調査シリーズ No.111
「構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査」結果
―事業展開の変化に伴い、企業における人材の採用・活用、育成戦略は今、どう変わろうとしているのか―

平成25年12月18日

概要

研究の目的

(1)企業における事業再編の実施状況と今後の見通し(2)企業が求める人材像(正社員、若年者)(3)採用・育成、雇用管理戦略の変化等を明らかにする。

研究の方法

企業2万社に対するアンケート調査およびヒアリング調査(個別企業の事例把握)

<アンケート調査の詳細>

対象は、民間信用調査機関所有の企業データベースを母集団とし、経済センサスの構成比に基づき、産業・規模別に層化無作為抽出した全国の従業員30人以上の企業2万社。平成25年2月22日~3月末日(2月1日時点の状況を把握)に実査し、2,783社(13.9%)から有効回答を得た。

主な事実発見

<アンケート調査結果より>
  1. 本調査では現在、「新たな収益源の獲得(新規市場進出を含む)」や「顧客ニーズの変化」「成長分野への戦略的な投資」「市場の成熟(需要の頭打ち)」「(自社にない技術・ノウハウを持つ)人材の確保」などを理由に、向こう3年間に事業再編を実施しようとしている企業が38.6%にのぼるほか、主力事業を現在のものから転換しようとしている企業も17.1%あることなどを明らかにした。アベノミクスによる経済活性化に向けた期待感を捉え、企業が今後、積極的な事業展開に打って出ようとする姿勢を浮かび上がらせたと言える。今後の事業再編は、国内の雇用者総数の「増加に寄与する(と思う)」企業が半数を超えており(55.8%)(cf:「減少に寄与する(と思う)」 9.0%)、事業展開が今後の雇用増にプラスに働く可能性も示唆された。

  2. こうした変化などを背景に、企業における人材の採用・育成、雇用管理戦略も変わろうとしている。正社員に求める能力・資質について尋ねると(複数回答)、上位から「リーダーシップ、統率・実行力」(52.1%)、「専門的な知識・技能、資格」(49.9%)、「業務を完遂する責任感」(49.7%)、「(部下等の)管理、指導・育成力」(49.4%)などがあがった。さらに、これまでと今後を比較すると、「ストレスコントロール力」や「事業や戦略の企画・立案力」「新たな付加価値の創造力」「グローバルな視野や国際コミュニケーション能力」「コスト意識・財務センス」などが顕著に上昇しており、今後、正社員に求められる能力・資質としての位置づけが高まっていることが分かる(図表1)。また、若年者の新規採用に当たっても、即戦力とポテンシャル(潜在能力)を「どちらも同じくらい重視」しつつ、これまでの「即戦力重視」優勢から「ポテンシャル重視」優勢へ転換しようとしている。

    図表1 正社員にこれまで求めてきた能力・資質と今後求めるもの

    図表1グラフ

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  3. そうした中で今、自社の競争力を高めるために強化すべきものとして「人材の能力・資質を高める育成体系」(52.9%)に対する注目度合いが高まっている(図表2)。これに「顧客ニーズへの対応力(提案力含む)」(45.5%)、「従業員の意欲を引き出す人事・処遇制度」(39.5%)などが続く。また、従業員の持てる能力を最大限発揮させるのに重要な雇用管理事項として、上位から「能力・成果等の評価に見合った昇格・昇進や賃金アップ」(60.2%)、「上司と部下のコミュニケーションや職場の人間関係の円滑化」(51.6%)、「安定した(安心して働ける)雇用環境の整備」(51.0%)などがあがっている。企業経営において今、これらをいかに梃入れするかが重要な課題になっている様子が浮き彫りになった。

    図表2 自社の競争力の源泉と競争力をさらに高めるため強化すべきもの

    図表2グラフ

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<ヒアリング調査結果より>
  • ヒアリング調査企業では、海外進出を含む多様な事業展開に伴い、社員の意欲、関心に応じて選択してもらう応募型研修や、人事異動に直結させる選抜研修などを拡充してきた・しようとしている経緯があった。また、雇用管理上、喫緊の課題になっていることとしては、過去の新卒採用抑制に伴う技能継承の断絶期への対応、バブル入社組人材の活性化、管理職でない中高齢人材や役職定年者が65歳まで働きがいを持てる仕組みづくりなどがあり、いずれの企業も「従業員の意欲を引き出す人事・処遇制度」の構築に向けた制度改定を行っていた。アンケート調査結果を、こうした個別事例で確認することができた。

政策的インプリケーション

新規事業の開始や海外進出など、企業の積極的な事業展開姿勢を背景に、企業における人材の採用・育成、雇用管理戦略も今、業種や規模に係わらず「人材の能力・資質を高める育成体系」の強化や、「能力・成果等の評価に見合った昇格・昇進や賃金アップ」を重視する方向へ変化しようとしている。政府が6月に策定した『日本再興戦略』に合致する方向性であり、企業が積極的な事業展開とともに人材投資の必要性を見つめ直すなか、労働政策上でも人材力の強化――すべての人材が能力を高め、それを存分に発揮できる社会を構築するための環境整備等が求められている。

政策への貢献

平成25年版労働経済白書、平成25年版厚生労働白書での活用をはじめ、厚生労働省の職業安定局平成25年度雇用政策研究会報告書資料や、職業能力開発局労働市場政策における職業能力評価制度のあり方に関する研究会資料として引用された。また、内閣府 『日本経済2013−2014』にて活用された。

本文

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研究の区分

緊急調査

研究期間

平成24年度~平成25年度

調査実施担当者

荻野 登
調査・解析部長
渡辺 木綿子
調査・解析部主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.89)。

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