資料シリーズ No.188
地方における雇用創出 ―人材還流の可能性を探る―

平成29年3月31日

概要

研究の目的

わが国全体でみると雇用情勢の改善傾向が続き、産業界では人手不足の状態が顕在化している。もっとも、人手不足の大きな背景には少子高齢化の進行等による人口減少傾向があるが、とりわけ地方では、若者を中心とした人材流出が続くことも合わせ、人材確保の困難が深刻化している。労働条件等の雇用機会の地域差が解消されず、人材流出が続く限り、地域経済は縮小の悪循環に陥る危険性も考えられよう。

こうした中、国・自治体双方において、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定など、若者の地元定着やUIJターン促進、地域の雇用創出が推進されている。地方において良質な雇用機会を創出することが、人材流出を食い止め、地域経済の悪循環を回避するために急務といえるだろう。

本研究では、平成28年1月に実施したアンケート調査の詳細分析によって、若年期の地域移動の背景や地方への人材還流の可能性を検討するとともに、地域雇用創出やUIJターン促進の取組みについてヒアリング調査を行ったものである。

研究の方法

アンケート調査分析、ヒアリング調査

主な事実発見

(1)地域人材流出に関わる課題の中身―雇用機会と生活環境の地域差からの検討―

地域人材流出の背景となっている雇用機会と生活環境の地域差について検討した。そして、雇用機会の面では、賃金水準などの労働条件面のミスマッチ、職種・業種等でみたときの選択肢の乏しさ、地元企業の良さがよく知られていないことなどを背景として、若者を中心とした人材流出が引き起こされていることが、アンケート調査分析、ヒアリング事例の双方からうかがえた。

(2)地域における雇用創出の実践―実践型地域雇用創造事業における取組み―

「実践型地域雇用創造事業」を例に、地域における雇用創出の実践について検討した。地域のニーズに即した効果的な取組み(事業主向け・求職者向けセミナー、商品開発等)は、就職者数、新規雇用者数といった事業期間中の雇用創出効果が上がるばかりでなく、事業期間が終了した後でも地域に根付き、様々に展開されている。なお、地域の取組みにあたっては、地域関係者の連携、外部の視点や知恵、実施者の意欲・熱意が、推進力として重要であることがうかがえた。

(3)地方への人材還流の可能性を探る―出身者のUターン移動に焦点をあてて―

地方への人材還流の可能性について、地方出身者のUターン移動を対象に検討した。Uターン(希望)は、親との関係、ライフコース、地元への愛着、地元企業の認知によって形作られる。とりわけ愛着の影響する部分は大きいが、高校時代までに地域の「働く場」を知ったことが、地域を転出した後も愛着として残り(図表1)、Uターン希望を喚起する可能性がうかがえた。

図表1 出身市町村への愛着―高校時代までの地元企業の認知程度別―
【出身県外居住者】

図表1画像

政策的インプリケーション

現在地域の抱えている問題は、産業構造・人口規模など構造的な部分によるところが大きく、雇用面の地域差を解消すること、人の流れを大きく変えることは、個々の地域が対応するには困難な課題であるとも言える。こうした構造的問題を前にして、地域の取組みがすぐに大きな成果を得ることは難しいが、現状を前に諦めるのではなく、まずは状況認識を地域で共有し、何らかの行動を起こそうという姿勢が問われていよう。

本資料シリーズで検討した厚生労働省委託「実践型地域雇用創造事業」は、直接には雇用創出を目的とする事業である。実施地域では、事業の目標を達成するために、セミナー実施・商品開発に意欲的に取り組み、それぞれ独自の成果を挙げていた。

そして、ヒアリング調査の限り、本事業実施の意義は、そうした短期的な雇用創出効果以外にもあることが確認された。端的に述べるならば、本事業は、雇用に関する問題認識を地域で共有し、雇用創出という目的に向けて地域関係者が協働するきっかけをつくっていることに大きな意義があると考えられる。地域の雇用情勢は、雇用機会の「量」に関する数値上の問題(地域間格差等)が解消されつつあるように見えるものの、賃金水準をはじめとした雇用機会の「質」には依然大きな問題を抱え、職種・業種などの面でみて地方ほど就職の選択肢が乏しいこと、地元企業の良さが十分知られていないことなども相まって、若者を中心とした人材流出をもたらしている。そうした人材流出は、地域の産業に深刻な人手不足をもたらすことはもちろん、基盤産業を中心とした地域経済の発展にとっても大きな足枷となっている。そうした構造的問題を地域関係者が認識し、少しでも流れを反転させようと試行錯誤を重ねることの意義は小さくない。

では、地方への人材還流の可能性はどこにあるのか。本資料シリーズで検討したように、出身地における雇用機会の量・質は、Uターンの決定や希望に多分に関わると考えられる。その意味で、大都市部ほど有利な位置にあるのは疑い得ない。しかし、仕事の条件面だけで人の移動が決まるものではないことも、言われてきたことである。Uターンには、家族・親族の事情やライフコース選択、地域への愛着なども大いに関わるからである。それらに加えて、地元を離れる前に「働く場」の良さをどのくらい知っていたかがUターン希望に関わるという本資料シリーズの分析結果は、今後の人材還流施策のあり方へ示唆をもたらそう。分析結果では、Uターンにおいて、「どのような雇用機会があるか」とともに、「どのくらい働く場を知っていたか」が重要な要素であることが示されている。Uターン就職決定の際に親の役割が大きいことと合わせると、まず親に地域の良さ、地元企業の良さを認知してもらうよう働きかけ、進学で転出する子どもへの情報提供を促すことも有効な方策と考えられる。

なお、地域雇用や人材流出の問題は、足早の解決を望めるものではない。その意味で、雇用創出や人材還流に短期的な成果はなかなか望みにくい部分もある。しかし、地道な実践の先にしか大きな成果は望めないのもまた事実である。構造的な困難に直面する中でも、強い問題意識をもって刺激的な実践を続ける中で、地域が自らの「生きる道」を見つけ、愛着や誇りを取り戻していく先にこそ、持続的な「働く場」の創出、そして人材還流への道筋が見えてくるものと考えられる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」

研究期間

平成28年4月~平成29年3月

研究担当者

髙見 具広
労働政策研究・研修機構研究員
高橋 陽子
労働政策研究・研修機構研究員

関連の研究成果

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