労働政策レポート No.11
日本企業における能力開発・キャリア形成
―既存調査研究のサーベイと試行的分析による研究課題の検討

平成 26年 5月30日

概要

研究の目的

労働政策研究・研修機構の調査研究プロジェクト「企業内外の能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」では、企業が能力開発・キャリア形成支援に関して、事業運営上の取組みや他の人事管理施策と関連付けながらどのような取組みを進めているか、また、企業の取組みを踏まえた職場の環境や労働者個人の活動の実態はいかなるものかといった問題意識の下に、調査研究を行うこととしている。

本書では、調査研究を通じて把握・分析すべき研究課題を整理するため、仕事・職場の中での能力形成及び日本企業の配置・昇進管理に関する先行研究のサーベイを行うとともに、個人の能力開発活動における時間管理の問題について分析を行った。

研究の方法

  1. 企業内の能力開発・キャリア形成に関わる既存の調査研究業績のサーベイ
  2. アンケートデータの再分析

主な事実発見

  1. 日本企業で働く人々の仕事・職場の中での能力形成に関する主要な研究業績群として、「知的熟練」に関する研究と、経験学習アプローチによる研究とを挙げることができる。知的熟練研究は、仕事の経験と能力開発の関係をインタビュー調査による詳細な実態把握により明らかにした。またそのことを通じてOJTの内実を捉える認識枠組みをも提供した。一方、経験学習アプローチは「経験学習を支援する他者」という視点を研究に取り込み、職場内での他者との交流や職場全体の雰囲気が、個人の能力形成に与える影響を明らかしている。

    こうした既存研究の成果と現在の仕事と職場の現況を踏まえると、今後の調査研究課題としては、 (1) 職場における業務管理、人事管理に影響を与える、会社の業務管理、人事管理の方針と運用について明らかにし、さらにはそれらが職場における能力形成にどのようにつながってくるかを示すこと、 (2) 職場の管理者の役割や意図・行動と、その職場で働く個人の能力形成との関連を明らかにしていくこと、などを挙げることができる。

  2. 日本企業における配置管理については、「幅広い1職能型」として特徴づけられる配置管理が広がっていることなどが明らかにされてきた。また、昇進管理については、従業員のモチベーション維持を優先した「ゆっくりとした昇進」、「遅い選抜」が多くの日本企業で行われていることなどが指摘されてきている。

    以上の既存調査研究の知見と、 (1) 管理職をめぐる選抜の強化、 (2) 正社員の「多元化」、 (3) 高年齢者雇用安定法の改正などを契機としたより高齢に至るまでの継続雇用の広がりといった現況を踏まえると、第1に日本企業の配置管理、昇進管理に関する知見がどの程度維持・変容しているのかの把握、第2に企業による配置・昇進管理の方針・活動と、その企業が行う教育訓練活動との関連を明らかにすること、第3に、企業の配置・昇進管理とその企業で働く個人のキャリア志向、能力開発活動との連関についての分析といった点を今後に向けての調査研究課題として挙げることができよう。

  3. 個人の能力開発活動において、時間管理が問題となりうる状況について既存の研究業績・統計データのサーベイ、アンケートデータの再分析を基に検討したところ、企業主導のOJTや教育訓練・研修(Off-JT)よりも、働く者自ら就業時間外に能力開発(自己啓発)を行う必要性が高い場合(介護職従事者や、建設設計・土木設計従事者など、図表1)に問題となりうる可能性が示された。この可能性が、より多くの労働者に妥当するかの検証が今後の調査研究課題となる。

図表1 忙しくて教育訓練を受ける時間がないと感じる人の割合

図表1画像

政策的インプリケーション

  1. 本書で今後の調査研究課題として挙げた、配置・昇進管理と企業の教育訓練活動との関連の解明、および配置・昇進管理とその企業に勤める個人の能力開発活動との解明は、今後進むことが予想される企業内におけるキャリア展開の「多元化」・「個別化」の中での能力開発の実態や課題を捉えることにつながる。こうした実態や課題の把握は、キャリア・コンサルティングや、能力の棚卸しを容易にする仕組みなど、企業における従業員のキャリア展開を支援する様々な施策の検討へとつながるものと思われる。
  2. また、企業の経営管理・人事労務管理が職場における能力形成に与える影響の解明や、職場における能力形成にあたってライン・マネージャーが果たす役割の解明は、企業を超えた、職場に共通の人材育成・能力開発における問題の把握や、職場を対象とする能力開発支援の構想につながりうる。さらに、育成力のあるライン・マネージャーの養成を図る企業に対する支援策などの検討も可能になると思われる。
  3. 個人の能力開発における時間不足の問題の範囲やその背景を確認することができれば、個人の時間不足の問題を解消することにつながる企業に対する支援を構想しうる。例えば、企業にとっても個人にとっても有効と考えられる社外の能力開発機会に関する情報の普及促進、といった取組みへの支援を考えることができよう。

政策への貢献

本書における研究・検討は、能力開発施策の立案に関する基礎資料として活用される予定のアンケート調査に反映される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「企業内外の能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成25年~平成26年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
高見 具広
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

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