資料シリーズ No.165
職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査

平成28年3月28日

概要

研究の目的

本資料シリーズは、近年、進展の著しいキャリア理論・カウンセリング理論の最新の学説・研究動向等を中心に文献調査研究を行い、基礎的・伝統的な理論的動向も含めた形で各種の学説・理論動向を網羅的に収集・集約し、おもに職業相談場面において広く活用可能な形で整理し、取りまとめることを目的とした。

研究の方法

  1. 理論の選定基準

    執筆者一同で会合を行い、昨今のキャリア理論、カウンセリング理論の研究動向、最先端の知見、有力な研究結果等について議論を行い、比較的、新しい理論を中心に理論の選定を行った。また、最近のキャリア心理学、キャリアカウンセリング論、キャリアガイダンス論に関する国内外の書籍の文献調査を行い、その結果から、これまでのテキスト類では十分に取り上げられてこなかった新しい理論動向を中心に取り上げた。あわせて、すでに古典的といえる理論についても、現代の文脈において、なお、その有効性が再認識されているものについては取り上げた。こうして、本書では、従来にない新しい理論を取り上げつつ、現在の社会経済状況や問題・課題にも合致し、かつある程度の実証的な根拠も伴った理論群を取り上げた。

  2. 各項目の執筆上の工夫

    各理論の記述にあたって幾つかの工夫を加えた。まず、個々の理論的な解説が煩瑣になることを防ぐため、理論の説明自体は最大3ページまでに抑えた。また、各理論ともに、読者の理解を助けるために1つだけ図表を入れた。短いページ数で解説した理由は、各理論によって記述に濃淡・長短が出ないようにすることと数多くの理論を取り上げるためでであった。コンパクトに理論を紹介することで、個々の理論の核となる部分に焦点を絞り、真に重要な箇所のみを記述することを企図した。なお、本書に記述された内容だけでは十分な理解に至らない場合や、さらに掘り下げた研究を深めたい場合のために参照文献を必ず挙げるようにした。基本的には、書店で販売されている日本語で読める文献を中心に挙げた。

  3. 実践場面との関連性

    本書では実践場面との関連性も強く意識した。従来、理論の学習は、実践との乖離が問題となることが多かった。そこで、「職業相談場面との関わり」という項目を設けて、当該理論が実践にどのように活かしうるのか、またどのように結びつくのかを、可能な限り書き込むこととした。不十分ながらも「職業相談場面との関わり」を書き込むことで、どのように実践場面との関わりを考えれば良いのかの一例を示した。

主な事実発見

  1. 全体として二部構成として、前半部分がキャリア理論、後半部分がカウンセリング理論とした。本資料シリーズで取り上げた理論を以下に図示した。
  2. おおむねキャリア理論については、最初の項目の方が歴史的に古い理論であり、それ故、基礎的・基本的な伝統的なキャリア理論となっている。後の項目になるにつれて、より現代的な理論となり、それ故、発展的・専門的な先進的なキャリア理論となっている。従来の類似のキャリア理論の教科書・テキスト等に比べて、1980~1990年代以降の比較的新しい理論群にページを多く割いたのが特徴である。
  3. カウンセリング理論は、大きく3つのパートから構成される。カウンセリングの基礎理論群(第1項~第5項)、カウンセリングの源流となる理論群(第6項~第12項)、カウンセリングの最新理論群(第13項~第24項)である。なかでも第13項から第24項までは最新の実践理論が網羅的に紹介されており、本資料シリーズの趣旨に添うように最も多くの紙幅を割いた。
  4. キャリア理論およびカウンセリング理論の他に、補足的にキャリアガイダンス理論も取り上げた。おもにキャリアガイダンスに関わる施策・制度・体制に関する理論群がキャリアガイダンス理論編となる。日本のキャリアガイダンスの根幹となるキャリアコンサルティング施策、キャリア教育政策、管理者としてのカウンセリング論、キャリアガイダンスのデリバリー・セグメント・コストに関する理論、昨今のキャリアガイダンス論で世界的な注目を集めている社会正義のキャリアガイダンス論を取り上げた。

