめ細かな対応が必要。
(2) 介護労働供給と賃金プロファイルとの関係
(2012~2015年の「賃金構造基本統計調査」の個票データの二次分析等)
各都道府県の介護サービス職種の求職者比率と福祉施設介護員の賃金水準との間には、賃金水準が一定水準の高さになるまでは正の相関関係が認められることから、介護職種の賃金水準が他職種に比べて低い地域では、賃金水準の引上げが求職者を増やす可能性があること。
4年分のデータを利用し、勤続年数ごとの賃金水準から、ケアマネージャー(正社員・正職員)、ホームヘルパー(正社員・正職員以外)等の賃金プロファイルを抽出し、学歴別の女性労働者と比較した(これら職種は女性比率が高いため)。
ケアマネージャー、ホームヘルパーのプロファイル(地域ブロック別)は同じ就業形態の高専・短大卒者より高い水準にあること、福祉施設介護員のプロファイル(都道府県別)は、高卒者と高専・短大卒者の概ね中間に位置し、一部では高専・短大卒に近い水準にあること。
(3)介護労働者の定着・満足度を高めるための事業所の取組
(全国21事業所等に対するヒアリング調査)
介護労働者の定着・満足度の高いと考えられる介護事業所等の取組を整理した。
1.賃金制度・評価制度の充実及びキャリアパスの明確化 2.休暇制度や労働時間等の改善、育児支援などによる働きやすい環境づくり、3.研修制度や資格取得支援の充実など人材育成――と大きく3つのカテゴリーに分類できること。
人材育成に取り組み姿勢が熱心であること、コミュニケーションを豊かにし、やりがいを感じられる機会を増やすこと等も重要であること。
介護労働者の全てが管理層になることを目標としているわけではなく、介護の現場で技能を磨き上げることや人に満足感や安らぎを与えることこそが喜びであるとする層も少なくないことから、きめ細かな対応が有効であること。
福祉施設介護員の相対賃金と介護サービス職種求職者比率
政策的インプリケーション
- 介護労働者の確保に当たり、介護職員についてはキャリアアップの仕組の整備、訪問介護員については、介護能力を適切に評価する仕組(正規職員)、介護能力に見合った仕事への配置(非正規職員)が定着意識を高める上で有効であり、事業主の取組を促すことが必要であること。
- 介護職員と訪問介護員ではキャリア形成の仕方が異なること、管理層になることを目標とする層、現場で技能を高めて活躍することを目標とする層などニーズも多様であること等から、介護労働者の確保に当たっては、きめ細かな対応が必要であること。
- 介護職種の賃金水準が他職種と比較して低い水準にある都道府県では、賃金水準の引上げが求職者を増やす余地があると考えられ、都道府県ごとに実態を踏まえた対応をすることが効果的であること。
- 都道府県ごとに福祉施設介護員の賃金プロファイルをみると、高卒者と高専、短大卒者の概ね中間に位置するなど、必ずしも低い水準にあるわけではなく、求職者に正しく情報提供することが効果的であること。
政策への貢献
都道府県レベルで介護人材確保対策を議論する際の基礎的資料として活用されることが期待される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:271KB)
- 第1章 介護労働者の確保に向けて(PDF:674KB)
- 第2章 介護職の定着と「キャリア・アップの仕組み」の整備―職種と雇用形態に注目して(PDF:940KB)
- 第3章 介護労働供給増に向けた賃金水準とプロファイル(PDF:12.8MB)
- 第4章 介護労働者の定着・満足度を高めるための事業所の取組(事業所ヒアリング結果)(PDF:1.3MB)
- 《コラム》「資格取得促進」のもたらす効果(PDF:468KB)
- 資料編(PDF:1.3MB)
研究の区分
プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」
サブテーマ「企業における能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」
研究期間
平成27年度 ~ 平成28年度
研究担当者
- 佐藤 博樹
- 中央大学大学院戦略経営研究科 教授
- 中山 明広
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 大木 栄一
- 玉川大学経営学部教授
- 高橋 陽子
- 労働政策研究・研修機構 研究員
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部次長
- 吉田 和央
- 労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員
関連の研究成果
- 資料シリーズ No.161『介護人材確保を考える』(2015年)
- 労働政策研究報告書No.168『介護人材需給構造の現状と課題』(2014年)
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