資料シリーズ No.175
適性検査を活用した相談ケース記録の分析と考察

平成28年5月31日

概要

研究の目的

本研究では、GATB(厚生労働省編一般職業適性検査)を初めとする適性検査が実施された相談ケース記録について、検査結果と相談記録内容との関連性を量的に分析し、客観的な分析結果を示すことで、相談現場に資する基礎情報を提供することを目的とする。

特にGATBに関しては、適性能得点と、個人の性格特徴や行動傾向、就職困難性を示す様々な相談特徴との間の関連性を検討し、関連のあるものとないものとを明確に提示した上で、その他の個人特性(性格特徴、相談にみられる様々な就職困難性等)との関連性をみる場合の限界や留意すべき点についても、併せて検討する。

研究の方法

GATB等検査結果付きの相談ケース記録の収集と計量分析(全361件分)
研究会での検討

主な事実発見

  • GATB適性能得点の高低とYG性格検査、就職困難性を示す相談特徴との間には、一部を除いて特に大きな関連性が見出されなかった。すなわち、GATBで測定される能力特徴と、YG性格検査で測定される性格特徴との間には、直接的な関連性はなく、能力と性格とは別物であると結論づけることができる。同様に、GATBと相談特徴との関連性についても、「動きの遅さ」等といった、運動や作業の状況を示す指標でGATBの運動共応(能力)との関連性が認められたものの、対人関係上の問題や性格特徴面、その他の行動面等については特に大きな関連性は見出されなかった。

    相談現場において、GATBの結果を対人関係上の問題や他の相談特徴と結びつけて解釈されるケースが見受けられることがあるが、本研究の量的検討においてはそのような結びつきは統計的に確認されていないため、慎重な解釈が必要と考える。

  • GATBと就職困難性を示唆する相談内容との関連性で、特に結びつきが強くみられたのは、「運動共応(K)」能力の低さと、「動きの遅さ」に関してである。「動きの遅さ」とは、職場での作業のもたつき等が本人から報告された場合や、相談現場の支援者から見て本人の動作にそのような兆候があった場合を指す
  • 運動共応(K)の高低とYG性格検査および相談特徴との関連性について、特に、次の二つの側面において影響が現れた。一つは、運動や作業の状況を直接示す指標と運動共応(K)の高低との関連性である。例えば、「動きの遅さ」、「手先の器用さ」といった相談特徴は、運動共応(K)の高低と直接連動することが自然に想像できるが、実際にその仮説を裏付けるような結果が得られた。

    もう一つは、運動や作業の様子とは直接関連しないが、二次的な影響が現れたとみられるものである。例えば、運動共応(K)の低得点者は、相談の中で本人の不活発な傾向、非社交的な様子が観察される傾向、うつや精神疾患に言及される傾向が多くみられた。この背景として、運動共応が不得意な個人には、普段から「動きの遅さ」や「手先の不器用さ」がみられ、そのことを本人が思い悩んでいる場合に、人との交わりを避けたいという不活発性として現れるという可能性が考えられる。あるいは、本人の本来の性質としては運動共応がそれほど不得意でなかったとしても、うつや精神疾患等にかかったことで一時的に活動量が落ちてしまい、てきぱき動くことが苦手となったために、GATBで実力を発揮できず、得点が伸びなかった可能性も考えられる。

    運動共応は、本人が恒常的に持つ能力の一部であり、訓練によって大幅に改善することは一般的に難しいとされる。したがって、相談現場での有効な働きかけとしては、例えば、①社会生活面での活動性をなるべく落とさないようにする、②自尊心に働きかける(例えば、本人の中で相対的に得意とする能力へ目を向ける)こと等の方法が考えられる。

図表1 相談特徴「動きの遅さ」の兆候有無の2群によるGATB適性能得点平均値

図表1画像

図表2 相談特徴における「動きの遅さ」の兆候有無とYG性格検査得点平均値(有意差のある項目に□印)

図表2画像

  • 本研究では、全体で350件を超すデータが得られ、統計的検定が可能になるなどの量的検討ができたが、一方で、プロフィールの特徴別に分類した場合、一部の特徴に含まれる観測数が少なく、統計的に安定した結果が十分に得られたとは言えない状況にある。そのため、今後も引き続き相談記録の収集を行い、これまで得られた結果の追加検証をしてゆく必要がある。同時に、今後の相談場面に資する要素として、適性面でどのような働きかけをすることが有効かという観点から知見を導出できるよう、さらに分析を深化させるべきだと考える。

政策的インプリケーション

若年就職支援機関の現場では以前からGATB等の適性検査が活用されており、特に就職困難な層の特性理解のために有効に活用されているが、現場ならではの経験則による知見や解釈は必ずしもデータ検証に裏付けされたものではなく、時に誤った解釈に陥る可能性もゼロではなかった。本研究は、その点において、データ検証による客観的な知見を提供できた点に意義があると考えている。職業相談において、印象深い少数のケースによる誤った経験則を用いることなく、客観的に検証された知見によって目の前のケースに対処することで、職業相談の質の向上に寄与できるものと考える。

政策への貢献

現時点では特に活用場面を予定されていないが、今後、データ収集が進み仮説の検証が進んだ段階で、得られた知見を踏まえて、若年来所者の特性上の困難性や特徴別にGATB等検査の解釈や活用法を示す現場向けマニュアル等として成果を活用する予定である。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」
サブテーマ 「就職困難者等の特性把握と就職支援に関する調査研究」

研究期間

平成27年度

執筆担当者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構キャリア支援部門主任研究員

関連の研究成果

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