図表 本資料シリーズで取り上げた諸理論

図表画像

政策的インプリケーション

  1. キャリアガイダンスの根幹を支える理論的な支援

    従来、キャリアガイダンス(職業相談、キャリアカウンセリング、キャリアコンサルティング含む)理論は、1909年にパーソンズの職業指導が体系的な書籍の形にまとめられたことによって成立したと理解されている。すなわち、キャリアガイダンスは本来的に理論的な営為として開始されており、一定の考え方、一定の手順にそって進めることで理論的根拠のある相談支援を提供するものである。理論的に支援を行うことによって専門的なキャリアガイダンスと呼ぶことが可能となり、広く私的な人間関係の中で行われる相互扶助的な支援との差別化が可能となる。キャリアガイダンスを行うにあたっては、改めて理論的である必要性が示唆される。

  2. 特に公的機関等の職業相談・キャリアガイダンスで理論を知る意義

    公的機関並びにそれに準じる公式の個別支援サービスでは、理論的であることがよりいっそう重要性を増すことが示唆される。

    第一に、公的機関等におけるキャリアガイダンスでは中立性・公平性・不偏性が求められるが、そうした中立性・公平性・不偏性を支える論理として、現代の各種の学問的な用語による理論的・専門的な説明が必要となる。理論的・専門的・科学的な学術研究に基づき、一定の実証的根拠が確保されていることで、公的機関等のキャリアガイダンスの基盤が提供される。

    第二に、現在、公的機関等のキャリアガイダンスは、日本以外の先進国においても、パブリック/プライベート/ボランタリーの三者によって構成されている。多種多様な背景をもつ人員が相互に協力しキャリアガイダンスを成立させるには、互いに理解可能な共通基盤をもつ必要がある。この基盤の確立にあたって、相応の歴史と蓄積のあるキャリア理論・カウンセリング理論は有益となる。

    第三に、地方によってはキャリア理論の専門家が十分ではなく、キャリアに対する考え方が普及していない場合がある。そのため、キャリアや職業、仕事に対する考え方や意識を醸成する理論的なセンターとして、公的機関は機能することが期待される。相対的に、キャリア理論・カウンセリング理論の専門家が少ない地域で、その地域のキャリア意識の啓発普及に勤めることは公的機関等がなすべき重要な役割となる。

  3. カウンセリング理論を知る意義

    現在、キャリアの問題について相談支援を求めるクライエントは、仕事や職業の問題のみを相談に来ることは少ない。むしろ、そうしたケースは稀であり、多くの場合、キャリアの問題とあわせてパーソナルな問題、メンタルヘルス的な問題を抱えていることが多い。したがって、キャリアカウンセラーはキャリアの問題しか扱わないという、ある種の超然とした態度をとることができず、多くの場合、キャリアの問題とメンタルの問題を両面あわせて考えなければならない。そのため、キャリアガイダンスおよびキャリアカウンセリングの理論的な学習においては、より一般的なカウンセリング理論についても若干の知識があることが求められる。

政策への貢献

キャリアコンサルティング施策を中心に、幅広くキャリア形成支援政策および職業能力開発政策に資する。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

緊急調査

研究期間

平成25年4月~平成28年3月

担当者(五十音順)

新目 真紀
職業能力開発総合大学校能力開発院准教授
梅村 慶嗣
駿河台大学キャリアセンター専任講師
榧野 潤
労働政策研究・研修機構キャリア支援部門主任研究員
輕部 雄輝
筑波大学大学院人間総合科学研究科3年制博士課程
下村 英雄 ※主担当
労働政策研究・研修機構キャリア支援部門主任研究員
高橋 浩
ユースキャリア研究所、法政大学講師
永作 稔
駿河台大学心理学部准教授
松田 侑子
弘前大学教育学部専任講師
水野 雅之
国立精神・神経医療研究センター流動研究員
渡部 昌平
秋田県立大学総合科学教育研究センター准教授

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

本報告書は非売品ですが、内容をほぼそのまま書籍化し『新時代のキャリアコンサルティング』として販売しております。こちらをご利用ください。

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

お知らせ

本文16ページの「2.理論の内容(1)位置づけ」の年齢記載に一部誤記がありました。2018年6月8日に修正し、HPに掲載の本文PDFには、訂正が反映されています。

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