資料シリーズ No.123
若年者就職支援機関における就職困難者支援の実態
―支援機関ヒアリング調査による検討―

平成25年6月28日

概要

研究の目的

若年者就職支援機関において、来所者の中でも特に就職困難に思われるような若年求職者について、その特徴や支援における配慮等について把握し、整理することで、今後の効果的で有効な若年就職支援のあり方を検討する上での基礎資料とすることを目的とする。

研究の方法

若年者就職支援機関として、新卒応援ハローワーク(9機関)と地域若者サポートステーション(12機関)に対しヒアリング調査を実施した。ヒアリング先の選定は、就職困難性に関連した事例を持つ等の実績がある機関を中心に選定した(結果的に都市部中心の選定となった)。

ヒアリング対象者は、日常的に若年の来所者と向き合い、支援を行っている相談担当者(支援者)を中心に各機関に適切な回答者の選定を依頼した。支援の実態を把握している職員であれば、役職や雇用形態は不問とした。1機関で複数の支援者が同時に回答する形式も受け付けた。結果として、新卒応援ハローワークでは全27名、地域若者サポートステーションでは全20名の支援者から回答を得た。

■主な質問項目
  1. 来所者の特徴(行動上の特徴、心理的背景等の特徴)、来所経緯
  2. 標準的な支援の流れ、支援方針
  3. 来所者の適性把握の方法と特徴
  4. 就職に時間がかかりそうだと判断される場合、その来所者の特徴や見極め
  5. 就職困難なケースの具体例(早期離職した来所者の動向、障害やうつ等の精神疾患が疑われる来所者の動向)
  6. 今まで実施した支援の中で印象的だった支援事例(成功事例、失敗事例等)

主な事実発見

1.来所者の困難性を察知する手がかりと、困難性への対処の仕方

若年就職支援機関の支援者が一部の来所者に接したときに、就職が決まるまでに時間がかかるのではないか等の困難性を察知する手がかりについて、4つの観点から整理した(図表1)。第一は、「本人の置かれた客観的状況・外的環境から察知される困難性」で、年齢の高さや、本人が外出・交流を避けていた期間の長さ、家庭環境、応募歴の特徴等が挙げられた。第二は、「本人自身の問題から察知される困難性」で、本人の知識面の不足(就職活動の知識、労働市場の知識、マナー違反等)や、適性検査結果による困難性の把握、心理面の問題(自己肯定感の低さ、働くことへの自覚不全、現実逃避等)、思考特徴面の問題(価値観の固定化、思い込みの激しさ、自己理解の不足)等が挙げられた。第三は、「本人と支援者との相談の場で発覚する困難性」で、支援者が来所者の所作や言葉遣い、目線等のように、外見から判断できることもあれば、コミュニケーション上の問題(指示理解の困難、会話不成立等)や、支援者への依存傾向等から把握できることが挙げられた。第四は、「セミナー等の集団行動の中で発覚される困難性」であった。具体的には、本人の受講態度や指示に対する理解度の問題、作業スピードや手先の器用さといった点から就職困難性を察知するというものであった。特にこの第四の点に関しては、適性検査を用いずに、本人の現実的な職業適性を把握する上で有効に機能するという回答が聞かれた。

図表1 就職困難性を察知する(支援者側から見た)手がかり(注)

図表1画像

(注):この図表にまとめられた「困難性」は、来所者全体にみられる困難性ではなく、一部の来所者に関して察知された困難性であることに注意する必要がある)

以上にみられる様々な就職困難性に対し、現場の支援者は基本的な心構えと具体的な対応の工夫をもって対処していた。心構えとしては、傾聴に徹することや、相手との信頼関係の構築に重点を置き、コミュニケーションが苦手な若年者にも話しやすい場を提供するよう努めていた。対応の工夫としては、心理面への働きかけ(褒めることで自尊心回復へつなげる)、本人の抱える課題の整理と提案の役割を担うこと、来所しづらくなって支援が途切れることのないような工夫、本人が「適切な社会経験」を積み上げられるような工夫をすること、支援者への依存防止等の工夫がみられた。

2.障害や精神疾患が疑われる来所者の動向と支援における配慮

来所者の一部に、障害(特に発達障害)や何らかの精神疾患が疑われる状態で来所する人がいるとの報告があった。その支援や配慮については、所内の臨床心理士等を含む複数の支援者間で検討し、医療機関への紹介が必要かどうかの判断を行っていた。その際に大きな課題となるのが、本人に(障害や疾患等の)自覚がない場合に医療機関への受診を勧める動きがとりづらいこと、医療機関側と就職支援機関側とで「就労可能」判断の見立てが異なる場合に、その後の対応がとりづらくなること等が明らかとなった。

なお、このような来所者に対して求人紹介を行う際の工夫についても回答が得られた。本人の特徴的な特性(こだわり)を得意分野として生かし、「できる作業」を見極めた上で合う企業とマッチングさせるという事例が聞かれた。また、本人の特性に関する「自己紹介書」を作成し、面接を受ける前に企業側に事前提示しておくことが奏功した事例も聞かれた。

3.就職困難性の生じやすい諸側面

若年者の就職困難性は、本人自身が抱える問題や課題に依拠する部分が大きいものの、必ずしもそれだけではなく、周囲の環境や支援者との関わり等が困難性に影響を与える可能性もあり、それらの諸側面を整理した(図表2)。①は、本人(来所者)の特性に依拠する困難性で、能力面の偏りや知識不足のほか、思考特徴のクセ等も含まれる。②は、本人の外部環境に依拠する困難性で、家庭環境(親子関係等)や生活習慣などが影響する困難性である。③は、支援者の特性に依拠する困難性で、支援者の接し方の特徴や性格、支援の得意・不得意等が影響する。④は、支援者の背景にある環境に依拠する困難性で、支援機関の得意・不得意分野、支援者自身に対する支援体制等が影響する。⑤は、本人と支援者との関係性に依拠する困難性で、相性の問題や信頼関係の程度、相互依存性の程度等が影響を与える。

なお、就職困難性が生じやすい部分とは、見方を変えれば困難性の解消につながる可能性の高い部分でもある。今後、支援者が就職困難性の高いケースに遭遇した場合にこれらの観点をもとに整理・分析することにより、問題解決を期待できる可能性がある。

図表2 就職困難性の生じやすい諸側面

図表2画像

政策的インプリケーション

就職困難な特徴を持つ一部の若年来所者への支援に関しては、本人がもつ苦手さや不得意さ(コミュニケーション、心理面での落ち込み等)に配慮した上で、その苦手さによるハードルを下げるような「歩み寄り」(例:傾聴、自尊心回復への働きかけ等)を支援者側が行い、適切な信頼関係を構築しながら進める方法が重要であること。

政策への貢献

未定(若年者就職支援機関における支援のあり方を検討する上での基礎資料としての活用が期待される)

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職困難者等の特性把握と就職支援に関する調査研究」~心理的な問題を抱える就職困難者等の調査研究~

研究期間

平成24年度

執筆担当者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
村田 維沙
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

入手方法等

入手方法

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